続編開始記念 番外編 アレクシアの回想1
題名の通り、続編の投稿をはじめたのでこちらにも番外編を。全4回です。
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アレクシア視点
「流石、ハーフェルト公爵家は格が違うわね。」
ハイレベルな味のお菓子を味わい、これまた激ウマの紅茶を一口飲んで呟くと、向かいに座っている友人がにこにこと頷く。
「本当に美味しいわよね。だから私は今、胃袋拡張に励んでいるの。」
「胃袋拡張・・・。そうなの?旦那様は太っても何も言わないの?」
「リーンとは彼が抱きあげられないくらい太るっていう勝負をしているのよ。まだ全然達成できてないんだけど。」
「はあ?」
この友人は何を言っているのだろう。
本気で夫が抱きあげられない程に、体重を増やすつもりなのだろうか。
いや、まって。
「ねえ、エミーリア。貴方、今惚気けたわね?」
そう言った私に、きょとんとした顔を向けたところをみるに、惚気けたことに気がついてないらしい。
「貴方、どれだけ太っても旦那様に愛される自信があって、しかもしょっちゅう抱き上げてもらってるって言ったも同然よ。」
はっと気づいた顔をした彼女が、あっという間に赤く赤くなって、テーブルに突っ伏した。
そして、顔を伏せたまま、謝罪してきた。
「アレクシア、ごめんなさい。そんなつもりはなかったの。聞かなかったことにして・・・。」
私は笑いながら、嫌よ、と答えた。学生の時にだって、こんなに面白い彼女にはお目にかかったことがない。
「まさかあの第2王子の婚約者に惚気けられる日が来るなんてね。楽し過ぎて聞かなかったことにするのは勿体無いわ。」
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「あの人が例の第2王子の婚約者?」
「そう、地味でパッとしないわよね。あんな子が婚約者だなんて殿下もお可哀そう。」
彼女、エミーリアをしっかり認識したのは、学園生活も半ばを過ぎた頃、進級で同じクラスになった時だ。
そのクラスは第2王子がいるということで、女の子達が浮足立っていた。
同時にその婚約者も同じクラスにいたのだが、それに関しては皆、気にしていなかった。
なぜなら、2人の不仲は有名だったからだ。
幼い頃からの婚約者だというのに、一緒にいるところを見ない。
学園内に婚約者同士はそれなりにいて、学年が違っても昼や放課後に会ったりしているのに、その2人は同じクラスにいて会話すらない。
誰が見ても、お互いを嫌っているとしか思えない無視っぷりだ。
この国の王室は意外と恋愛結婚が多く、第2王子の兄姉も例外ではない。
ということは、現婚約者との仲がよろしくない第2王子と恋愛関係になれれば、未来の公爵夫人の座を手に入れることができるということで。
野心家のご令嬢達が色めき立っているというわけだ。
しかし、私には愛する婚約者がいるので、傍観者に徹していた。
それに、私がその時、興味があったのは目の前で自分の婚約者を奪われようとしているエミーリアの方だった。
私が彼女の立場だったら、とても辛いだろうし、なんとか阻止しようとするはずだが、しばらく観察していても彼女はそれに対する何の行動も起こさなかった。
それで、噂通りかと私は2人から興味を失った。
ところがある日、授業前に廊下で第2王子に声を掛けられた。
「アレクシア嬢、ちょっといいかな?」
爽やかな王子様スマイルでそう言われて、断れる人がどこにいるだろう。
ちょいちょいと手招きされてついていくと、あまり使われない廊下の突き当りという、密室でなく、人が来ればすぐわかり、話している内容はきかれないというベストポジションで筆記具を渡された。
「これを君のということにして、エミーリア嬢に渡してくれないか。彼女は今日、筆箱を忘れてしまったらしいんだ。」
「失礼ですが、婚約者ですよね?何故ご自分で渡さないのですか?」
至極真っ当な疑問を返したら、第2王子は一瞬辛そうな顔をして、すぐに取り繕った笑顔に戻した。
「僕から彼女に渡すのは色々と不都合があってね。」
「なるほど。では、何故私にその役を?」
再びの疑問には王子様スマイルで返してきた。
「君が彼女の敵にならないことがわかってるから、かな。・・・もう少し詳しく言うと、アレクシア嬢には愛し合ってる婚約者がいて、僕に興味がなく、エミーリア嬢に対する偏見を持っていない。」
納得すると同時に、この人がどれだけ相手を観察して的確に判断しているかということが分かって戦慄した。
これは引き受けた方がいい案件だ。
第2とはいえ、王子に恩を売れる絶好の機会だ。
怖いから関わり合いになりたくないと思っちゃだめだ。
家のため、婚約者のため!
私は引きつった笑顔でそれらを受け取った。
授業が始まる直前に戸惑うエミーリアに押し付けるように渡し、席について安堵の息を吐く。
こっそり盗み見るとエミーリアは渡したペンを使っていた。
筆記具がないというのは本当だったようだ。
ふと後方から視線を感じたので、教師に気づかれないようにそちらを窺うと、第2王子が私を突き抜けてエミーリアを見ていた。
どうやら、自分が渡したペンを彼女が使っているか確認しているようだった。
殿下、私ちゃんと任務遂行しましたからね!我が家と婚約者をお引き立てくださいませね!
「アレクシア様。今日1日貸してくださって本当に助かりました。私、誰にも借りることが出来なくて困っていたのです。」
放課後すぐに人目を忍んでやってきた彼女は、はにかんだ笑顔でそれだけ言うと、さっと筆記具を返して立ち去った。
その意外に綺麗な笑顔と素早さに唖然としていたら、見計らったように第2王子が現れて私の手からそれを奪っていった。
「ありがとう、アレクシア嬢。また何かあったらよろしくね。」
なんなの?!あの2人。人に対する礼儀がなってないわ。と、ぷんすかしていたら、次の日こっそりと机の中に包みが2つ入っていた。
それぞれ、第2王子から城で出されている焼き菓子が、エミーリアから刺繍されたハンカチが入っていた。
ああ、と私は納得した。2人とも私に迷惑をかけたくなくて接触を最小限にしてくれてたのね。
ハンカチは本当は第2王子に渡すべきなんだろうけど、ピンクの花が刺繍されてるから手数料として私がもらうことにする。
ハンカチを広げてみるとメッセージカードが落ちてきた。
それを読んだ私は、自席で本を読んでいたエミーリアのところに行き、宣言した。
「エミーリア様、私、貴方とお友達になるわ!」
本から目を上げた彼女は、周りを見回し、私と目が合うと困惑した。
「アレクシア様?私とそのようなことは・・・。」
「ええ、貴方はご親切にも自分に関わるなとご忠告くださいました。でも、私は天の邪鬼なんです。そんなこと言われたら、友達になるしかないじゃないですか。」
その日、渋るエミーリアを口説き落として昼を一緒に食べて、私達はあっという間に友達になった。
彼女は噂と違って明るい性格で、驚く程に世間を知らなかった。
普通のご令嬢なら知っているようなことも知らないので、この人は本当に公爵夫人になって大丈夫かしらと心配になった。
婚約者がこんな状態なのを第2王子は知っているのかしら?
第2王子といえば、彼も噂とはちょっと違うと思っている。
エミーリアと一緒にいると、度々、視線を感じるのだ。
それも羨ましそうな、嫉妬混じりの視線だ。
もしや、彼は彼女が好きなのでは。
そう思いはしたが、確証は得られなかった。
一日一話、昼12時に投稿します。
アレクシア嬢から見た2人はどんなだったのか。




