番外編:公爵夫妻のクリスマス
こちらは、他の投稿サイト様でリクエストいただいた、クリスマスがお題のお話です。
※リーン視点
ここは自国よりも随分と早く日が暮れる。だからか、照明に非常に凝っていて、なおかつ発達している。
暗くなった街のあちこちに飾られたランプ類に光が灯り、夜を華やかに彩っている。
「わあ、素敵ですね。」
「ここが王都で一番大きなクリスマスマーケットなんですよ。」
前を行くエミーリアは真っ白なふわふわ素材の帽子とお揃いのコートを身に着けて、背の高いすらっとした女性に案内されている。
さらに歩き慣れない雪でふらつく度に腕を支えてもらっている。
それ、本来なら僕の役目なんだけどな。
でも、今は公務で来ているから我慢しなくちゃならない。辛すぎる・・・。
「そちらの国ではこういう行事はないのですか?」
「ええ、残念ながら。今回こうやって見ることができてよかったです。」
僕も隣の男性に話しかけられ、返事をする。彼はこの国の第三王子で今回の訪問での僕等の接待役をしてくれている。
この人も背が高く、僕と同じ淡い金のまっすぐな長髪を一つに結んでいる。
なぜか、この国の人達は総じて背が高い。
僕とエミーリアも国では背が高いほうなのだが、ここでは低く感じてしまう。
所変われば色々違うものだ。
第一王子の誕生日の祝いとついでに貿易の交渉をするべく、僕達がこの北の国を訪れたのは1週間前だった。
そして最終日の今夜、やっと時間が取れて城の泊まっている部屋から見えていた場所に来ることができた。
初日に部屋のバルコニーから夜景を眺めていたエミーリアが、ひときわ明るい場所を見つけ口には出さないけど行きたそうにしていたのを見て頼んでおいたのだ。
連日の夜会にお茶会と他国での気の抜けない社交の日々を必死でこなしてくれた妻をなんとか連れていきたいと思い、少々無理を言った自覚はある。だから、第三王子夫妻と一緒でも文句は言わない。
まあ、案内役はいるよね、わかってる。けど、本音は2人が良かったんだ・・・。
ほんの少し、残念感を漂わせながらこの国の冬の一大行事である『クリスマス』関連の品を扱うという期間限定の市場にやってきた。
可愛らしい小物から大きな木まで様々なものが売り買いされ、美味しそうな匂いもあちこちからしている。
エミーリアと第三王子妃はもうなにか買って口にしているようだ。
「リーン、これホットチョコレートですって。上にクリームがいっぱい乗っていて甘いの!」
カップを抱えて笑顔でそういった彼女の口の端にクリームがついている。
普段ならキスしてとっちゃうところだけど、まさかここでそれをやるわけにはいかない・・・。
渋々ハンカチを出して彼女の口を拭う。
「エミィ、クリームがついてるよ。」
「あら、やだ。ありがとう、リーン。」
照れたように笑う彼女に僕の手が動きそうになる。だめ、今は抱きしめるのも、禁止!
「本当に甘そうだね。僕にも一口頂戴?」
これくらいなら良いかと、彼女にねだってみた。
どうぞと差し出されたそれを飲んだ僕は一瞬固まった。
なにこれ、甘いの通り越してる。クリームにも砂糖たっぷり。
・・・彼女が喜んでいるならそれで良いんだけど。
そっと彼女の手に戻して、笑顔で礼を言う。
「あれ、私の妻も好きなんですが、もの凄く甘いでしょう?」
第三王子が後ろから小声で言う。僕もそっと頷いた。
「というわけで、私達はこちらを飲みましょう!これも名物、ホットワインです。」
「いただきます。」
喜んで受け取って早速、口に含む。
あー、美味しい。
彼とワインで温まっていたら、飲み終えたエミーリア達がやってきてお土産を買いに行くと言う。
ついていくと言ったら、第三王子に引き止められた。
「護衛はちゃんとついておりますし、買い物は女性だけのほうがいいですよ。」
え、でも僕は彼女の全てを見ていたいんですけど。
とも言えず、僕は無表情で頷き、嬉しそうに第三王子妃と腕を組んで去るエミーリアを見送った。
「噂には聞いておりましたが、リーンハルト殿の奥方への愛情の深さはすごいですね。私も妻を愛してはいますが、貴方には敵わない。」
2人がいなくなった途端、第三王子が楽しそうに話しかけてきた。
そんなこと言うなら、僕を妻と2人にしてくれたら良いのに。
そう思いながら、
「ええ、私は彼女を一生かけて幸せにすると決めてますから。」
と返せば、第三王子は目を丸くした後、破顔した。
「いやー、言いますねえ。では、我々も愛する奥方にプレゼントを買いに行きませんか?クリスマスには家族や親しい人の間で贈り物をする習慣があるのです。」
「いいですね!ぜひ、行きましょう。」
そうして北の国のクリスマスマーケットを存分に楽しんだ僕達は次の日、帰国の途についた。
1週間かけて帰り着いた屋敷に着くなり、エミーリアが呆然と立ち尽くす。
僕のほうをこわごわ振り返った彼女は、玄関ホールにそびえ立つその物体を指差して叫んだ。
「何でクリスマスツリーがここにあるの?!」
驚かせることに成功したことが嬉しくて、がばっと彼女を後ろから抱きしめる。
自分の屋敷内なら、誰にも気兼ねせず彼女に触れることができて最高!
「だって、エミィ、クリスマスツリーをとても気に入ってたじゃない。着いて直ぐに王宮内のツリーに見惚れてたでしょ。初日に注文して送っといたんだ。気に入ってくれた?」
「ええ、とっても!」
本当に嬉しそうにツリーの周りをまわって飾りに顔を近づけたり、上のほうを見ようと階段を上って行く彼女を、飾り付けてくれた屋敷の皆と見守っていたら、彼女が思い出したように階段を駆け下りてきた。
「私も皆にお土産買ってきたの。あの箱はどこ?!」
玄関ホールに次々に運び込まれる荷物の中から目的のものを見つけた彼女は、手伝ってもらいながらその荷を開封した。
中にはたくさんの色とりどりの包みがみっちり詰まっており、エミーリアが一人ひとり名前を呼んで渡していく。
まさか、一人ずつに買っているとは思わなかった。
僕も、もらう使用人達も次々出てくるお土産達に呆然としている。
「明日、お義父様とお義母様、お義兄様とお義姉様にも渡しに行くわ。あと、アレクシアにも!それから、店長と、ヴォルフと・・・」
・・・エミーリア、一体どれだけ買ったの?道理で買い物時間が長かったはずだ。
全部の荷解きは明日以降にして、寝支度をした僕は寝室の扉を開けてすぐに閉めた。
・・・先に部屋へ入っているはずの妻がいない。
少し考えて玄関ホールへ向かう。
予想通り、彼女はクリスマスツリーを2階の手すりにもたれて眺めていた。
「そんなに気に入ってくれて嬉しいよ。でも、身体が冷えるからもう部屋に戻ろう?」
優しくそう声をかければ、振り向いた彼女が僕に何か差し出した。
「これ、リーンへのプレゼント。クリスマスには家族に贈り物をするんですって。」
「うん、僕も聞いた。ありがとう、エミィ。で、これは僕から君へのプレゼント。」
受け取って、僕もポケットから小さな包みを取り出す。
僕からもらうと思っていなかったのか、彼女は驚き、花が咲いたような笑顔で受け取ってくれた。
「開けていい?」
「うん。僕も開けていい?」
「どうぞ。」
お互いその場で包みを開ける。
彼女からはガラスの飾りがついたペンで、僕からは髪飾り。
どちらもあちらで初めてみて綺麗だと感動した、雪の結晶がモチーフだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
感想、評価等いただけたら、励みになります。よかったら、お願いいたします。