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エメラルドの石板

「わしはシンセンじゃ。おぬし、名を何と言う?」

「バテル。ディエルナ伯の三男、バテル・クラディウス」

「ほう。貴族か。貴族らしさは微塵も感じぬが、それも転生者ゆえか?」

「そうかもな。前世に引きずられているのかもしれない」


 相手が転生者について知っている以上、隠し立てする必要もないだろう。

 バテルは正直に行くことにした。そのほうが話しやすい。

 

「クラディウス家は武門の家だから少し普通の貴族とは違うというのもあるかもしれないけど」


 クラディウス家は代々、ダルキア地方で戦に明け暮れてきた武門の家。俺はそこの三男坊で、父と母、二人の兄はみな、軍人だ。

 父と母と一番上の兄は、軍を率いて国境線地帯で異民族相手に戦争中で、もう数年は帰ってきていない。二番目の兄も帝国内を渡り歩いていて、しばらく顔を見ていない。


「武門の家か。およそ錬金術とは関係なさそうじゃな」

 

 シンセンは顎に手を当て何やらぶつぶつといっている。


「錬金術?」


 そういえば、石板に書かれていたことも錬金術に関してだった。


「いや、なんでもない。ところでバテル。子供がひとりでなぜ、こんな森におる?」

「ちょっと魔法と剣術の修行にね」

「なるほどのう。一人で修業をしに来たというわけか。殊勝な心掛けじゃ」


 実際は、訓練しているだけで、まったくと言っていいほど、上達してないけどな。 

 長年の訓練で、体力はついたが、魔法は、てんでダメだった。

 前世の記憶に引っ張られているせいか、まともに起動することもままならない。

 そんなこんなで、魔法による身体能力強化が大前提の剣術も一向に進歩しない。

 今のままでは、魔物に勝てそうもない。


「一つ頼みがある」

「ほう、頼みとな。人にものを頼む以上、それに見合う見返りが必要じゃが、覚悟はできておろうな」

「ああ、俺にできることならなんでもする。だから、俺に戦い方を教えてほしい」


 バテルは深々ともう一度頭を下げる。

 シンセンは、自分のおかげでこの森には、魔物が寄り付かないのだといっていた。

 ここ、ダルキア地方は、国境から近いこともあって、強力な魔物が跳梁跋扈する魔境ともいえる場所だ。

 そんな魔物たちが、避けるほどに強力な存在であるシンセン。

 シンセンに頼めば、強くなれるかもしれない。

 生き残っていくためには強くあらねばならないとバテルは考えた。

 

「よし。わかった。わしがおぬしに戦い方というものを教えてやる。その代わり、わしにあの石板の文字を読んで聞かせてくれ」

 

 シンセンは、二つ返事で了承した。

 

「それだけでいいのか?」

「なんじゃ。不満か。おぬし、さては解剖されたいのか?」

「いいいいいえ。大満足です」

「ならば、よし。どうやら、おぬしはあの石板の価値を正しく認識していないようじゃな。わしはかれこれ百年ちかくあの石板の解読に費やしておる。それに比べれば、戦う術を教えるなど造作もない」


 百年。

 石板の解読だけで、百年単位で時間を使えるということは、それ以上に長く生きているということだ。

 これほどいい教師はシンセンを除いてこの世界にはいない。

 最初はどうなることかと思ったが、結果オーライだ。

 

「ほれほれ。約束じゃ。早く読んで聞かせておくれ」

「えーっと。なになに」


 バテルは目を子供のように輝かせるシンセンにせがまれ、石板に近づき、何気なく触れる。すると突然、石板がまばゆい光を放ち輝き、石板を中心に刻まれた円形の魔法陣のようなものが展開された。

 

「なんだこれ? 魔法陣?」

「しまった! わしとしたことが。バテル。そこから急いで離れるのじゃ!」

 

 シンセンの焦りようをみて、バテルも危険を察知し、すぐさまその場を離れようとする。 


「ちっ、くそ、結界か。びくともしない」


 バテルは輝きを増すエメラルドの石板から逃げ出そうとするが、エメラルド色の結界に阻まれて進むことができない。何度も目いっぱい殴りつけるが、手が痛くなるばかりで、びくともしない。


 「待っておれ。今、そこから出してやる」


 シンセンは、全身に魔力を纏わせて、力いっぱい結界を殴りつける。結界と小さな拳がぶつかった衝撃で周りの木々がなぎ倒される。しかし、結界には少し傷ついた程度でほとんどノーダメージだ。


 「これほどとは……」


 シンセンは、骨が砕け散り、だらんと力なく垂れ下がった右腕をおさえながら、立ち尽くす。シンセンはダルキア地方の凶悪な魔物が寄りつかないほどの強者であったが、ただの壁相手に手も足も出ない。


 救出する術はないのかと考えていると、石板にはめ込まれた白金の剣、その柄についた五つの深紅の宝石の一つから真っすぐ赤い一筋の光が伸びた。


 赤い光はバテルの額に向かって、一直線に伸びている。まるで生きた心地がしないかった。逃げ出そうとするが、光は捉えて離さない。


「ぐ。熱い。熱い。うわぁああああ」


 全身を駆け巡る血液が沸騰したかのように体が熱くなる。悶え絶叫するがその体を内側から焼き尽くされるかのような激しい痛みを伴う灼熱からは逃れられない。

 バテルは。歯を食いしばり、全身をかきむしって痛みに耐えようとするが、やがて、力が抜けていく。


 (くそ、これからって時に……)


 バテルは、そのまま意識を手放した。

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