第200話 決戦は近い
ベルバロム島の西側より、戦闘艦艇数十隻が猛スピードで接近する。これらは全て、本体と別行動をとっていた憲征軍連合艦隊の残りである。
「進めぇえッ!! トレーソンの作戦は当たったのだ!! 敵戦力が東側に集中しているうちに、我々は島内に突入するのだーッ!!」
その一団の先頭を突っ走る戦艦の艦橋にて、別働隊司令官の男が叫ぶ。
島の守備隊はジェセリたちへの迎撃に出てしまっているため、彼らを止めに出てくる公帝軍兵士は1人もいない。島の西側は、完全な無防備状態であった。
……いや。ひとつだけ障害が残っている。
「!! 司令ッ!! ベルバロム島より、高熱源反応ッ!! こちらに向かって接近してきます!!」
「えぇい構うなッ!! 今さら引き返すことなどできんのだ!! このまま進めーーぐわぁあァァァ!!」
直後、1番前を航行していたこの旗艦に、ベルバロム島から飛来してきた数発のミサイルが命中。艦橋もまるごと吹き飛ばされ、意気軒昂に指揮をとっていた司令官は船とともに焼失してしまった。
ベルバロム島外縁に設置されている、防衛システム。これはまだ生きている。これこそが、島に乗り込むにあたっての最後の壁。
ミサイルはまだまだ飛んでくる。次々と船を轟沈させ、艦隊の数をみるみる減らしてゆく。
やがて、その魔手が1隻の戦艦に迫る。最初に沈められた旗艦と同級の艦だ。
ミサイルは船体への直撃コースを取っている。最大速度で直進するこの戦艦には、回避は不可能。命中まで3秒、2秒、1秒ーー
「はあッ!!」
ーーミサイルは、破壊された。
目標である戦艦に肉迫する寸前のところで、その戦艦の甲板に立っていた1人の女の子が放った雷撃によって、消滅したのだ。
爆発の黒煙からゆらりと姿を見せたその女の子とは、1人だけ雄弥たちとは別の艦に乗ったシフィナであった。
「艦隊をもっと固めろ!! あたしの手の届く範囲なら防御してやれるッ!! 足を止めるなッ!!」
結んだ銀髪をなびかせる若き女傑は、自身の背後の仲間たちに向かって大声を張り上げる。
そんな中でも無数に迫り来るミサイル群。甲板の彼女は再び黄金色の魔力を両手に集中。
「"転婆……因堕羅"ッ!!」
すかさず放つは、そのミサイルをさらに上回る数の稲妻大軍である。
その雷のカーテンに護られながら、艦隊は突き進む。岸が近づく。しかし1隻とてスピードを緩めない。
やがてシフィナの座乗艦を先頭にした船団は最後までその勢いを保ったまま、ベルバロム島の西岸へと突入。鉄の塊である船たちはたちまち陸地へと乗り上げて座礁し、その動きを止めた。
ひとまず最大の壁は越えたのだ。
しかし息をつくヒマなどない。彼らの仕事はここからが本番である。
「さあ行くわよ!! あたしたちの狙いは、守備隊本部棟ただひとつ!! 逃げ道は無いわ!! 勝つか、死ぬか!! それだけよ!! 生き残りたかったら、死に物狂いで勝てェッ!!」
「おおおーーーッ!!」
シフィナの檄声によって闘志に火をつけられた兵士たちは、座礁した艦からわらわらと下船。ベルバロム島内陸部へとなだれ込んで行った。
島の西側の防衛が突破されたというこの事実は、守備隊本部棟にいる公帝軍兵士たちにも即座に伝わる。
「司令!! と、島内に敵がッ!! いかがいたしますかッ!?」
「くそ……ッ!! もはややむをえん……!! 海上の迎撃隊に通達!! 総員、最終防衛ラインまで後退せよ!! 海の守りは捨て、敵を島の中で迎え撃つッ!!」
「は!? そ、それは……前方の敵も島内へ侵入させるということでありますか!?」
「そうだッ!! ここまで懐に入られてしまっては、無闇に戦力を分散させるのは悪手だ!! 残存戦力を1度集結させ、地の利を得た上で態勢を立て直させるのだ!! 急げッ!!」
「は、はいッ!! ただちに通達いたします!!」
完全に後手に回っているが、もはやそれ以外にやれることがない。守備隊司令官である初老の男は自身のこめかみから噴き出す汗を拭いながら、なんとかパニックにならぬよう、精神を必死に繋ぎ止めている。
しかしその判断はきわめて冷静かつ迅速である。島の東側でジェセリたちと交戦していた守備隊兵士たちは、彼の指示を受けたことで全員素早く島へと引き返していった。
「司令!! 飛空部隊より入電!! 敵が島に後退していっています!!」
その様子の変化は、東側で囮となっていた憲征軍艦隊も察知する。
「全て予定通りだな……! さすがはジェセリ・トレーソン……"戦術鬼"の異名は健在か……! ……よし!! 全艦、最大船速で直進ッ!! ベルバロム島に対し、東西から挟み撃ちをかけるぞッ!!」
連合艦隊総司令の男はこの作戦の立案者への感服を噛み締めたのち、全軍に向けて突撃を命じることとなった。
その命令は、当然雄弥も聞いている。
ユリンの治癒のおかげで右腕をすっかり全快させた彼は、薬指の無いその手をパキパキと鳴らしながら気を引き締める。
敵も味方も動き出す。決戦は、目前であった。
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