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第23話 身を挺した決定打




「ひゃアアアッ!!」


 モヒカン男の腕の振りに合わせて炎が勢いよくうねり出し、雄弥とユリンに向かって襲い掛かる。


「くおッ!!」


 2人は同時に飛び退いて回避……したと思いきや、わずかな間も開けずに2撃目が、それを避けてもまた3撃目が迫ってくる。

 早い。そして何より、なんと滑らかな火の奔流(ほんりゅう)。暗闇の中で踊るそれは、この上ないほどに映えている。風になびく羽衣のようでありながら、激しく荒ぶる太い(むち)にも見える。


 それでも彼らがなんとか毎度すれすれで躱していると、モヒカン男は目の焦点が合っていない状態で狂ったように叫び出した。


「ちょろちょろすんじゃねェよォォ! 避けるんじゃねェよォォ! それは! それはそれはそれはァァ!! 生意気なこと、なんだよォォォ!!」


 そしてなんと、これまでの炎撃(えんげき)を10発以上も同時に放ったのだ。


「はあッ!? ウソだろあんにゃろう!!」


「ユウさん、私の後ろへッ!!」


 すかさず雄弥を庇ったユリン。彼女は防壁魔術を展開し、その炎の全てを受け止める。

 盾と炎が激突した瞬間、周囲に凄まじい熱波が拡散する。彼女の背後で伏せている雄弥は眼球表面の水分を蒸発させて(まぶた)をまともに開けていられなくなり、唇も乾いてピリッと割れてしまう。


「く……ッ!!」


 ユリンは歯を食いしばり、額に汗を浮かべながら炎を止めている。


 エドメラル戦とその後の雄弥への治癒によって、すでに彼女は自身の魔力の大部分を消費してしまっているのだ。

 いくら彼女の盾が強靭であろうともエネルギーは無尽ではない。残り少ない魔力で生み出されたこの防壁の強度は、普段よりも格段に落ちているのだ。


 それでも凌ぎ切ったのは、さすがユリン。

 渾身の連撃を受けきられてしまったモヒカン男は、いよいよ怒りの興奮を頂点に達せさせた。



「おいィィィィ!? あれだけ言ってもまだテメェらは生意気なのかァァァ!? 俺がこぉんなに注意してやってるのによォ……ッ!! ……もういいッ!! 分かった!! どうしようもなァいッ!! 言うことを聞きけない悪ガキはァァァ()()してやるゥゥゥ!!」



 彼がそう叫んだのと同時に、ユリンの背後に隠れている雄弥の足元の床が、突然真っ赤に染まっていく。


「!? な、なんだ……ッ!?」



 雄弥が訝しむのも束の間、その床面をブチ破りって炎が勢いよく噴出。彼の土手っ腹を打ち抜いた。



「なに!? ぐあああッ!!」


 意識外からの……地下からの攻撃。その炎の直撃を受けた雄弥は空中に弧を描きながらフッ飛ばされる。

 

「ユウさ……ーーッ!?」


 そして間髪入れずにユリンの足元からも同じように炎が現れた。

 しかし彼女はすんでのところでその場から飛び退き、炎撃を回避。経験によって研ぎ澄まされた反射神経。彼女と雄弥の差はそれだった。



「うぎぃあぁああああァァーーーッ!!」



 飛ばされて床に叩きつけられた雄弥は、腹を押さえながらその激痛にのたうちまわる。彼の腹部の皮膚はじゅうじゅうと音を立てており、先ほどのエドメラル戦で負った傷とそこに巻かれた包帯が溶けて癒着してしまっていた。

 だが、奇妙なことがひとつ。彼が今苦しんでいる()()というのは、火傷によるものだけではないのだ。


「ユウさんッ!!」


 慌てて彼のもとに駆け寄り、その腹に手を触れるユリン。


「……えっ!?」


 その時、彼女は明らかにおかしなことに気がついた。

 雄弥がくらったのは炎である。熱を発し、物体を燃やす・焼くためのものである。そう、()()ためのもの、そのはずである。そのはずなのだがーー



「どうして……ッ!? あばら骨が折れている……!!」



 そのことは雄弥自身も激痛にもがきながら理解していた。炎をくらったことで自身の肋骨が折れたことを。


『な、なんだ……ッ!! お、俺は今……()()()()()()……ってのか……ッ!?』

 


「どぉ〜だァァァ!? 効くだろォォォ!?」


 その様子を見ていたモヒカン男が、狂喜の声を上げる。



「打撃と焼撃(しょうげき)の融合ォォ!! 叩きながら焼き、焼きながら叩くゥゥゥ!! これこそがこの俺様の『雅爛(がらん)』の技、"火錬丁(かなづち)"だぜェェェェーッ!!」

 


「……ッ!」


 ユリンは雄弥を庇うように立つが、彼と自分の身を同時に守りながらこのモヒカン男を倒すなど、いくら彼女といえども不可能だ。

 しかも、モヒカン男は自分を(かこ)うように、自分の周りに柵を張り巡らせるように、炎を発生させている。よって近づくことすらままならない。


「……ッぐ……!! あ、あのクソったれ、もう許さねぇぞ……ッ!! ユリン……どいてくれ……ッ!! 俺の『波動(はどう)』で、ヤローをあの炎ごとブッ飛ばしてやる……!!」


 グズグズの水ぶくれだらけになった腹を押さえる雄弥は、してやられた屈辱と火傷の腹部からの激痛に表情を歪ませながら立ち上がる。


「ダメです、ユウさん……! ここは地下なんです……! あなたの高威力の術をこんなところで放ったら、たちまち天井や壁が崩壊して私たちは生き埋めになってしまう……!」

 

 しかし、彼のその思いは実らない。彼を制止するユリンもまた、歯痒い思いを顔に滲ませた。


「いひィーッひひひひひひィィィィ! その通りだぜェェ!! 俺みたいに床の下から攻撃でもしねぇ限り、テメェらにはどうしようもねぇのよォォォォ!!」


「や、野郎ォ……ッ!! 舐めやがって……!!」


 口だけなら強がれるが、状況はドン詰まりだ。

 遠距離からの攻撃はできない。近づいて直接叩こうにも、炎の柵に妨げられて叶わない。


 

『くそ……ッ!! バカデケぇ魔力が逆に足を引っ張るなんてッ!! なんでも大きけりゃいいってモンじゃねぇってのか……!!』


『や、ヤベェぞ……!! 術が使えないんじゃ、いよいよ俺はお荷物だ……!!』


『ホントに何もできねぇのかよ……!! このまま、またヤツにブッ飛ばされるのを待つしかないってのかよ……ッ!?』

 


「……え?」


 刹那。

 雄弥は、自らの思考から何かを拾い上げた。



『ブッ……飛ばす……? ……そうだ、それだ!! それだッ!!』


 

「お、おいユリン……ッ!」


「!? は、はい……!?」


「聞いてくれ……! 思いついたぜ! ヤツを倒す方法を……ッ!」


 自身の中に訪れた、逆転のひらめき。彼はそれを、敵に聞かれないよう小声でユリンに伝える。


「ーーええッ!? ほ、本気ですかそれ!?」

 

 作戦を聞かされたユリンはたまらず声を上げて仰天した。


「あたりめーだ! もうこれしかねぇ! 手を貸してくれ、頼む……ッ!」


「だ、ダメですよそんなの!! 危険です!! 一歩間違えたらあなたは……!!」


「大丈夫だ……! 一歩間違える、なんてことは起きねぇよ。お前がいるからな。俺の間違いは、お前が正してくれるんだろ?」


 腹からの痛みのせいで汗だくになっている顔を、にやり、と緩ませる雄弥。

 そんな彼と面向かっていたユリンは瞳を泳がせてしばし逡巡(しゅんじゅん)していたが、やがて静かに決意を固めた。


「……分かりました……! イチかバチか、やりましょう……ッ!」


「よっしゃ……ッ! じゃあ、あとは任せたぜ……!」



「おォォォいッ! なァーにをこそこそしてやがんだァァァァッ!!」



 モヒカン男がそう怒鳴ったのと同時に、彼らの作戦会議は終了。

 雄弥は前へ……モヒカン男に向かって歩き出した。男が生み出している炎の柵の、少し手前まで。


「ああ……悪かったな。てめぇの悪口を言い合ってたんだよ……!」


 そして何を考えたか。腹の痛みに息を切らしながら、炎の先にいる男に対して唐突に挑発をかけ始めたのだ。

 そして当然、相手がこんなことを言われて黙っているわけもない。


「……んだと、コラ。俺様の悪口だァ……ッ?」


「ああそうだッ!! 散々エラッそーなことヌカす割には全ッ然大したことのねぇ、口だけの勘違い自惚れ野郎だってなァァァ!!」


 雄弥はそう叫び、すぐに苦しそうにごほごほと咳き込んだ。腹から声を出すほど、折れた肋骨がぎりぎりと悲鳴を上げるのだ。


「ごほ……て、てめぇの魔術……"火錬丁(かなづち)"とかいったか? 確かに地面の下から襲われたのには驚いたが、威力は全く大したことねぇ!! 湯たんぽの方がまだあったけーぜ!!」


「ほざァァくんじゃァァねぇよッ!! そぉんなふらふらの状態で強がりやがってェェェェッ!!」


「バーカ!! 俺はこうして立ってんだろーが!! 直撃をくらった俺が、こんなピンピンしてんだぜ!? これをザコと呼ばずしてどうするよッ!!」


「なぁぁにィィィィィィィィ……ッッ!?」


「あぁ〜あ、安心したぜ!! この程度の技なら何発くらったって死にやしねぇ!! いや……次は当たりもしねぇッ!! 地面から俺の腹を狙ってにょっきり出てきたところを、あくびでもしながら避けてやるぜ!! 朝のゴミ出しに行く途中で、ご近所さんとすれ違った時のようによぉーッ!!」



 ……それからしばらく、沈黙が腰を下ろした。


 ユリンは雄弥の後ろで汗を絶え間なく垂らし続けながら、その成り行きを見守っている。


 雄弥は肩で息をしながらも、男をその瞳にしっかりと捉えている。


 そして、モヒカンの男。雄弥と怒鳴り合っていた時の剣幕が嘘であったかのように黙り込み、少々うつむいている。

 彼の周囲では炎が変わらず立ち昇っている。ごうごう、と。


 ……すると。


「ーーそー、か」


 男がやっと口を開いた。落ち着いた、静かな調子で。



「だぁぁぁッたらァァァァ!! やァァァァッて見せろよォォォォォォ!!」

 


 しかしそれも最初だけ。彼はそのまま地面に手をついた。


「必殺ッ!! "火錬丁(かなづち)"ィィィッ!!」


 そして気がついたときにはあっという間に雄弥の足元が赤く染まりーー



「ぐ……ッがっはああああああッ!!」



 またしても、噴出した炎が彼の腹に直撃。雄弥は先ほどよりも高く、真上に近い方向へと打ち上げられてしまった。


「ぎひゃァァァァァッはっはっはっはァァァァ!! 口だけなのはテメェの方だったようだなァァァァ!! 生意気だから! 生意気だから! 生意気だからだからららららァァァァ!! そぉんな目に合うんだよォォォ〜!!」


 男は歓喜の声を響かせたのち、視線の狙いをユリンに定める。


「残るはテメェ1人だなァ……!! テメェを殺せば終了ッ!! 俺様の勝ちだぜェェェェ!!」


 ……しかし。彼に対し、ユリンはただ一言だけ返した。



「……ええ、おしまいです。……あなたの負けで」



「あァ!? 何言ってーー」


 その瞬間。モヒカン男のすぐ背後で、音がした。何かが床に落ちてきたような音。


「……は?」


 彼は恐る恐る振り返った。彼の背後、目と鼻の先の距離にいたのはーー



「……ああそうだ……ッ!! てめぇの……負けだ……ッ!!」



 苦痛に少々顔を歪ませながらも不敵な笑みを浮かべている、雄弥だった。


「なあッ!? て、テメェなんでーー」


 男が疑問を叫ぼうとしたその一瞬、雄弥は男の身体に掴みかかると、渾身の力を込めながら背負い投げの要領で男を持ち上げ、地面に思いっきり叩きつけた。


「おごあァッ!!」


 あまりの勢いに男の身体は1度地面を軽くバウンドし、どさりと仰向けに倒れた。

 彼は完全に白眼を向き、身体を弛緩(しかん)させた。やがて、部屋を照らしていた炎も種のひとつも残さず消滅。男の意識が完全に消えたことを知らせた……。







「うぐ……ッ!」


 いよいよ肉体の消耗に耐えかねた俺は、地面に膝をつく。

 炎が消えたことで再び真っ暗闇になってしまったこの空間だったが、すぐにひとつの光が現れる。ユリンがライターを()けたのだ。


「ユウさんッ!!」


「お"、おおー……」


 駆け寄ってきた彼女にお返事。酒やけしたような、ひどく掠れた声しか出ない。


「大丈夫ですか!?」


「ああ、平気平気……。お前の盾が守ってくれたからな……」


「あ、あなたってホント……おばかさんなのかそうじゃないのか分かりませんよ……! よくもこんなこと思いつきましたね……!」


「現にうまくいったじゃんか……あいでで」



 ……つまり、俺の作戦はこう。


 わざと敵の"火錬丁(かなづち)"をくらうことでその威力を利用して空中高くに飛び上がり、炎の柵を乗り越えて敵のもとに行く……というものだ。


 ユリンの盾を、俺の腹部分に予め展開しておくことでダメージを無くす。また、うまく敵の背後を取れる位置に着地できるよう、攻撃を受ける直前にその盾の角度を調節し、打ち上げられる角度を調整してもらったのだ。


 しかしこの作戦を達成させるためには、「火錬丁(かなづち)」を地面から、つまり真下から撃ってもらうことと、その一撃の狙いを俺の"腹"に誘導することが必須だった。

 そのための、挑発。地面から仕掛けてくるように、腹を狙ってくるように、敵を挑発した。幸いにもあのモヒカン野郎は分かりやすく怒りっぽい性格で、「生意気」を連呼する高慢ちき。挑発に乗ってくることは予想できた。


 それでも万が一腹以外を狙われていれば、あの男が冷静さを少しでも残していれば、俺は完全におしまいだった。1撃くらっただけでグロッキーなのに、2撃目など、ましてや頭などに直撃を受けたら耐えられるはずがない。

 


「……こんなことに付き合うのは、今回だけですからね。私は自爆覚悟の作戦なんて認めませんよ」


「い、いやだから……成功したんだしいーじゃんかよぉ」


「お黙りなさいッ!! とにかくもうダメッ!! いいですね!!」


「わ、分かったよ……!」


 まったくこのユリン、なんつー剣幕か。なんならこれまでで1番のお怒りだ。

 ……と思っていたが、怒鳴り終えたユリンはひとつため息をつくと、にこりと笑顔を浮かべながら俺の前に自分の右の(てのひら)を差し出す。


「……お疲れ様でした。ユウさん」


「! お、おうよ!」


 俺はそれを、左手でパチンと叩き返した。




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