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20.婚約者と寝室

■■

sideL


次に報告した国王である父は、エミーリアが髪を切られて飛び降りたというところで、唖然とした。


「それで、エミーリア嬢は無事なのか?」

「ええ、なんとか。私が受け止めましたので。でも、私がいなければ大怪我を負っていたと思います。」


「後半月で結婚式だというのにこんなことになるとは・・・。ノルトライン侯爵は今まで何をやっていたのだ。」


「見たくないものから目を逸らし、娘の結婚が迫っているというのに領地に逃げ込み、追いかけて断罪すれば長男に丸投げしましたよ。」


「お前、ノルトライン侯爵に会いに行ったのか。」

「私の部下が。12年もの間、私からの贈り物が婚約者に届いてなかったもので、ちょっと頭にきまして。」


呆れたようにため息をついた父は、兄そっくりな深い緑の目に意地の悪い光を宿らせた。


「お前の婚約者は気の毒ではある。が、この結婚、お前にとって利益になることは1つもない上に、厄介事しか連れてきていない気がするがこのまま続けるつもりかい?」


僕は全開の笑顔を父に向けた。


「当たり前じゃないですか。父上、私にどこか妻の実家に補ってもらわねばならないようなところはありますか?」


父もそれを受けて、楽しそうに笑う。


「ないな!実際、お前はよくやっている。それが全部エミーリア嬢のおかげというならまあ、他人がどう言おうが、この婚約は成功だったのだろうな。」


「そう言っていただいて、安堵しました。ここで結婚を取りやめろなんて言われた日には、私は彼女と駆け落ちしなければなりませんでしたよ。」

「そこまでか!」


父がぎょっとした顔をした。それに今度はこちらが意地の悪い顔で返す。


「私の彼女に対する執着を甘く見ないでくださいね。」

「どうしてこうもお前達兄弟は両極端な性格になったのやら。」


父はついに顔を覆ってうなだれてしまった。


兄が3度の婚約の後に新たに義姉上と結婚したことは、僕には関係ないと思うが。




「陛下、ノルトライン侯爵家に関しては王太子殿下の采配でよろしいですか?」

「うーんまあ、いいだろう。そういや、結婚式にノルトライン侯爵家が出席しないなら、エミーリア嬢は誰がエスコートするのだ?」


「それについて、陛下。1つご相談が。」




帰邸が思ったより遅くなってしまった。


話が終わって下がろうとした時に突然、父がとんでもないことをぶっ込んで来たものだから。


「そういえば、お前、彼女と子どもを作れるのか?」

「はっ?!な、何をいきなり。ちょっ、そんなこと急に聞かないでくださいよ。」

「あー、ほら、そんなだから。」


彼女とのアレコレを想像した途端、タオルの世話になる羽目になった。まさに大量出血。


父が面白そうに慌てる僕を見ている。


煩悩を追い払いつつ、むっとして言い返す。


「これでも一応、年頃の男なので、十分に欲はありますよ!」


父は嘘くさく真面目な顔を作り、

「なら、余計に他の女性も考えたほうが良くないか?お前なら第2夫人も持てるぞ?エミーリア嬢以外は鼻血が出ないんだろう?」

などと言ってみせる。


答えはわかりきっているのに、なんで聞くかな。

僕は、これみよがしにため息をついて返す。


「父上・・・。そちらこそ母上一筋なのに、息子に何をさせようというのです。それとも、父上がお手本を見せてくださるのですか?母上に告げ口しますよ?」


父は一瞬で方針転換した。


「わかった、もう言わないから、それだけはやめてくれ。だが、本当に心配はしているんだ。エミーリア嬢との間に子どもができるのか。」


ヘンリックといい、父といい、心配性だな。まあ、僕がこんな体質だと仕方ないか。


「ご心配おかけしてすみません。でも、結婚もしないうちから、そういうことは言わないで下さい。健康な2人でも子どもができないこともあるでしょう?」




そんなやり取りをしてから帰ったのが、深夜。


さらに、今日1日色々ありすぎて、僕は疲れ切っていた。


だから、屋敷に帰るなりさっさと寝る準備を済ませ、なにか言いたそうなヘンリックとロッテに、また明日とかなんとか言ってすぐにベッドに潜り込んで寝てしまった。




■■

sideE



先に寝ててとは言われたものの、おかえりなさいが言いたくて、私はリーンを待っていた。


せっかくだから例の私室で、ラグに座り込み、ぬいぐるみをひとつひとつ手にとって眺めていた。


たくさんのぬいぐるみ。夢のようだな、と思っていたら、本当に夢の世界へ入りかけていたらしく、

「お嬢様、もうベッドでお休みになって下さい。」

とロッテに揺り起こされた。


私は半分以上寝ている頭で、はい、とも、うん、ともつかない返事をして起き上がった。


「お嬢様、寝室なのですが・・・」


説明しようとしたロッテを止めて、私はふらふらと部屋を出て、居間をまっすぐに突っ切り、私室と反対側にある扉を開けた。


予想通り、そこにはとても大きなベッドが、でんと置いてあった。


「ん、大丈夫。ここが私の寝室ね。ありがとう。寝ます。おやすみなさい。リーンに先に寝てごめんなさいと伝えて下さい。」


と呪文のように唱えて、そのままベッドに潜り込んで寝てしまった。


ベッドがやたら大きいのも公爵家だからだと思っていたし、反対側にもう一つ扉があることにも気が付かなかった。




数時間後、ふっと目が覚めた。今までずっと1人で寝ていたので、自分以外の気配に敏感に反応したのだと思う。


寝たふりをして様子を伺っていると、私が寝ている反対側に誰かが入ってきた。

私は恐怖で体が強張り、そのままじっとしていた。


「もう眠すぎる・・・。」


潜り込んできた相手のつぶやきが耳に入り、私はほっとして緊張を解いた。


リーンだ。帰ってきたんだ。嬉しくなって声をかけようとしてふと我に返る。


ん?このベッドにリーンも寝るの?

確かに何人も眠れそうなくらいの大きさだけど・・・。

と、ここまで考えて、はっと気がつく。

祖父母も同じベッドで寝ていた!

夫婦って一緒に寝るんだった!ということは、ここ、夫婦の寝室だったのか。


ロッテはあの時、きっと他の部屋のベッドに寝かせてくれようとしてたんだ。


私達、まだ結婚前だし、私と一緒に寝たら彼が出血多量で大変な事態に陥りそうだし。


どうしよう、もう夜も遅いし、今から他の部屋に移るなんてできない。


大きいベッドだし、端と端なら問題ないに違いない。

そう結論づけて、もっと端に寄ろうと身動きしたところ、気付かれた。


彼が寝息をたてるのを確認してから、動いたつもりだったのに。

さすが剣術も強いだけあるというべきか・・・。




「何かいる・・・あれ?エミィ・・・?」


ごそごそとベッド内を移動してきたリーンが、私だとわかるとぎゅっと抱きしめてきた。


ベッド内でそれはやめてください!しかも、初めて愛称で呼ばれたのに、相手が寝ぼけてるとかひどい!


「いやいや、客間で寝てもらうようにロッテに頼んだし、ここにいるわけないよね。ああ、僕もう寝てて夢見てるのか。いやに感触がリアルだけど、疲れてるからかな?それとも、ものすごく会いたかったから夢に出たかな・・・。」


自分に都合のいいことを1人で並べ立てて納得しているリーン。


私の存在は夢にされてる。それは、助かった。

でも、こんな状況では寝られないし、彼が熟睡したら、抜け出して隣の部屋のソファででも寝よう。と決めたのに彼はなかなか寝ない上に、腕の力も緩めない。


「ああ、早く本物とこうやって一緒に寝たいなあ。」


今、まさに一緒に寝てるし!実現してるから!


「あーいい匂いがする、そして柔らかい・・・この夢最高。」


ちょ、匂い嗅がないで!頬ずりしないで!撫で回さないで!夢じゃないから!


もう、現実を突きつけようかどうしようか真剣に悩んだけど、そんなことしたら彼が立ち直れなくなりそうというか、身の危険を感じるのでここは夢にしようと決めた。


「早く治して君を抱きたい・・・。」


最後にそうつぶやいて彼は今度こそ寝た。


今もだし、今日散々抱き上げたり、抱きしめたりしてたよね・・・と考えて、思い当たった。そっちの意味か!


ぶわっと全身に熱が回る。近いうちに夫婦になるんだしね、当然だよね。


でも、彼の場合、あの体質のせいでかなり難しいと思っていたから、私はそんなこと想像もしていなかった。

リーンは、違ったんだ・・・。


どうしよう。いや、そう思っていてくれるのは嬉しい。が、私が相手でなかったらそんな悩みは抱かずに済んだのでは、と思うと心が痛んだ。


なんだか悲しくなってきた。夜の悩み事はネガティブになりやすい。これは夢だし、聞かなかったことにしようと自分に言い聞かす。

そして彼の腕の中でくるりと体を反転させ、目の前の胸に顔を寄せる。


夢ならこんなことしてもいいでしょ?


彼が深く寝入ったら抜け出そうと思いつつ、頭の上から聞こえる寝息や心臓の音、人の温もりに包まれている安心感で、私もいつの間にか眠りに落ちていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

ヒーローパパも登場。そして煽られたヒーロー、やらかしました。

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