第14話 裏の進行
宮都ヴァルデノン。それが、彼らの種族にとっての中心地。
人口およそ1200万人、総面積約4500㎢。85の鉄道路線が敷かれた、内陸の最盛地である。
見渡せば縦に長い石造りの建物が乱立し、人の往来に切れはなく、昼夜問わず明かりが灯る。この街もそこに住む人々も、皆眠ることを知らない。
その中でも一際巨大な施設がある。
鉄骨造の施設。その広さ、およそ 100万㎡。ネズミやアヒルが夢を与えてくれる国の、ほぼ倍の面積である。
高さ10メートルの壁で円状に囲われた中には無数の建物がひしめき合っており、外観はもはやビルなどというものではない。言うなれば、城。それはまさしく巨大な城だ。
憲征軍総本部。それがこの施設であった。
その総本部内の一室のドアが、コンコンと音を立てる。
「入れ」
部屋の奥、窓を背にしたところにある机に腰掛けていたサザデーがそれに答えると、入って来たのは1人の男。桜色の華やかな長髪をひとつに結い、エメラルドのような瞳を持った長身の人物。
「なんだお前か……アル。何しに来た」
「ええまぁ、ちょっとした報告に。しかしこの部屋……相変わらず殺風景ですね。物が無さすぎて寒々しい。仮にも元帥執務室なんですから、もっとこう、厳かな雰囲気をですね……」
アルバノは机と小さな棚しかない部屋を見渡し、苦い顔をする。
「ほう……? 己の威厳を物で示せと? つまらんことを言うようになったな、アル」
「あぁ〜はいはい分かりました。このままでいいですよこのままで」
煙管を咥えながらニヤリと笑うサザデーを前に、アルバノは面倒臭そうにぼりぼりと頭を掻く。
「で? 報告とは?」
聞かれた瞬間、アルバノが一気に神妙な面立ちになる。
「界境付近のツェルノ地区。先月末、ヤツらはそこに新たな基地を建設しました。把握した限りでは少なくとも1500人が駐屯、中型戦車7つが配備されているとのことです」
「ほ〜う……我らの本土侵攻への足掛かりをまたひとつ増やしたというわけか。連中もなかなかマメになったものだ」
「ええ。人間共もこの20年近くに渡る膠着状態をどうにか打破しようと躍起になっています。このままでは近いうちに、29回目の大戦が起こるでしょう」
「予想通りじゃないか。それを見越した上であの小僧を呼んだのだから。有事の際は存分に働いてもらうとしよう」
「しかし……本当に役に立つのですか、あの餓鬼が」
「……疑問か?」
「当たり前だ。逆にあなたは、あんなのが我々の切り札になると本気で思っているんですか」
「なるのではない。するんだよ。なんとしてもな」
サザデーは口から煙を吐き、机の上にある灰皿に煙管の灰を落とした。
「それに問題はもうひとつある。サザデーさん……本気で彼を我らが憲征軍に迎え入れるつもりですか」
「ああ。なにか問題あるか?」
「大ありだ。彼は人間なんですよ。必ずそれが仲間にいることを気に入らないと思う兵士は出てくる。それに敵対する種族の者を迎え入れたとあっては、我々上層部への反感を抱く者すらも現れるでしょう」
「なーに……手は考えてある。気にすることはない」
「気にするなって、あなたね……」
アルバノはいかにも納得いかぬといった表情をする。
「気持ちは分かるが、そう心配するな。彼は必ず、我々にとっての良い駒になってくれる」
「はあ? なぜそう言い切れるんです」
「……分かるんだよ。私には、分かるんだ」
そう話すサザデーは、どこか遠い瞳をしていた。
「……な〜にを言ってるんだか。やっぱり貴方は変な人だ」
アルバノは呆れてため息をつく。
「それにあれからユウヤ君も多少はマシになったそうじゃないか。お前の仕置きが効いたんじゃないのか? ユリンが怒っていたぞ。彼に余計な怪我をさせるな、とな」
「僕にあいつの性根を叩き直すよう命じたのは貴方でしょう。言いつけ通りにしたまでですよ」
「誰が半殺しにまでしろと言った? 全く……彼は相当お前の癇に触ったようだな」
「あの甘ったれた精神も勿論ですが、僕は何よりあの黒い瞳がどうしても気に入らない。異界の出身とはいえ、なぜ人間などの手を借りなければならないんですか」
「くだらん。これは戦争だぞ。勝つためには全てを利用する。たとえそれが"敵の種族"の者であってもな。お前も軍の幹部職に就く以上、そんな非生産的なこだわりは捨てることだ。それにダメならダメでいいじゃないか。仮にユウヤ・ナモセが死んでも、また新しい転移者がやってくるだけだ。そいつを使えば良い。そいつもダメなら、また次だ。駒は無尽にいるんだからな」
「……我々には時間が無いと言っているでしょう。 新しく呼び寄せたそいつをまた1から鍛える余裕なんてありませんよ」
「確かにそれもそうだが……いや、もう考えるのはよそう。来るところまで来たんだ。あとは我が娘を信じるしかないさ」
「ユリンちゃんはよくやっていますよ。しかし教育者がいかに有能であったとしても、不出来な教え子を支え続けるには限度がある。結局はユウヤ・ナモセ本人がどうにかするしかない」
「やれやれ、前途無望を極む、か。まぁ、もとより無謀な試みだ。今に始まったことじゃない」
「魔狂獣の出現頻度は年々増加傾向にある。国民の不安も膨れるばかりです。さっさと外敵を排除して内の脅威に集中しなければ、人々の不安はやがて軍への不信へと変わるでしょう」
「分かっている。だがユウヤ・ナモセの訓練期間は残り半年。それが終わるまでは今まで通りにやるしかない。お前にも苦労をかけるぞ」
「構いません。我ら倪人と人間、その1000年の戦いに終止符を打つため……倪人がこの世の永劫の覇権を手にするためならば、僕の苦労など……」
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