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第108話 フラムの怒り




 グーリベリルの出現から2日後のマヨシー地区。



 ーー全て、焼けてしまっていた。


 

 民家は灰に、木々は炭に。どこかしこもから黒煙が立ち昇る。


 こんな場所に唯一残るモノ。……死体。黒焦げの焼死体。

 唯一、とは言った。だがその数はあまりにも多い。100や200では全く足りない、人相の区別もつかぬ死体。焼け崩れた建物の瓦礫の中、黒で塗り潰された街道。あちらこちらを埋め尽くす。


 そんな焼け野原にいるのは、白制服を着こなした大勢の公帝軍兵士たち。……そして、その中でただ1人赤いロングコートの目立つ私服に身を包む〈煉卿(れんきょう)〉フラムである。


「どうだ!?」


「ダメです……!! 街の端まで行きましたが生存者は確認できませんでした……!!」


「1人もか!?」


「1人もです……ッ!!」


「あ、ありえない……ッ!! こんなことがあってたまるものか!! マヨシー地区が……ここの住人たちが、たった一晩で全滅したと言うのかッ!? しかも100人以上の公帝軍兵士が駐留していた中で、彼らもろともッ!?」


「そうですッ!! だからそうなんですッ!! 事態を目撃したであろう者は全員死亡しました!! 何があったのか、ひとつも分からないんですッ!!」


 もはや投げやりになりつつある部下からの報告を聞き、取り乱しを抑えられないフラム。


「く……そ……ッ!! いくらグーリベリルの出現直後で街中(まちじゅう)が混乱を引きずっていたとはいえ、この僕がいながらなんということだ……ッ!!」


 彼はしゃがみ込むと、拳で地面をダンッ、と叩く。


『僕が意識を失っていなければ……!! 隣町の病院にいなければ……!! そもそも僕の身にいったい何が起こったんだ……!? ユウヤ・ナモセとともにグーリベリルを仕留めたところまでは覚えているが……その後のことが、どうしても思い出せない……!! 誰かに後ろから殴られたような気もするが、この僕に気配すら悟らせずに背後から忍び寄るなど並の者にできることじゃないぞ……!?』


「フラム様ッ!! 至急こちらに来てくださいッ!!」


 彼が(もや)のかかる記憶に頭を痛めていたその時、遠くから1人の兵士がひどく慌てて駆け寄ってきた。


「なんだどうした!?」


「そ、それが……大変なモノが見つかりまして……ッ!!」



 その兵士に連れられてフラムがやって来たのは、森……が、あった場所だ。

 空からの日光すらもほぼ完全に遮っていたほど窮屈に生い茂っていた木々は、今や文字通り影も残されてはいない。それらは全て燃え(かす)となり、その向こうにある海岸が街からも見えてしまっている。


 そんな更地の1箇所に、2、30人の兵士が群がっていた。彼らは皆何やらざわざわと騒いでおり、ただ事ではないのは明らかだった。


「お前たち!! 何があった!?」


「ああフラム様!! これをご覧ください…!! ここの地面の灰の中に埋まっておりました……!!」


 1人の兵士が手に持っていたモノを、走り寄って来たフラムへと渡す。

 

 ……それを見たフラムの心拍は、3秒間ほど止まった。



「ーーこれは……憲征軍の兵章……ッ!?」



 彼が右手で受け取ったのは、10円玉ほどの大きさをした金色のバッヂだった。黒く焼け焦げてしまっているところもあるがそれもほんの少しであり、彫り込まれた憲征軍の紋はくっきりと識別できたのだ。


「どういうことだ……なぜこんなものが……!!」


「そ、そういえばここは確か……ちょうどイユ・イデルとかいう混血児の住む小屋があった場所では……!?」


「なに!?」


 群がる部下の1人の発言を聞いたフラムはすぐに辺りを見渡す。


 ……ある。確かに、痕跡がある。

 箪笥(たんす)の残骸、鏡の破片、ベッドシーツの切れ端……。間違いなく、ここはイユの家があった場所のようだった。


 フラムは眼を見開いたまま、脳細胞をフルスロットルさせて考える。


「…………このあたりから死体は出たか?」


「え? い、いえ……1人も見つかってはおりません」


 やがて彼は部下からのその返答を最後の根拠に、ひとつの確信に辿り着いた。



「……ヤツだ……ユウヤ・ナモセ……!! この兵章はヤツのモノだ……!! この虐殺も、ヤツの仕業だ……ッ!!」



「!? なんですって!?」


「で、では……あの男が憲征軍兵士であると!?」


「そうだ……!! 現にあの男、僕が出身を聞いた時に明らかな動揺を見せていた……!! そしてイユ・イデルもまたおそらく憲征軍の内通者……!! 我々の動向を見張り、連絡要員としてやって来たユウヤ・ナモセに伝達していたのだ……ッ!! 死体が無いのがその証拠だ……!! ヤツがユウヤ・ナモセとグルであったということの……!!」


「な……なるほど……!! イユ・イデルは混血児……!! 確かに我ら人間の社会に不満を抱き、敵側に寝返ってもおかしくはない……!!」


「しかしフラム様、なぜヤツは……ユウヤ・ナモセは、街を焼き払うような真似を……!?」


「決まっているだろう……!! 我々に疑いの眼を向けられた以上、ヤツはもうここにはいられなかった……!! だから自分の足跡を全て消すために街を破壊し、住人までをも皆殺しにし、逃亡した……!! イユ・イデルとともに……!!」



 ーーいや違う……!! 最初からそうするつもりだったのだ……!!


 イユ・イデルの家を守るためという名目でこの僕を人目のつかない海岸へと誘き出し、そこで僕を気絶させた……!! おそらく他にも仲間がいたのだろう……!! 僕を殴ったのは、そいつだ……!!


 ……僕は……心の底から尊敬した……!!


 ほんの1時間にも満たない出会いだ。だがあの時の僕は、確かに彼に……ユウヤ・ナモセに敬意を抱いた……。自分の身を顧みず、友人の思い出のために迷わず危険な道を選ぶ……。そんなことができる者が、果たしてこの世に何人いようか……?


 僕は本気で、彼との約束を守るつもりだった……!! イユ・イデルや老医師には一切干渉しないし、彼の監視も可能な限り緩くなるように手を打つつもりだった……!! 


 信じた。信じていた。僕は彼を信じていたんだ。


 

 ーーそれをよくも……よくも……!!



「おのれ……!! 許さんぞあの男……ッ!!」



 フラムは顔面に烈火の怒りを剥き出しにすると、自身の右手にあった兵章をぐしゃりと握り潰した。そして部下の兵士たちの方に振り返りーー



「探せッ!! ユウヤ・ナモセ!! イユ・イデル!! 人心を捨てた凶悪極まる殺人鬼にして、我々人間と偉大なる公帝陛下に仇なした逆賊共だ!! どんな手を使ってでも足取りを掴むんだァッ!!」



 殺意を剥き出した怒号で、彼らに命令を下した。




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