wonder a steady
「教師」に憧れた経験はあるだろうか。
こんな授業をしてみたい、
色んな生徒と交流してみたい、
十人十色な色んな思いがある。
そして僕、「神宮司奏多」は英語教師だ。日々生徒に、英語の楽しさを教えている。自分で言うのは何だが、結構生徒から人気がある。
いや、人気の出るように交流したり、授業を作ったりしてるため、当然ではあるが。
「お疲れさま、最近疲れてるでしょ? たまには休んで」
僕は勉強が苦手だった。
だから部活を頑張ろうと、中学でそこそこやり、
高校でも続けて頑張ろうと、そこそこ強い高校に入学。
だが結局、そこそこやって嫌になり、退部した。
実に中途半端な人間である。
僕は勉強が苦手だった。
中途半端に勉強をサボった。テストなんて、だるいだけだし面倒くさい。
僕は勉強が苦手だった。
中途半端な学校生活に飽きてきた。学校なんてつまらない。刺激がない。
自分を変えてくれる何かがない。
………もう、なにやっても無意味だ。
けれど。
ある「転機」が訪れた。
それは出逢い。それは刺激。それは、恋。
こんな僕に手を差し伸べてくれる、愚かな存在。愚かで、愚かだけど、とても重要な存在。
僕はあの日、図書室で起きた、あの出来事があったから教卓の前に立ち、楽しく一生懸命仕事をしている。
「ねぇ、聞いてる? 疲れてるなら、仕事手伝おうか?」
「あ、あぁ。 少し過去を思い出しててさ、ボーッとしてた」
「そう……これから『あの人』のお墓参りだもんね……じゃあ、これ終わらせてから支度しておくから、神宮司くんも支度しておいて」
「わかった」
僕は生徒から質問のあった単元、文法を分かりやすく教えるため作ったプリントの印刷を急ぐ。
身支度の終わった彼女は「先にスーパー寄っておくね」と言い残し、いつもの小さい瓶に入った酒と、花を買いに行った。
……………………
僕は車を20分ほど走らせ、目的地に到着した。遅れて彼女も合流する。
線香を買い、桶に水をいれ、墓石掃除の準備をする。
墓石の前に立つと、語りかけるように彼女は口を開いた。
「久しぶり、先生っ」
挨拶をした彼女に続いて僕も「久しぶりです」と呟く。
「先生には、本当にお世話になったよね」
「あぁ、ただ感謝しかないよ」
……………………………
愚かで、愚かだけど、とても重要な存在。
それは、高校時代の国語教師だった。
才色兼備で生徒みんなの憧れだった女性教師。
僕はあの日、担任から「会わせたい先生がいる。放課後に図書室へ行くように」と伝えられ、その時はてっきり叱られるのかと思っていた。
けれど、図書室に居たのは生徒指導の先生ではなく、ガミガミ煩い学年主任でもなく、
「玲奈先生」だった。
僕はそれと目が合うと、瞬時にとなりに居た女子生徒とも目が合った。
見たところ、勉強を教えられているようだった。
((あの子も関係あるのか?))
謎の親近感を感じつつも、僕は玲奈先生の手招きに吸い込まれるように図書室へ入った。
椅子に掛けるよう促され、椅子に手をかけ静かに腰かけると…
「あなたが神宮司君ね、担任の先生から話は聞いているわ」
ほのかに香る甘い匂い、艶があって滑らかな髪、キリッとした目、そして生徒から憧れを持たれるほどの、仙姿玉質で容姿端麗なその美しさは、僕の心を鷲掴みにする感覚を覚えた。
「成績不良、部活動も退部し中途半端な生活を送っている君に、これから毎日やってもらうことがあるわ。」
「は、はい、なんでしょう……」
この時僕は、今までに経験したことのない、名前のない感情が体中を駆け巡っていた。同時に顔が火照っているのに気が付いた。
本当は毒舌ぶりにツッコミを入れたいところだけど、そんなことが出来る場合じゃない。
「まず、私は国語教師の『橘 玲奈』と言います。あなたにはこれから放課後は毎日、図書室に来て私と勉強してもらいます。」
僕は考える思考が止まり、ただぼーっとしていた。それは、美術館の展示物をずっと眺めている感覚に近い気がする。
「返事は『はい』」
「あ、はい」
「ちなみに、隣の彼女も放課後の勉強会に参加することになっているわ。二人とも頑張ってね」