3.婚約者が豹変した!
続きが書けました。一度完結にしたものの続きは難しかったです。よければ読んでやって下さい。
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sideL
「ヘンリック、せっかくエミーリアと結婚することが決まったのだから、会う回数を増やしたいのだけど。」
「リーンハルト様、結婚式までに死ぬおつもりですか?」
「なんてこというんだ。そんなわけないだろ。彼女と親睦を深めたいと思ってるだけだ。」
「今の貴方がそれをすると死に直結するような気しかしないのですが?」
「それって結婚生活数日で僕が死ぬって言ってるのと同じじゃない?」
「今のままだとそうなりますね。」
「だ、か、ら、会う回数を増やして慣れておきたいの!」
「別れが早まるだけな気もしますが、それが主の望みなら、エミーリア嬢に打診してみましょう。ちなみに案としては一緒に登下校、お昼ごはん、放課後デートなどありますが、どれにします?」
そう聞いただけで、主はハンカチを鼻に押し当てた。ほら、いわんこっちゃない。
ハンカチを赤く染めながら主が出した結論は、一緒にお昼ごはんだった。
曰く、一緒に登下校は密室な分逃げられないからリスクが大きい、放課後デートはもう少し慣れてから。とのことだった。
「エミーリア嬢、リーンハルト様が貴方とお昼を一緒に食べたいとおっしゃっているのですが。」
「え、私、いつもお友達と食べているから無理。」
「左様ですか。承知しました。ちなみに放課後デートとか一緒に登下校とか、どう思われますか?」
「私と王子が?あり得ないわね!」
「リーンハルト様、全部断られました。あり得ないそうです。」
「・・・・・・。」
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sideE
怪しい。
どうにもこうにも婚約者の王子と側近の様子が変だ。
今まで、全く関わってこなかったのに、急に一緒に昼を食べたいと言ってきた。
私にだって昼を一緒に食べる友達はいるので、即断った。
そうしたら、毎朝、第2王子から挨拶されるようになった。おはよう、と一言、たまに天気の話題がつく程度だが、驚くことに目を合わせてくる。
今まで全く言葉をかわさず、目も合わせなかった不仲な婚約者達が、結婚3ヶ月前にいきなり、交流をし始めたことに周囲は驚愕した。
しかも、第2王子のほうから友好的に話しかけているという光景は、未だに彼を諦めていなかったご令嬢達に焦りをもたらしたらしい。
速攻、お呼び出しをくらった。
まあ、無視するけどね、と靴箱に入っていた呼び出し状をクシャッと握りつぶしてゴミ箱にほうりこもうとしたら、後ろからその手を押さえられて紙を取り上げられた。
「これ、何?」
ここで聞くはずがないその声に驚いて振り返ると、本当に第2王子がいた。
シワを伸ばした紙に視線を落としたままの彼から、容姿に全く似つかわしくないドスのきいた声が発される。
「エミーリア、今からここに行くの?」
めっちゃ怖い・・・。
今まで没交渉だったので、いきなりこんなに会話が増えてもどうしていいかわからない。
「え、いやー、行かないけど。」
「そうなんだ。じゃ、僕が代わりに行って断ってきていい?」
「ヘ?断るって、そのお呼び出しを?」
「うん。だって、君は僕と結婚するんだから、今さらちょっかい出されても困るんだよ。」
ん?ちょっと待って。何か食い違ってないか?
私は恐る恐る第2王子に確認する。
「あの、そのお呼び出し、なんだと思ってる?」
「どこかの男から君への告白、じゃないの?」
やっぱり、変な勘違いをしてた。
そんなのあるわけないじゃない。
「違う違う。どちらかというと、貴方に告白したいご令嬢達からのお呼び出しよ、多分。」
「え、僕?じゃあ、なんで君が呼び出されるわけ?」
「そりゃあ、貴方の婚約者を辞めるよう私を脅すんじゃない?呼び出しに応じたことないから実際はどうかわからないけど。」
彼が纏う空気が一変した。
周囲の温度が急に氷点下に下がった気がして私は身を震わせた。
「君が急に婚約破棄したいって言い出したのは、こいつらのせい?」
こいつらって、王子様、お言葉遣いが悪うございますよ。
呼び出しをかけてきたのは庇うような相手じゃないけど、真実ではないのでここは否定しておく。
「いいえ。私1人の意思よ。まあ、こういう行為がうっとうしく思ったというのはあるけれど。」
「それは、こいつらのせいもあるってことじゃないか。やっぱり僕、ちょっと行って一言言ってくる!」
「言うって何を?!」
「僕はエミーリア以外と結婚する気はないから、こんなことしても無駄だし、次やったら潰すって。ヘンリック!彼女を送って行って!」
どこにいたのか、すぐに現れたヘンリックに私を押し付けると、第2王子はすぐさまどこかに走っていってしまった。
嘘でしょ?あれ、誰?私、今まで誰と会話してたの?
「あれ、誰?」
「我が国の第2王子殿下にして、貴方の婚約者ですが?」
思わず、呟くと、ヘンリックに真面目に返されてしまった。
この男と話すとだいたいイラつかされる。
「いや、私が知っている第2王子と違うのですけど。性格、変わってない?」
ヘンリックはわざとらしくため息をつく。
いちいちカンに触る男だわね!
「あれが、本来の殿下です。今までは、殿下の事情と、貴方が婚約破棄に奔走していたので、遠慮されていただけです。」
聞いた内容がすぐには理解できなくて、私は沈黙する。
頭の中でいろいろと咀嚼して、ヘンリックに確認する。
「事情と遠慮ってナニ・・・。でも、あの人、男の人が好きなのよね?私、偽装の婚約者なのよね?」
「それに関しましては、私はお答え致しかねます。」
「そこは、きっちり真面目に答えてよーー!」
第2王子の暴走のおかげか、以降、さっぱりと呼び出しも嫌がらせもなくなった。
代わりに、『第2王子の婚約者に手を出すと、とんでもない目に遭わされる』という噂が囁かれるようになった。
一体、ナニをやったの・・・。
「ところで、エミーリア嬢、貴方が作成した王子との偽装結婚契約書なんですけども、ご自分でお作りになったのですか?」
「そうよ?他の人に見られちゃ困る内容でしょ?」
「確かにそうなのですが。どうやってこれを?」
「紙にペンで書いたけど?なにか違う?」
「いえ、逆です。瑕疵がなさすぎて驚きました。よく、契約書の作り方なんてご存知でしたね。」
「私の部屋の蔵書、ほぼ父のお下がりだから領地経営とかビジネス書が多くって。それ参考にしたの。瑕疵がないなら契約成立ね。」
「あ、1つだけ。契約解消の条件に、お二人が両想いになった場合を入れてもらえますか?」
「ナニ?難しいこと言うね。偽装が本当になったらってこと?ないない。あるわけがない。」
「ですが、万が一ということがありますので。」
「兆が一、ないと思うけどそんなに言うなら付け足しとく?」
「お願いします。『真の夫婦になった場合、契約を破棄して、そのまま幸せな結婚生活をおくるべし』とここに書き加えて下さい。」
「はいはいっと。・・・これでいい?」
「はい、ありがとうございます。ではこちらがエミーリア嬢の分です。」
「ありがとう。じゃ、今度こそ契約成立ってことでいいわね?」
「はい。これで契約成立です。以後うちの主を、よろしくお願いします。」
「・・・アレ?待って、さっきの男が好きなら絶対有り得ない条件じゃない?」
「契約成立しております。」(にっこり)
その笑顔なんなの、怖っ!
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side L
「リーンハルト様。後始末が大変なので、もうああいうことはやらないでください。」
「なんで。僕は正当に権力を行使しただけじゃないか。」
「貴方の権力はエミーリア嬢のためにあるのではないのですよ。」
「兄上は、許可くれたよ?」
「あの方は弟馬鹿ですから。」
「ヘンリック、不敬だよ。いいじゃないか、ついでに不穏分子も一掃できたんだから。」
「それ、棚ぼたですから!そのせいで私がどれだけ働かされたか!」
「じゃ、明日から休暇あげる。温泉にでも行ってきたら?」
「それは遠慮します。私がいないと貴方の暴走を止める人がいないので。」
「暴走なんてしないよ。安心して行ってくればいいのに。」
「どの口が言うのですか?!エミーリア嬢が絡むと何するかわからないじゃないですか。」
「そんなことないだろ。でもさ、彼女と目を合わさなければ、随分話せるようになってきたよね。次は1日2回、目を合わせてみようかな。」
まだ、そんなとこかよ・・・。私は軽く絶望した。
結婚式まで、あと2ヶ月半。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次は番外編で2人の出会いになります。
12/12 誤字脱字報告をいただきありがとうございました。せっかく報告していただいたのですが、直さなかったところはそのままということでお願い致します。