表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/212

第22話 思わぬ遭遇




 いったいどれほどの距離を(くだ)ったのか、ようやくエレベーターが停止した。


「やっと着いたか……長すぎだろこのエレベーター……ッ!」


「はい……山のふもとどころか、そのさらに地下にまで降りてきてしまったみたいですね……」


 雄弥がエレベーターの出口からちらりと外を覗いてみるが、真っ暗で何も見えない。物音も無い。すぐ隣にいるユリンの顔すらも認識できない、闇の空間だった。


「……お、おいユリン。どーすんだ?こんなに暗くちゃ1歩も進めねぇぞ」


「大丈夫、ちょっと待ってくださいね。えーと……」


 そう言うとユリンは持ってきたカバンをの中身を手探りでごそごそと(いじ)りだす。


「あ、あった」


 すると、突然エレベーターの中に明かりが灯った。彼女が、少し大きめのライターを灯したのだ。


「へぇ、よくそんなモン持ってたな」


「仕事柄、いつ何が起こるか分かりませんからね。備え無き者に()き目にあり、ですよ」


 えっへんと言わんばかりに得意げなユリンはそのまま、エレベーターの外を照らす。

 

 見えてきたのは、石の壁、石の床、石の天井。……道だ。そこには道があった。床の幅・天井までの高さともにおよそ5メートルほどの、道が。


「……これならエドメラルも余裕で通れるな」


「そうですね……あれがここから来たのは間違いないでしょうね。……それじゃ行きますよ、ユウさん。」


「お、おう……ッ!」


 この暗闇のどこかに犯人が潜んでいる。そして頼りになるのは、ユリンの持つライターの明かりだけ。

 雄弥は喉をごくりと鳴らしながら、先導するユリンについていく。


 かつり、かつり、と。1踏みずつ静かに。


 道は思っていた以上に長く、すでに50メートルは進んだが一向に地形が変わらない。しかも進めば進むほど、どんどん暗闇が深いものになっていくようだ。


 雄弥に聞こえているのは自分の荒い呼吸音と、さらにその倍の大きさで耳に届く心臓の鼓動音のみ。

 いつになったら道が終わるんだ。もう終わるだろ、さすがにもう終わるはずだ、頼むからもう終わってくれ。気がつけば彼はそんなことばかりを念じていた。

 

 するとその時、彼の前を歩いてたユリンが急にびたりと立ち止まった。


「うはぇッ!? なななななんだ!? どうしたッ!?」


「…………これは…………」


 緊張の糸をネジ切られそうになって大騒ぎする雄弥をガン無視し、彼女はかがんで床を灯している。

 雄弥もそこに視線を向けてみると、床面に何やら小さな黒点があった。


「……? た、ただの汚れじゃねーの?」


「いいえ。……血の痕です」


「!? な、なんだと!?」

 

 ユリンが爪で引っ掻いてみると、その黒点はぱりッ、と床から剥がれてしまった。


「乾き切っている……それも1日や2日前のものじゃない……」


「……じゃ、じゃあこの血は……!?」


「……検査を行ってみないとはっきりとは分かりませんが、私たちの予想に当てはまるのであれば、行方不明になったヒトたちのものである可能性が高い……ですね」


「…………マジ、かよ…………ッ!」


 だとするならば。


 被害者の子供たちの両親はやはり、あのエドメラルに喰われてしまっていたのだ。もうすでにこの世にはいないのだ。

 施設にいたあの子供たちは1人残らず、天涯孤独となってしまったのだ。あんな幼い子供たちが……。

 

 そのあまりに残酷な事実が、雄弥の怒りに火をつけた。暗闇に対する恐怖を一瞬で焼き尽くすほどの怒りが込み上げてきたのだ。

 無意識のうちに彼の拳が固く握られ、歯がぎりぎりと食いしばられる。



 するとその時どこからか、かつん、と音がした。2人の行く先から、その方向から、音が聞こえてきたのだ。

 


「ッ!?」


 彼らはすぐさま顔を、かつ、ユリンは手に持っているライターを前に掲げる。

 見えはしないが、彼らの視線の先に誰かがいる。いや、そんな曖昧な表現はもはや必要ない。いるとすれば犯人のみ。全ての元凶のみだ。


「や、野郎……ッ!! いつまでもいつまでも……コソコソしやがってぇえッ!!」


「あ!! ゆ、ユウさん待ちなさいッ!!」


 感情を抑えきれなくなった雄弥はたちまち走り出した。ユリンの静止も無視して。


 だが、彼にも彼の信念がある。決して譲れないモノがある。

 どう我慢しろというのだ。こんなむごいことを平然と、それも何度もやってのけてしまうようなゲス野郎が、すぐ近くにいるのだ。怯えて抜き足差し足などやっている場合であろうか。……(いな)。少なくとも雄弥にとっては、それは絶対に違った。

  


「ひひ……ひひひ……ひひひひひひひ……」 



 そのまま彼が駆けていくと、暗闇から不気味な笑い声が聞こえてきた。……若い男性のものだ。


「ひひひひひ、ひひひひひ、ぐふひひひひひひ……」


「おいッ!! どこにいやがる!! 姿を見せろこのクズ野郎!!」


 雄弥は脚を止め、まだ見えぬ声の主にむかって怒鳴りつける。

 

「あひ、あぎひ、あぎィーッひっひっひっひっひ!!」


 返事はない。ただ笑うのみ。だんだん大きく、(きたな)らしく、より楽しそうに。


「ユウさんッ!! あなたのすぐ眼の前ですッ!!」  


 そして彼に追いついてきたユリンがそう叫んだ、その瞬間ーー


「え!? な、なにッ!? うわああぁあッ!?」



 突如、雄弥の眼と鼻の先から炎が上がったのだ。床から生え上り、空中で弧を描き、天井にまで届いてしまう巨大な炎が。



「ぐあっぐ!! あちぃッ!!」


 雄弥は自身の服に燃え移っていた火をベシベシ叩いて消しながら後退し、追いついてきたユリンの隣に並んだ。


「大丈夫ですか!?」


「あ、ああ!! てかこりゃなんだ!! なんでこんな何も無い場所に、炎が出てくるんだ!!」


 やがて火明かりで、彼らの今いる場所の地形がはっきりと見えてくる。


 そこは、開けた空間だった。

 天井までの高さは先ほどまでの道の倍、10メートルほど。床の面積はテニスコート2つぶん程度か。


 そして、そんは空間を埋め尽くそうと渦を巻き上げている炎の中心にいたのはーー



「ぎィィィィヤーッはははははは!!」



 溢れんばかりの狂気を込めた甲高い笑い声を上げる、男の姿だった。


 ……その男に、雄弥は明らかに見覚えがある。

 180弱の身長。外見年齢は20代後半から30代前半。肩幅も広く、がっしりとした体型。鼻と唇に光るピアス。……そして何より、ニワトリを彷彿(ほうふつ)とさせる真っ赤なモヒカンヘアー……。


「……ん? ……あ、ああッ!? こ、コイツ知ってるぞ!! 駅で俺に難癖つけてきたヤローだ!!」


「ま、まさか……こんな偶然が……!」


 雄弥とユリンは同時に驚愕の声を発する。


 そう。このモヒカン男は、この地区に着いてすぐの駅前で雄弥にワケの分からない因縁をつけて(から)んできた、あの男だったのだ。



「ヒャーハハハハハハハハァァァー!!」



 男は両腕をブンブン振り回し、炎は彼のその動きに合わせて身を踊らせている。空気を切り裂く、ごうごう、という音をこの空間に反響させながら。


「おいおい……てめぇだったのかよ……!! アタマのおかしいヤツだとは思ったけど、まさかヒトを殺すような本物のイカれ野郎だったとはな……!!」


「ユウさん、この炎は魔術!! 『雅爛(がらん)』の魔術です!!」


「んなモンさすがに見りゃわかるよ!! しかもあのヤローが今回の事件の犯人なら、催眠とかの術も使うんだろ!?」


 炎の音に負けまいと、彼ら2人は大声を張り上げて会話を交わす。


「ええ、そのはずです!!」


「一応もっかい聞いておくけどよ!! まさか危ないから帰れなんて言わねぇよな!?」


「言いませんッ!! 駅前の時みたいな手加減ももういらない!! この男は、ここで確実に捕縛しますッ!!」


「おうよ!! そうこなくっちゃなぁッ!!」


 エドメラル戦の傷を抱えたままの2人は、そのまま身を構え、臨戦態勢に入った。



「……あ?」


 すると、男が急に笑い声を止めた。

 そして真顔のまま眼球だけを上下左右に急作動させたのち、雄弥たちを瞳の中に捉えた状態で視線を停止。彼らをじーっと眺めだす。



「……なんだァ、テメェら……!? なァーに人のことじろじろ見てやがるんだよ、あァ? ……そうか!! 生意気かッ!! テメェら生意気なんだなッ!? "(ナマ)"はよくないッ!! この俺が、よォオ〜く"火"を通してやるゥゥッ!!」




 おもしろいと感じていただけたら、ぜひ評価やブックマーク登録、感想などを、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ