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番外編 貴方とお茶を

意外な組み合わせでお茶をさせてみました。番外編らしく1話です。

「苦痛だわ・・・!」

「普段、貴方と意見が合うことはないのですが、それには大いに同意いたします。」


「そうよね、たかが30分、されど30分よね。他にしたいことがたくさんあるというのに!」

「ええ、30分といえども、私も仕事が溜まっていくのですが。」



「ヘンリックとお茶だなんて耐えられない!」


「奥様とお茶だなんて苦行でしかありません!」



2人同時にため息をついて、お茶をあおる。


せっかく料理長が用意してくれた新作のお菓子も、この人と差し向かいで食べたら美味しくなさそうだ。

終わってから部屋で食べようと、そっとテーブルの端に寄せる。


それからポットから自分の分だけお茶を注ぐ。よし、準備はできた。


「まあ、せっかくの機会だから有効活用しましょ。言いたいことあると思うし、この際全部聞くわ。さあ、どうぞ。」


そう告げて、椅子に深く座り直して背筋を伸ばし、向かいのヘンリックへ手のひらを向けた。


彼はムッとした顔で、自分のカップにもお茶を満たした。


「奥様のそういうところは嫌いじゃないですがね。」


何処かでガタンっと音がしたが無視する。


向かいの漆黒の瞳を見つめながら、お茶を一口飲んで笑顔を返す。


「あら、ありがとう。最初に良いこと言われると後が怖いわね。」


「褒めてないですよ。いいたいことはたくさんあります。まず、健康は大事ですが、だからといって邸内を走るのは感心しません。昨日も階段を走り降りてコケてましたよね。」


ゴンッと音が聞こえたが、これも無視。


「うちの廊下はフカフカ絨毯が敷いてあるから、怪我はしてないわよ。」


あ、ヘンリックの額に青筋が・・・。ヤバい、怒られる前兆だわ。


「ですから!怪我してからでは遅いと何度言えばわかるのですか!こないだはぬいぐるみを縫って針を刺したでしょう!」


「あれはっ!足先を縫うのは難しくて。でも、針で刺すくらい大したことじゃないでしょ。」


「そこから菌が入ったら危ないでしょうが!」

「ええい、どこかの過保護並みに小煩いわね。そんなこと言ったらなんにもできないじゃないの!」


ドサッという音がするがそちらは見ない。


「とにかく、もっと自分の身に気を配って行動してくださいと言いたいのです。貴方に何かあれば、ハーフェルト公爵家もこの国も大損害です。」

「それはまた大げさな・・・。」


あまりの拡大解釈に私が笑うと、真剣な顔で返された。


「何を言っているのですか?いい加減、自分の立場を理解してください。貴方が寝込んだり大怪我でもすれば、リーンハルト様が仕事しなくなって多方面に実害が出るのです!とにかく、貴方には身体的にも精神的にも元気でいてもらわねば困るのです。」


ああ、そういう・・・。


納得した私が神妙に頷くと、ヘンリックがぴっと居住まいを正した。


「最後に、私は最近まで貴方のことを、特別美しくもなく、頭も性格もさほどでもなく、極々普通以下で、うちのリーンハルト様には釣り合わない令嬢だと思っておりました。」


ガッターンと大きな音がするが完全に無視する。


「それはまた酷評されたもんね。」


ダメ出し続きで最後にこれか。


陰でいろんな人に言われまくっているのは知っていたが、知り合いに面と向かって言われるのは結構胃にくる。


私は無表情で頬杖をついた。


ヘンリックが行儀が悪いと言いたげにこちらを睨んできたが、気にしない。


彼はため息を1つついただけで、小言は言わず、

「ですが、今はリーンハルト様にお似合いの方だと思っております。」

サラリと言った。


思わず手を伸ばしてヘンリックの額に手を当てる。


何処かでバサーッと音がするが、聞こえないことにする。


「熱があるんじゃないの?!え、ない?!じゃあ、働き過ぎで脳が疲れちゃったの?!」


「失敬な。私は至って健康ですよ。」

「でも、だってそれじゃあ、さっきの台詞は・・・。」


「ええ、ご結婚されてお綺麗になられましたし、意外にも屋敷の管理から領地経営まで難なくこなされ、主は随分助かっておられます。それより何より、奥様以外にあのクソ重たい愛に耐えられる女性はいない気がするんですよ・・・。」


「それはまた、嵐が来そうなくらい褒めてもらってありがとう・・・。・・・え?リーンの愛情って重いの?愛情に重さってあるの?」


初めて聞いた話に慌てて聞き返すと、ヘンリックは真面目くさった顔で深く頷いた。


「この国トップレベルの重さだと思います。」

「そんなに?!私、他の人を知らないから皆こんなものだと思ってたんだけど、違うの?」


壁際に控えるロッテとミアに意見を求める視線を送る。


2人共、すっと目を逸らした。


えええ?!


リーンの愛情って重いんだ・・・。


そうかー、鼻血吹いたり熱出すくらいだもんね。そんな人、あんまり聞かないよね。


私が顎に手をあてて考えていると、

「重い愛のどこがいけないのさ!軽い愛よりいいでしょ?!僕は君が大好きなんだもの。全力で愛してるんだから!」

遂にリーンが乱入してきた。


そらきたと私はリーンに指を突きつけ、ヘンリックは額に手をあててうなだれた。


「はい、リーンの負け〜」

「だから口も手も出さずに見守るなんて、無理だと申し上げたでしょう。」


それを受けてリーンは頭を抱えてのけぞった。


「あああ〜!もう、エミィはヘンリックに触れるし、ヘンリックはエミィのこと好きだとか言うし、反則じゃない?!」


「反則ではないです。貴方が我々のお茶会を黙って見守るという以外、決まっていませんでしたから。それから、私は奥様に好きだとは申しておりませんよ。」


リーンは頬を膨らませて、言ってた!と抗議している。めちゃくちゃ子供っぽい。


この人の愛が重いなんて、この様子からは想像できないと思うんだけど。


「そうよ、リーンが言い出したんだからね。私とヘンリックに30分間、お茶をして親睦を深めてって。しかも、『2人きりは許せないから僕の前でやって!絶対に邪魔しないから。』なんて条件で。ミアとロッテもいるのに。貴方、結局仕事進んでなくない?」


私がそう指摘するとリーンはけろっとした顔で、

「え、仕事は最初の10分で終わったけど?」

と答えて、空いている椅子に座る。


すかさずロッテが彼の前にティーセットとお菓子を置いた。


「じゃあ、僕の負けってことで、罰ゲームは秘密を一つ話すだったっけね。」


私はうん、と頷いて彼が秘密を告白するのを待つ。


彼は秘密を話さねばならないというのに、どこか嬉しそうに口を開いた。


「僕の秘密はね、夜、隣で熟睡してる妻に触れてることかな。腕の中で安心しきって寝てる妻の手や髪に触れて、頬にキスして幸せを噛み締めてるんだ。」


は?


これ、リーンの恥ずかしい秘密のはずだよね?


なのに、どうして彼は私を見ながら楽しそうに話してるの?


どうして私のほうがどんどん恥ずかしくなって顔が熱くなってきてるわけ?


だめだ、彼はまだ話す気だ。もう耐えられない、恥ずかしくて死ぬ。


そうだ、あの口を塞ごう!


「リーン、これ食べて!料理長の新作よ。」


フォークで大きめに切ったお菓子をガッと彼の口に突っ込む。


彼はものっすごく嬉しそうな顔で口を開け、それを食べた。


よし、これでしばらく喋れまい・・・!




「あーあー、奥様はまた旦那様にいいように操られてますね。」

「本当に。奥様は素直すぎるから。」

「主は見た目と裏腹に腹がどす黒いですからね。あれは、奥様にお菓子を食べさせて欲しかっただけですね。」

「ですよね。あの旦那様が寝ている奥様に何もしないわけ無いですもんね。あんなの秘密でもなんでもないわ。」

「ヘンリック様、どちらへ?」

「2人だけの世界に入ってしまって、バカバカしくなってきたので仕事に戻ります。」

「では、お茶とお菓子をそちらへお運びしますね。」

「自分達がめちゃくちゃ甘々夫婦をやっているってことに、奥様はいつ気が付きますかねー?」


ここまで目を通していただきありがとうございます。

ヘンリックといつかは話をさせねばと思っていました。

ちなみに、

ガタンっはリーンが椅子から立ち上がった音。

ゴンッはリーンが足を机裏にぶつけた音。

ドサッはリーンが分厚いファイルを机に落とした音。

ガッターンはリーンの椅子が倒れた音。

バサーッは机の上の書類が床に落ちた音。

をイメージしています。

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