続編開始記念 番外編 アレクシアの回想2
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アレクシア視点
第2王子はエミーリアのことが好き。
それも重度に。
私がそのことに確信を抱いたのは、2人と知り合って数年も経った、卒業まで後数カ月という時だった。
この間、私とエミーリアの距離は縮まっていたが、第2王子と彼女の距離は広がっているようだった。
あの筆記具の件以来、第2王子からの頼み事はなく、彼女を好きだというのは私の勘違いかと思っていた時もあった。
でも、減ったとはいえ私への嫉妬の視線はあったし、彼女の髪型を変えて遊んでいたら目を見張ってこちらを見ていたこともある。
どうにもよくわからない関係の2人だ、と思っていたら、ある日突然第2王子が変わった。
「おはよう、エミーリア。今日もいい天気だね。」
から始まった、彼の彼女へのアプローチは、どう見ても第2王子がエミーリアと恋愛関係を築きたがっているようにしか見えなかった。
残念ながら彼女は全くそのことに気がついておらず、豹変した婚約者に引きまくっていたのが見ていて面白かった。
日を追うにつれて、第2王子のエミーリア大好きは誰の目にも明らかになっていき、周りもざわめき出した。
そして、今まで第2王子に媚を売っていたご令嬢達は、2つに分かれた。
これはマズイと思って公爵夫人の座を諦め、エミーリアへ近づく者と必死で第2王子を落とそうと画策する者。
どう考えても、賢いのは前者だった。第2王子の目にはエミーリア以外は映っていなかったから。
その証拠に第2王子を手に入れようと無茶をした者からどんどん潰されていった。
それを見た私は、あの王子には絶対に逆らわないようにしようと心に誓った。
「ギュンター様から見た、第2王子殿下ってどんな方ですか?」
ある休日の昼下がり、我が家のテラスで婚約者のギュンター様とお茶をしていた時に、ふと尋ねてみた。
私の知る第2王子と城での彼は違うのだろうかと疑問が湧いたためだったが、それを聞いた婚約者は一気に青ざめた。
「アレクシアも第2王子殿下のことが・・・?!」
「何を勘違いしているの?私が愛しているのは貴方だけだと何度言ったらわかってもらえるのかしら?」
ギュンター様は10も歳が離れていることをいつも気にしている。この婚約だって尻込みする彼を私が押して押して押しまくって取り付けたのだ。
だから会うたびに愛していると伝えて、逃さないように捕まえておく努力をしている。
今日も、それで安心したのか、私の愛する婚約者は安堵の吐息を漏らす。
そんなに心配するなら、もう少し私に対して愛を言葉で伝えてくれないかしら?恥ずかしいのか、なかなか言ってくれないのよね。態度では割と、結構、示してくれるのだけど。
「第2王子殿下が気になるのは、私の友達が彼の婚約者だからよ。」
「え、あの噂の婚約者の令嬢とアレクシアは友人だったのか。」
「実はそうなの。私から見た第2王子殿下は彼女のことが大好きみたいなんだけど、彼女、エミーリアは今まで全く没交渉だったからそれを信じられないみたいで。急に避けていた人を好きになって近づいてくるってことはあるのかしら?」
「何かきっかけがあれば、そういうこともあるだろうが・・・。」
きっかけ・・・ねえ。私知らないところであの2
人に何かあったのかしら。今度エミーリアに聞いてみようかな。
「後もう一つは、俺から見た第2王子殿下について聞きたいのだったか?」
「ええ。学園と城では違うかもしれないと思って。」
それを聞いたギュンター様は、腕を組んで目を閉じた。第2王子とはそう接点がないお仕事だし、無茶な質問だったかしら。
私は手元のカップを持ち上げ、中身を飲み干しつつ、婚約者をじっくりと眺めた。
考え込む精悍な顔、格好いい。ほんっと、大好き。
しばらくして彼は組んでいた腕を解いて、お茶を一口飲んでから口を開いた。
「アレクシアも知っていると思うけど、俺は第2王子殿下と仕事上ではそう会うことはない。噂にも疎いほうだ。だが、実は殿下は剣術に熱心で、よく騎士団へ練習に来ているんだ。」
「まあ、そうなの?意外だわ。」
「そうだな。本来なら守られる側のお方だからそこそこできれば十分なんだが、幼少期からずっと通っておられるんだ。」
そこで、言葉を切ったギュンター様が私をじっと見つめてきた。あら素敵。
「剣術が好きでたまらないという様子でもないのに、護衛達よりどんどん強くなってどうするのだろうと思っていたのだが、アレクシアの話を聞いて腑に落ちた。」
そこまで言って、顎に手を当てて少し言い淀む。
もしや第2王子には私に言えないような秘密が?あの男の弱みを握れたら最高なんだけど。
「先月くらいまで第2王子殿下の剣は、非常に攻撃的だった。なにか、嫌なことを忘れるためにがむしゃらに振っていることすらあったんだ。それが近頃、急に守る剣に変わった。それよりなにより、雰囲気がとても柔らかくなったんで、団長達が何があったのかと噂してたんだ。思うに、殿下は婚約者のご令嬢を守りたいと思うようなことが、最近あったんじゃないかな。」
残念。秘密でも弱みでもなかった。
うーん、第2王子を常に観察しているわけではないから、何があったかはわからないわね。
いや、待って。第2王子の方は知らないけど、エミーリアのほうなら分かるわ。いつも一緒にいるのだもの。
「そういえば、エミーリアも最近第2王子殿下を気にしてるわ!こないだなんて食堂でガラス越しに手を振り合ってて、どれだけ羨ましかったことか!」
「一緒に学園に通えず、申し訳ない・・・!」
「あら、ギュンター様、気になさらないで。一緒に通うのは羨ましいけれど、年上の包容力も捨てがたいわ!同年代よりうんと頼れる婚約者で私、幸せよ。」
ギュンター様が赤くなった。かわいいったら!
おっと、横道に逸れたわ。そうか、2人に何かあったのね。これからもっとじっくり2人を観察しなくては!
「おはよう、エミーリア。」
私が声を掛けると彼女は笑顔で挨拶を返してくれた。
そのまま授業が始まるまで、彼女の机でおしゃべりをする。
いつもなら話に集中するのだが、今日は気をつけて観察していると、彼女は誰かが教室に入って来るたびにそちらを確認している。
あ、ぱっと目を逸らした。
私も誰が来たのか、目だけで入り口を見る。
予想通り、第2王子だった。朝も早くから無駄にきらきらしい。
真っ直ぐ彼女のところに来て、嬉しそうに朝の挨拶を交わしている。
彼女はさも今、彼の存在に気がついたかのように返しているけれど、私にはバレバレよ。
・・・エミーリアは確実に第2王子を気にしているわね。好きかどうかはわからないけれど、嫌いではないわね。
これは昼にでもきっかけを聞いてみなければ。
そう思ったものの残念ながら、エミーリアから聞き出すことはできなかった。
意外と彼女の意思は強くて、言わないと決めたことはおいそれと話さない。ただ、突発事項に弱いところがあり、後はそこを突いて聞き出すしかない。
アレクシア嬢の婚約者初登場です。