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第173話 救いのための行動




「あ、アルバノさんッ!?」


「やあユリンちゃん、久しぶり。シフィナちゃんはもっと久しぶり」


「ど……どうも……」


 最高戦力アルバノの突然の訪問に、ユリンもシフィナも驚きを隠せない。こと、ジェセリにおいてはーー


「あ〜……やっべ、俺、まだ他にも仕事があったわ〜……」


 ……挨拶すらせず、彼と眼線すら合わせず、そそくさと会議室を出ていった。


「……ジェス、逃げちゃった」


「相変わらずアルバノさんのこと苦手なのね〜、アイツ……」


 ユリンとシフィナがコソコソとそんなことを話していたが、果たしてアルバノに聞こえていたのかどうか。

 いや、聞こえていまい。なぜなら今アルバノの意識は、自分が殴り飛ばした雄弥に向いているからだ。


「うぐ……ッて、てめぇよくも……!! なんでここにいるんだ、アルバノさん……ッ!!」

 

 激突してぐちゃぐちゃになった机と椅子の山から、鼻血を垂らしつつ立ち上がる雄弥。そんな彼の質問に、アルバノは1本の三つ編みに結った長髪を背中側にパサリと回しながら答える。


「人間どもに我々の敷居を跨がれたとあっては、宮都でのんべんだらりとしているワケにいかないさ。……そして、やはり来ておいて正解だった。キミみたいな考えナシのどマヌケの暴走を、しっかり止めなくっちゃあいけないからねぇ。上司としては、ね」


「考えナシだと……ッ!? そりゃてめぇらの方だろうが!! そこをどけッ、アルバノさんッ!! 俺は何がなんでも、イユを渡させねぇッ!!」


 いまだ『褒躯(ほうぐ)』による銀色のオーラを纏った状態の雄弥は、無茶なことに彼にまで反抗の意志を見せつけた。

 対するアルバノはいっそ儚げなほどの哀愁に満ちた()め息をひとつ吐く。それは紛れもない、雄弥への憐憫の現れであった。


「……ユリンちゃん、シフィナちゃん。僕はこのスカタンを1対1で説教してやりたい。悪いけど席を外してもらえるかな?」


「え……! あ、は、はい……」


 彼の指示とあらばやむを得ずと、ユリンとシフィナの2人は雄弥を心配そうに見つめながらも部屋を出ていった。



 ……そろそろ夕方になる。


 窓からは沈みゆく夕陽の光が差し込み、会議室内は暖色のグラデーションに染まる。

 その中で銀色の光を発している雄弥の姿は、実に調和の取れたコントラストを描いていた。


 ドアを背にしながら彼と向き合うアルバノはしばらくその姿をじっと眺めたのち、本心からの感服を込めた賞賛を放つ。


「……なるほど? それがキミの『褒躯』か。大したもんだ。しばらく会わないうちになかなか腕を上げたらしいな。……もっとも……アタマの中身はてんで変わっちゃいないが。アホのまんまだ」


「悪いがアンタとくっちゃべってるヒマは無ぇんだ……!! どけ!! どかなきゃアンタでもブッ飛ばすぞッ!!」


「ブッ飛ばす? 僕を? ふ……訂正するよ。オツムはむしろ劣化したな。力を得て増長したか?」


「うるせぇッ!! どけと言ってんだよ俺はァァァッ!!」


 雄弥はついにアルバノに殴りかかった。

 もともと両者に大した距離は無い。そこに『褒躯』によるスピードという要素を加えたのなら、間合いが詰まるのは刹那よりも速い。雄弥が仕掛けた攻撃は、そういうものだった。


「が……………………ッ!?」


 ーーしかし。雄弥はまたたった1発のパンチで、昏倒した。


 アルバノは、右手で彼の首筋に衝撃を与えた。その手の動きの一切を雄弥に悟らせることもなく。

 脊髄に強烈なショックを与えられた雄弥の全身神経は機能不全に陥り、彼は床にうつ伏せで倒れたまま動けなくなってしまった。無論、『褒躯』は即解除である。


「……ね。意外といるもんだ。上には上というものが……」


 アルバノはそう語りながら、床に倒れる雄弥に顔を近づけようとしゃがみ込む。


「キミはまだまだ未熟、力不足だ。そんなキミにできることというのは、非常に限られている。そんなキミが、1人で公帝軍と同じ土俵に立つだと? ヤツらを"説得"するだと? 笑えもしないな、そんな無謀は」


「……ぐ……ぐぅ……ッ!! な、なんでだよ……!! アンタ……イユを渡すのに賛成なのかよ……ッ!!」


「おいおい、はき違えるな。今はそーいうハナシをしているんじゃあない。ここでキミが敵の前にノコノコ出て行ってもなんにもならないと言っているだけだ。ジェセリくんたちもそうだろうが、これは僕に決められることでもないんだよ。……いいから一旦落ち着きなさい」


「う…………ぎ…………くそォオッ!!」


 雄弥は悔しさとやるせなさに、自分の額を床に1発、ガツンと叩きつけた。

 あとから聞こえてくるのは、消え入りそうな嗚咽だけ。肩を震わせながら床に突っ伏す傷だらけの少年の姿は、アルバノですら眼を背けてしまうほどに痛々しいものだった。

 

 しかし。ここで止まっている場合では無い。

 イユを助けようと思ったら、こんなところで駄々をこねるヒマなどないのだ、彼には。


「……だったら……ッ!! ()()()()()()変えるだけだ……ッ!!」


 雄弥は脊髄の痛みを堪えながらヨロヨロ立ち上がり、会議室の扉に手をかける。


「? おい、どこへ行く。公帝軍との接触はーー」


「しねぇ。それはもう分かった。……敵がダメなら……()()を頼る……! 宮都に行くんだ……!」


「! ……なるほどそういうことか。なら僕もついて行こう。キミがまたバカな真似をしないよう、見張らせてもらう。それにキミには、キミがいない間に起こったことを話さなくちゃあいけないからね。もともと僕は今日、そのためにここに来たのでもあるんだ」


「俺が……いない間の……?」


「まぁそれは汽車の中でだ。行くなら早くしたほうがいい。今日中に着かなくなるぞ」


 雄弥はどうしてか宮都に向かうことを決めた。その"意図"を汲み取った、アルバノとともに。

 狙いは不明瞭だが、彼は今どんなに細く脆い(わら)であっても縋りつきたい状況なのだ。重ね重ね、ただじっとしていることはできない。


『助けなきゃ……!! 俺が、イユを……!! なんとか……なんとかしなきゃ……ッ!!』


 彼の脳内に渦巻くのは、大切なヒトの命を背負う使命感と重圧。アルバノに殴られたダメージはほぼ回復したはずだが、彼の身体の震えは一向に止まっていなかった。


 

 

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