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鵬程の前夜、定離への向背 7

「もっとあなたのことを知りたい。またスビニフェニスに来てくれる?」

 ティニが大地を見る目はいかにも知的好奇心が爆発しているようなきらめきであふれていて、いささかではあるが照れくささを禁じ得ない。


「くぅ。それ僕が言いたかったのに……」

 抑えていた思いをティニが代弁してしまったことで、マーシが悔しそうに大地の腕にしがみついた。


「期待に応えられるように努力するよ」

 大地はマーシの手も一緒に重ねて、ティニの手をしっかりと握りしめて笑い返した。


「僕からはこれを……」

 マークが大地の私物を持ってきていて、その中から通信デバイスを取り出した。


「永久電池に変えておいたよ。本体が機能している間はバッテリー残量を気にする必要がない」

「ああ、壊さないようにするよ。ありがとう」

「それから、ランスのこと頼むね、あいつはグランの会心の作だからさ」

「どういうことだ? むしろ俺の方が頼りにしている……」

 あ、と大地は思い出した。マークがとても何かを言いたそうにしていた時のことだ。グランはあの時から、いや、もしかしたらそれ以前から準備を進めていたのかもしれない。きっとマークはグランからまだ大地に話す時ではないと言われていたのだろう。


「ランスは、大地のために改変されたのさ。だから」

「俺がどうしたって?」

 会話を聞きつけてなのかどうかランスがにこやかに笑いながら、マークと大地、マーシにルキロドゥエスで満たされたグラスを運んできた。ティニにはフルーツを絞ったイクスと呼ばれる飲み物を手渡す。


「いや、これからの君たちの日常を想像してみただけさ」

 いったいマークはどんな想像をしたのだろう。楽しそうに答えるその顔には、二人の共同生活の予測演算にかなりの自信を持っている様子が見て取れた。


『俺も楽しみだよ』

 大地とランスが同時に答えた。その場にいる皆が顔を見合わせて、一瞬の沈黙の後爆笑が広がった。グランはずっと傍にいて入れ代わり立ち代わりの皆の大地とのやりとりを見守っている。


 マリマトラムの担当は、マーシが弾き終えた後、クロネに引き継がれている。


「いい具合に盛り上がってるな。旅立ちの前夜祭だ、楽しくいこうぜ」

 大地の周りがひとまず落ち着いたのを見計らったように、クリスとフィンが連れ立ってやってきて、大地の目の前で一枚のプレートを示した。


「これは俺たちから。船の名前を刻印したんだ」

 カリグラフィのように流麗な飾り文字で彫刻されたそのプレートは、操縦室の正面中央にはめ込むようにできているのだそうだ。大地はこの船の名前をまだ聞いていなかったことに気付いた。


「アルレット号」

 疑問の眼差しを投げ掛けたのを受けて、グランがプレートに刻まれた文字を読み上げた。心の中で大地はそれを復唱した。


 ──アルレット。この響き、なんだかとても心になじむ。

「ランスにプレートを取り付けてきてもらいましょう」

「お任せを」

「大地の荷物は私が部屋へ運んでおきます」

 それからグランはケースと共に、立てかけておいたアラティクを手に取り、大地の持っていた私物を受け取って、ランスと二人でその場を出て行った。


「監視衛星の画像だよ」

 トニアがモタルドクで見せてくれたのは、PA‐002が何もない空間からまさにスビニフェニスの星域に突如として現れた瞬間だった。視点の違う、最初に見せられたものより以前の映像だ。グランが見せてくれた、タレスターフの人々の命運を分けることになった時の隕石群の出現の仕方とそっくりだった。


「君が知りたいだろうと思って、アルレットの記憶領域にコピーしておいたよ」

「そうか、ありがとう」

 大地はその映像に何かしらのヒントが見いだせないかと思ったが、宇宙空間の透明な壁の向こう側から押し出されてきたようなPAの他に、この現象の解明になるようなものは何も映ってはいなかった。


「この先何があるか分からないけど、無事に目的を完遂できるように祈っているよ」

 大地の肩に手を置き、言ってからトニアは弾みをつけるように手を離した。大丈夫だとは思うが諦めたりするなよ、とその目が言っていた。


「ああ」

 頷いて、大地は握った拳の親指を立てた。


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