表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アネモネな僕だけの物語  作者: 猫香果実
1/1

wonder a steady

「教師」に憧れた経験はあるだろうか。

 こんな授業をしてみたい、

 色んな生徒と交流してみたい、

 十人十色な色んな思いがある。


 そして僕、「神宮司奏多(じんぐうじかなた)」は英語教師だ。日々生徒に、英語の楽しさを教えている。自分で言うのは何だが、結構生徒から人気がある。

 いや、人気の出るように交流したり、授業を作ったりしてるため、当然ではあるが。


「お疲れさま、最近疲れてるでしょ? たまには休んで」


 僕は勉強が苦手だった。

 だから部活を頑張ろうと、中学でそこそこやり、

 高校でも続けて頑張ろうと、そこそこ強い高校に入学。

 だが結局、そこそこやって嫌になり、退部した。

 実に中途半端な人間である。


 僕は勉強が苦手だった。

 中途半端に勉強をサボった。テストなんて、だるいだけだし面倒くさい。


 僕は勉強が苦手だった。

 中途半端な学校生活に飽きてきた。学校なんてつまらない。刺激がない。

 自分を変えてくれる何かがない。

 ………もう、なにやっても無意味だ。


 けれど。

 ある「転機」が訪れた。

 それは出逢い。それは刺激。それは、恋。

 こんな僕に手を差し伸べてくれる、愚かな存在。愚かで、愚かだけど、とても重要な存在。


 僕はあの日、図書室で起きた、あの出来事があったから教卓の前に立ち、楽しく一生懸命仕事をしている。


「ねぇ、聞いてる? 疲れてるなら、仕事手伝おうか?」


「あ、あぁ。 少し過去を思い出しててさ、ボーッとしてた」


「そう……これから『あの人』のお墓参りだもんね……じゃあ、これ終わらせてから支度しておくから、神宮司くんも支度しておいて」


「わかった」


 僕は生徒から質問のあった単元、文法を分かりやすく教えるため作ったプリントの印刷を急ぐ。

 身支度の終わった彼女は「先にスーパー寄っておくね」と言い残し、いつもの小さい瓶に入った酒と、花を買いに行った。


 ……………………


 僕は車を20分ほど走らせ、目的地に到着した。遅れて彼女も合流する。

 線香を買い、桶に水をいれ、墓石掃除の準備をする。

墓石の前に立つと、語りかけるように彼女は口を開いた。


「久しぶり、先生っ」

挨拶をした彼女に続いて僕も「久しぶりです」と呟く。

「先生には、本当にお世話になったよね」


「あぁ、ただ感謝しかないよ」


 ……………………………


 愚かで、愚かだけど、とても重要な存在。

 それは、高校時代の国語教師だった。

 才色兼備で生徒みんなの憧れだった女性教師。

 僕はあの日、担任から「会わせたい先生がいる。放課後に図書室へ行くように」と伝えられ、その時はてっきり叱られるのかと思っていた。

 けれど、図書室に居たのは生徒指導の先生ではなく、ガミガミ煩い学年主任でもなく、

「玲奈先生」だった。

 僕はそれと目が合うと、瞬時にとなりに居た女子生徒とも目が合った。

 見たところ、勉強を教えられているようだった。


((あの子も関係あるのか?))


 謎の親近感を感じつつも、僕は玲奈先生の手招きに吸い込まれるように図書室へ入った。

 椅子に掛けるよう促され、椅子に手をかけ静かに腰かけると…


「あなたが神宮司君ね、担任の先生から話は聞いているわ」


 ほのかに香る甘い匂い、艶があって滑らかな髪、キリッとした目、そして生徒から憧れを持たれるほどの、仙姿玉質(せんしぎょくしつ)容姿端麗(ようしたんれい)なその美しさは、僕の心を鷲掴みにする感覚を覚えた。


「成績不良、部活動も退部し中途半端な生活を送っている君に、これから毎日やってもらうことがあるわ。」


「は、はい、なんでしょう……」


 この時僕は、今までに経験したことのない、名前のない感情が体中を駆け巡っていた。同時に顔が火照っているのに気が付いた。

 本当は毒舌ぶりにツッコミを入れたいところだけど、そんなことが出来る場合じゃない。



「まず、私は国語教師の『橘 玲奈(たちばは れいな)』と言います。あなたにはこれから放課後は毎日、図書室に来て私と勉強してもらいます。」


 僕は考える思考が止まり、ただぼーっとしていた。それは、美術館の展示物をずっと眺めている感覚に近い気がする。


「返事は『はい』」


「あ、はい」


「ちなみに、隣の彼女も放課後の勉強会に参加することになっているわ。二人とも頑張ってね」












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ