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過ぎ越し方、先往く方 4

 少しの間の後、再び開かれた扉の外には、大地にとってはしっくりとなじむ、都会から少し離れた街のような佇まいが広がっていた。どことなくノスタルジックな造形の建物や、のんびりとした空気感の街並みは、まるで映画にでも出てきそうな地球のどこかにある情景とさえ感じさせる。


 大きな木の、影から少し日向に抜け出た場所に、つる植物で編んだようなロッキングチェアがあり、そこに一人の老人がゆらりゆらり、まるで悠久の時の中にいた。


「やあ、グラン。客人かね?」

 中世の肖像画から抜け出したようななりの、垂れ下がるほどの眉、たっぷりとたたえた髭のその老人が、しわだらけでくしゃくしゃな笑みをグランに向ける。


「おはようございます、ユーゴ。特別なお客様ですよ」

 そう言ってグランは老人に向かって手を上げた。不思議な笑みを浮かべた老人はそれっきりまた自分の時の中に戻ったらしく、ゆらりゆらり、景色を眺めている。そんなやりとりも日常の出来事にすぎないのか、会話がそこで終わった事について、グランが特別に意思表示するふうでもない。


「特にご要望がなければ、メニューはこちらで決めますが、どうします?」

 大地にとってはスビニフェニスの食糧事情は分かるはずもなく、即座に了承する。多分、と大地は考える。


 ──オグヌイには、俺の身体の状態を測定して必要な栄養成分を随時調整する機能とかありそうだな。

 グランはそんな大地を見て、静かに微笑んだ。


 入った先はログハウスのような造りの食事処だった。綺麗にブロンドを編み上げた少女がグラスを運んできた。内部に螺旋を描いた気泡を閉じ込めたそのグラスは、手に持つと指の形のまま少しへこんだ。とても持ちやすいと感じた。


 少女もまた金色のアイラインを引いたようなくっきりとした輪郭の目を持っていた。どうやらこれがこの星の人間の特徴なのだろう。


「カフェインは大丈夫ですか?」

「Yes.(問題ない)」

 グランの問いは食後の飲み物についてだろうか。大地は嗜好を尋ねられたことにほっとするものを感じた。


「最新のものを二種類。食後にはスルパを二つ」

 グランがそう言うと、少女は「かしこまりました」と、さわやかな笑顔を残して戻って行った。


 ──はてさて、いったいどんな料理だろう。

 未知の星の未知の食生活だ。普段食事にはほとんど気を配ることのない大地も、さすがに期待値が跳ね上がるのを感じた。


 食事が配膳されるのを待つ間、グランはタレスターフについて話した。


「タレスターフでは、テクノロジーの進行と生活様式を同列にはしていないのです。新旧は共存していて個々が状況に応じて自由に選びます」

 大地のいた客室から屋外への移動方法、物体を見えなくしているシステムなどを鑑みると、この街並みが時代の古さを印象付けている点で、随分異質な感じがしないでもない。個人の嗜好やその時どきで、あるいは誰かに影響を受けて、共存するハイテク、ローテクのそれらの特性を、人々はどちらをも選ぶことができるのだという。


「この区画は特に、芸術に造詣の深い人々が多く住む街なので、その度合いは顕著です」

 グランが見せてくれるモタルドクには絵画や彫刻、楽器や建造物、歌を歌う人や踊る人などがサムネイルを早送りするように映し出される。使途についてまったく見当の付けられない形の物や、逆に地球のものと形状が極端に変わらないピアノやギターなどがあった。


「タレスターフでは皆、自由に個を表現することが可能です」

 しばらく経って、少女によって運ばれてきた二種類の皿は、グランの合図でそれぞれの前に置かれた。


「What a……(これ……が料理?)」

 グランの話す内容に聞き入っていたせいか、大地には運ばれてきたそれが料理には見えなかった。グランの前に置かれた皿には、牡丹か芍薬かというような大輪の花、実物としか見えない花の束が一つ、大地の方はといえば、四角くかたどられたまるで箱庭そのものではないか。


「この店の、最近できたメニューです。食材を使ったアート。写実性を重視したものと、栄養バランスなどの食材選びをメインに造形するものとに二分されています」

 心底空腹なときならいざ知らず、見た目を味わわずに食べるのは無粋に思えた。食べ方をちょっとだけ工夫してしまいそうになる。


 味は地球での料理と寸分違わないと言ってもよく、穀物や野菜など多少の違いはあっても、植物はどちらの星でも似たような進化をしたのだと感じた。スルパという名前らしいカフェイン飲料は香り高く、まろやかさとコクと苦みが絶妙なバランスをしたコーヒーのような味がした。しっかりと朝食を堪能して、店を出る。


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