4.【番外編】4歳の出会い1
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「ちょっと、エミーリア、どこへ行くの?」
「え、並ぶのに飽きたから、お庭を見てくるわ。」
「何言っているのよ、お母様に言われたでしょ、この列に並んで今日の主役のフェリクス王子にご挨拶してからじゃなきゃ遊んじゃだめって。」
「でも、お母さまはこうも言ったわ。『第1王子殿下に選ばれるのは、私似のフィーネだわね。間違ってもエミーリアはないわ。』って。だから私はこの列に並ぶ必要はないの。」
それを聞いた4歳上の姉のフィーネが盛大にため息をついて私の両手をとり、目を覗き込んできた。
母のいうことは間違ってはいない。
今、私が映り込んでいる透き通って綺麗な緑の瞳、日の光をキラキラと反射している金の髪、8歳の姉は文句なく美しい。顔の造作は父似だが。
姉の瞳に写り込んだ自分をじっくり眺めて私は首をひねる。
くすんだ灰色の髪と目。
父は黒髪に青い目、母は姉と同じ金髪に緑の目。
私の髪も目も悪くない色だと思っているが、一体どうして私一人がこの色なのか、遺伝子とやらの不思議さよ。
1つ下の弟も姉と同じく母の色を受け継ぎ、母が口癖のように、本当にエミーリアに似なくてよかった、と言っている。まあ、髪と目の色以外は私とそっくりなんだけど母は気づかないらしい。
口を開けば私のことをかわいくないというが、あの母はセンスがない。
今日も姉とおそろいの淡いピンクのフリフリドレスを着せられた。
私にこんな色は似合わないっていうのが、どうしてわからないのかしら。
祖母だったらもっと私に似合うドレスを選んでくれただろうに、今は体調を崩して寝込んでいる。
今日だって本当はこんなところじゃなくて、祖母の所に行って本を読んであげたかった。私が読むと楽しいって喜んでくれるから。
「エミィ、お母様の言うことは気にしなくていいのよ。貴方は美人だし、頭の回転が早くて賢いんだから見る目がある王子様だったら貴方の方を選ぶわ。」
姉がよくわからない慰め方をしてくれた。
王子様に選ばれることはそんなにいいことなのかしら?
何を選ぶのかわからないけれど、私は自分で選びたいわ。
「ありがとう、そう言ってくれるのはお姉さまとお祖父さまとお祖母さまだけよ。ここはお城よね?お城のお庭には、見れたら幸せになれる珍しいお花があるってお祖父さまに聞いたから、それを探したいの。だから私の分も王子さまに挨拶してきてね、お姉さま!」
「エミーリア!こら、戻りなさい!」
「もちろん、花を見つけたら戻って来るわ!その時はお姉さまも一緒に見にいきましょうね!」
私は捕まえようとしたお姉さまの手をするりと抜け、庭園の方へ走って行った。
人が居ない場所へ着くと、走り疲れた私は芝生の上にペタンと座る。
そのまま、後ろに倒れ込んで空を見た。
せっかくの王子様の誕生パーティーだが、私の気持ちと同じで天気は曇りだ。
ぼうっと空を眺めていると、あの私の髪と目と同じ色の雲に触りたくなって目を瞑って両手を空に伸ばしてみた。
空想の中だと何でもできる気がする。
もちろん雲に触れるはずもない・・・のに何かに触れた。
ふわふわの・・・何か。
え、本当に雲に触れたのかしら?!
パッと目を開けたら、目の前に弟と同じ、金の髪と薄青の目をした男の子の顔があった。
「うわああ?!」
「痛い痛い痛い!」
驚きのあまり、男の子の髪を掴んで全力で引っ張ってしまったらしい。
慌てて手を離して謝る。
「ご、ごめんなさい。驚きすぎちゃって、あなたの髪、引っこ抜いちゃった。」
手についた彼の髪を元に戻そうと試みるも、髪はくっつかずにハラハラと落ちていった。
頭を押さえてうずくまった男の子は、涙目でこちらを見上げて首を振った。
「僕が君をびっくりさせたから、悪いのは僕。痛くないし、髪はまた生えてくるから大丈夫。」
そんな泣きそうな顔で言われても、説得力がないわよ。
私は起き上がって男の子の頭に手を置くと厳かに告げた。
「お祖母さまに教わった、痛くなくなるおまじないをかけてあげるわ。いたいのいたいの飛んでいけー!あの空の雲まで飛んでいけ!」
張り切ってポーズまで決めた私の腕に男の子がすがりついて止めてきた。
「だめ!雲はだめだよ!君が痛くなっちゃうでしょ?!」
「え、なんで?私は雲じゃないから痛くならないわよ?」
「君は雲の精じゃないの?髪が雲みたいにふわふわで今日の空と同じ色なのに?」
「私は人間よ。エミーリアっていうの。この髪と目の色は、空が晴れても雨でもこの色よ。」
「そうなんだ!じゃあ、お空に帰っていかないんだね。よかった!」
男の子はどうやら私のことを雲の精だと思っていたらしい。
私のどこが精霊に見えるのかしら。
「あなたこそ、髪がふわふわだし雲の精霊じゃないの?お姉さまよりきれいな顔だし。」
「僕も人間だよ。顔は母上に似てるって言われる。家族は僕のことリーンって呼ぶよ。」
「ふーん。じゃあ、家族じゃない私はなんて呼べばいいの?」
「リーンって呼んで!」
「そう?じゃあ、リーン、あなた何さい?」
「4さい。エミーリアは?」
「同じ。4さいよ。来月5さいだけど。」
「いいな。僕はこないだ4さいになったんだ。」
「そうなの?おめでとう。あなたの4さいがすばらしい年でありますように。」
「ありがとう。君のもうすぐくる5さいもすばらしい年でありますように!」
「ありがとう。一番早い5さいのお祝いの言葉だわ。」
「僕が一番乗りだね。」
そこで二人で顔を見合わせて笑った。
それから、リーンがいいこと思いついたという風に手を合わせ、小首を傾げてこちらを見た。
「ねえ、お腹空かない?向こうに飲み物とおやつがあるから一緒に食べよ?ゲームもあるよ?」
「あなたの分でしょ?」
「食べきれないくらいあるから大丈夫。僕、1人でつまらなかったから、一緒に食べてくれたら嬉しいんだけど。」
そう言われて、誰が断れるだろうか。
それに朝から着替えだ髪だと大騒ぎで、朝ごはんをほとんど食べていなかったことも思い出した。
「じゃあ、いただこうかしら。そういえば、あなた何でこんなところにいたの?」
「姉上が、今日はこんやくしゃを決める日だからおとなしくしてなさいって言うんだけど、挨拶ばっかりでつまらないから、こっそりこっちの庭でピクニックしてたの。おやつ、こっちだよ。」
私の手を引いて歩き出したリーンについて行きながら、この子も私と同じように招待された令嬢の弟かな、と思った。
私もおやつを持参すればよかった。あの母が許してくれるとは思わないけど。
「ところで、こんやくしゃってなに?」
疑問に思ったことを尋ねると、リーンが首をひねる。
「さあ?僕も知らない。」
今朝、母が姉にこんやくしゃについてなにか言っていたような気もするけど、思い出せない。
「そう。なんなんでしょうね?こんやくしゃって。きれいな人が選ばれるらしいわよ?」
「そうなの?じゃあ、エミーリアが選ばれるね。」
「何言ってるの、私はきれいじゃないわよ?」
「そうなの?僕は今まで会った人の中で1番きれいだと思うけど。あ、あそこにおやつとおもちゃ持ってきたんだ。」
さらっときれいと言われて、その言葉に慣れていない私は、どう返していいかわからなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次も出会い編の続きです。