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【番外編】公爵夫妻のバレンタイン

こちらは、他の投稿サイト様でリクエストいただいた、バレンタインがお題のお話です。

 

 

 

 ■■

 ※エミーリア視点

 

 「いい匂いですね!」

 「ええ、本当に。全部自分で食べちゃいたいくらいだわ。」

 

 オーブンから漂ってくる匂いに目をきらきらさせながら、友人のアレクシアと義姉の王太子妃殿下が仲良く話している。

 

 今日は、アルベルタお義姉様の発案で他国の風習である『バレンタインデー』というものを体験する会が開かれた。

 なんでも、家族や恋人にチョコレートを贈るのだとか。

 アルベルタお義姉様が、手作りのお菓子にしたいと強固に主張なさるので、友人のアレクシアも誘い、台所の都合がついたうちでの開催となった。

 

 最初、アレクシアは王太子妃であるアルベルタお義姉様にどう接していいかわからず、私を通して会話していたのだけど、話題がリーンの事になった途端、意気投合した。

 なんでも、私といる時にいかに彼の乱入を防ぐか、で大変盛り上がっていた。

 私の夫はそんなに邪魔しに来てたかしら・・・・・・来てたかもしれない。

 

 「このガトーショコラというお菓子、美味しいわね。ロッテはどうして作り方を知っていたの?」

 「王太子妃殿下にそう仰って頂けるなんて光栄です。それは菓子職人である夫が教えてくれた家庭用レシピでして、子供達とよく一緒に作っていたのです。」

 

 アルベルタお義姉様に尋ねられ、本日の講師役であるロッテが、嬉しそうに答えた。

 料理長のようなプロではなくて、初心者にも作りやすいレシピを知っていそうだし、何より女性だからという理由で講師はロッテになったのだ。

 それを聞いた時の料理長は、非常に安堵した表情だった・・・。

 流石に王太子妃殿下が生徒だと緊張するのかしらね。

 

 現在、私達はロッテが見本にと作ってくれたガトーショコラを、味見と称して先に食べている。

 だって、自分達で作った物はそれぞれ相手にあげるのだから、食べられないもの。

 これと同じ味になってるといいなあと思いながら、私は最後のひとかけらを口に入れた。

 

 「んー、美味しい。リーンも美味しいって言ってくれるかしら。」

 

 私が漏らした独り言を聞きつけたアレクシアが、楽しそうに突っ込んできた。

 

 「大丈夫よ。たとえ失敗しても貴方が作ったものなら、何でも美味しいって食べてくれるわよ。」

 「嫌だ、そんなものをリーンにあげたりしないわよ!」

 

 私はぷっと膨れてそう言い返すが、アルベルタお義姉様まで頷いている。

 

 「フェリクスお義兄様も、ヴェーザー伯爵様も同じだと思いますけど。」

 「「いや、貴方の夫ほどではないわ。」」

 

 そんなに違う?

 私が不可解な顔をしていたら、ミアまで口を挟んできた。

 

 「奥様が食べてと仰れば、旦那様は食物でなくてもお食べになると思います。」

 

 ちょっと。ミアまで酷いわ!私とリーンをなんだと思ってるの。

 

 「私はそんなこと言いません!もう。・・・そういえば、ミアも一緒作っていたけれど誰にあげるの?」

 

 この話は不毛な気がして、話題転換を図ることにした。

 ミアは私達の手伝いをしてくれながら、横で一緒に作っていたのだ。それが誰用なのか気になっていた。

 

 「あ、それ、私も聞きたかったの。」

 

 案の定、アルベルタお義姉様もアレクシアもそれに食いついた。やっぱり2人も気になっていたのね。

 突然話題の中心にされたミアは動揺することもなく、あっさりと教えてくれた。

 

 「いえ、私が作っていたのは予備です。万が一、皆様の分がうまくいかなかった時用にと。」

 「そういや、三つも作ってたわね。」

 「じゃ、私達のが成功したら余るわけよね。その場合、誰にあげる?」

 「え、それは、私のではないので・・・。」

 

 ミアがロッテのほうを窺ったので、私がすかさず言い添えた。

 

 「余った分はロッテとミアで分ければいいと思うわ。で、誰にあげるの?」

 

 私達は何が何でもミアの恋話を聞きたいという気持ちになっていた。

 ミアは考えるまでもないというようにすぐ答えた。

 

 「いただけるのであれば、祖父にあげます。父と母は離れたところにいるので、近くにいる家族といえば祖父かなと。」

 「えー!恋人は?好きな人はいないの?!」

 

 恋愛ネタが大好きなアレクシアが叫ぶ。

 それを聞いたミアは突然激高した。

 

 「私だって、好きな人の1人や2人、恋人だってとっても欲しいんです!でも・・・」

 「でも?」

 

 一体何があったのか。アルベルタお義姉様が先を促す。

 そこでなぜか、ミアが私のほうをちらりと見る。

 え、なに?私がなにかした?

 

 「もしかして、仕事が忙しくてそんな暇がないとか?」

 

 それなら改善せねばと恐る恐る聞いてみれば、首を振られた。

 

 「いいえ。お休みはきちんと頂いておりますし、仕事のせいではありません。」

 「では、何が?」

 「旦那様と奥様を間近に見ていたら!普通の人との恋愛なんてできません!」

 

 わっと顔を両手で覆って嘆き出したミアに私は呆然とし、アレクシアと義姉は同情の眼差しを向けた。

 

 「まあ・・・それは、確かに。」

 「そうなるわよねえ・・・。」

 「えええっ私達のせい、なの・・・?」

 「いえ、奥様達のせいでなく、旦那様ほどに大事にしてくれそうな男の人が見つからないだけです!」

 「それは、難しいわ!」

 

 アレクシアが天を仰ぐ。

 

 「あれは特別。逆に重すぎてエミーリア以外には無理だから、貴方は普通の恋愛をしたほうが良いわ。」

 

 ミアの肩に手を置いてアルベルタお義姉様がしみじみと諭すように言う。

 いやもう本当に今日は皆なんなの。私達の扱いがひどすぎる。

 

 「でも、私もあんなふうに愛されて大事にしてもらいたいんです!」

 「そうよね、そういうのに憧れる年齢よね。よし、応援するわ!ギュンター様に騎士団に良い人がいないか聞いてみるわね!」

 「では私はフェリクス様に聞いてみましょう。」

 「え、いえその、お二方のお知り合いだと、私にはちょっと身分的にどうかと・・・。」

 「「大丈夫、任せといて!」」


 色んな人に会ってみるのもいいことよ、と慄くミアをなだめ、私もリーンに頼んでみようかしら、と考える。

 

 「皆様、焼き上がりましたよ!」

 

 ロッテのその一声でその話は終わり、皆でオーブンの前へ駆けつけた。

 

 「わあ、美味しそう!」

 「素敵!成功だわ!」

 「・・・?!」

 

 私の分だけ、膨らんでない?!

 おろおろとロッテのほうを確認すると、彼女も口に手を当てて私を見ていた。

 ・・・え、やっぱり私のだけ失敗?!


 

 

 アルベルタお義姉様とアレクシアを見送って食堂に戻った私は、テーブルに並んだ2つの箱を眺めてため息をついた。

 あの後、冷まして箱に入れてかわいくラッピングしたものだ。

 せっかく作ったのだからと、失敗したものも箱に入れ一応リボンをかけた。

 

 でも。

 食べられるとはいえ、失敗したものをリーンにあげたくはない。だからといって予備のミアが作ったものをあげるのも・・・。

 

 悩み続け、私はついに決断した。

 失敗作は未練が残らないよう、今私が食べてしまって、綺麗なものを彼にあげよう。

 思い切ってリボンを解き、箱を開け、持ってきてもらったフォークを直径15cmの不格好なガトーショコラに突き刺す。

 

 一口食べて、私はこれで良かったと思った。やっぱり味も食感も試食したものとは違う。

 甘い物がそこまで好きじゃない彼のためにビターチョコで作ったんだけど、なんか苦い気がするし、美味しいものを食べ慣れている人に食べさせるものじゃないわ。

 そう自分の気持ちにけりをつけて、次の分を切りわけ、口に運ぶ。

 

 その瞬間、がっと手首を掴まれ、フォークに刺さっていた分が消えた。

 振り返るといつの間に帰ってきたのか、笑顔のリーンが口をもぐもぐさせていた。

 

 「うん、そんなに甘くなくて美味しい!これ、僕の分でしょ?勝手に1人で食べちゃうなんてひどいよ。」

 

 そう言うなり、残りのガトーショコラを箱ごと取り上げた。

 私は慌ててそれを取り返そうと席を立って手を伸ばす。

 

 「リーン、それは失敗したものなの。あなたの分はあっちの箱。」

 「でも、それ、ミアが作ったんでしょ。」

 「なんで知ってるの?!」

 「さっきミアとロッテに聞いた。君が失敗してかなり落ち込んでるって。エミィ、最初から上手くいくことって少ないよ。それに、失敗作を食べられるのも夫の特権だと思うし、君が一生懸命作ってくれたこっちを僕は食べたいんだ。」

 「本当に食べてくれるの?美味しくないのに?」

 「僕は君の作った分しか食べたくない。」

 

 私は言葉に詰まって彼に抱きついた。

 本当は私だって自分が作ったほうを彼に食べてもらいたかったから、そう言ってくれたことが本当に嬉しかった。 

 ぎゅうっと彼を抱きしめながら私は謝った。

 

 「失敗してごめんなさい。」

 「謝ることじゃないよ、かわいい奥さん。よかったらまた作って?」

 

 頷いた私の前に、真っ赤なバラの花束が差し出された。

 驚く私にリーンが嬉しそうに笑って言う。

 

 「バレンタインって男のほうからもこうやって贈り物をするんだって。君は僕の最愛だよ、エミーリア。」

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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