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鵬程の前夜、定離への向背 6

 むしろ重なり合っているという次元を人為的に超えることが可能なのだろうか、という思いに結局はたどり着く。できるのならとおの以前にやっているはずだ。グランは必然だと言い切る。それなら大地が結果として地球へ戻る事はかなわないということ、あるいは帰らないべきということなのだろうか。


 ──まあ、いい。これ以上考えるのはよそう。考えたって答は出やしないんだ。

「ありがとう」

 思いに入り込んでいた大地をグランは戻ってくるのを静かに待っていて、大地の言葉に頷いた。


「そろそろ皆が来る頃です」




 操縦室でランスと合流し、最下層のかなり広い一室に降りると、そこはマリマトラムも運び込まれた宴会場と化していた。この船がスビニフェニスに《《いる》》時だけ使用可能な、ムイジセブとの接続を経て大地との別れを惜しむ者たちが乗船してきた。


「大地!」

 一番先に飛びついてきたのは例によってマーシだ。それから、マーク、クリス、フィン、トニア、ティニ、クロネと続く。


 マーシが大地から離れたがらないのを皆はすでに分かっていて、まずは存分に音楽を楽しむことにした。マーシはワンダに作らせたアラティクを持ってきていて、「餞別だよ」と大地に贈った。


「出発前だから、明るい曲でいこう」

 そう言ってマーシは演奏を始めた。室内では皆それぞれが飲み、食べ、演奏を聴き、大地と過ごした時間は決して長かったとは言えないにしても、地球人である大地を知ることでいかに充足していたのか、ということを改めて話していた。


 大地は音の一つ一つに吹き込まれている生命を感じながら、マーシに引き上げられるまま、マーシの紡ぎ出す音色に包み込まれるままに音と声を重ねていった。


 ──なんて満ち足りた時間だ。

 この瞬間は、大地の心の中の負の要素が消え失せてしまうほどの魅力、それともそう言ってよければ魔力を持っていた。


 ──少なくとも以前の俺じゃない。

 何千回、何万回と繰り返したとしても、ありがとうの言葉だけでは伝えきれない感謝の気持ちを、大地は痛いほどに胸に抱えていた。けれど、どうにかして伝えたい、と、歌う言葉にありったけの思いを乗せた。


 皆が優しい微笑みを浮かべながら聴いていてくれるのが無性に嬉しかった。


 演奏を終える。大地とマーシは互いに固く握手をした。


「ありがとう、大地。本当に、本当にいい刺激をもらったよ」

 これからの自分にとって確かな指標をくれたのは他の誰でもない大地なんだとでも言いたげに、目を輝かせてマーシが言った。


「こちらこそ。ありがとう」

 マーシに返した微笑みが、以前の自分とは違い、ずいぶんと柔らかいものに近付いているのを自分自身でも感じながら、大地はマーシの肩を抱くようにして、その手にしっかりと思いを込めて感謝を伝えた。


 そこへ、ティニが握手を求めて大地のそばにやってきた。


「資料を見せてもらったんだ。あなたがメタティリバスに適応していく過程を記したものを」

「俺の?」

 大地のDNAに書き加えられた、メタティリバスに関する情報に身体がなじんでいくまでの経過などが記録された資料を、ティニは見ることができたのだろう。この子は新たな分野を取り込みながら、自分の最も興味のあるものを、これからも探求していくのだろうと大地は思った。


「うん。改めて、だけど実感したよ。人体は完成形じゃないんだって。進化の途上にあるんだって。環境に応じて進化とか排除とか封印とか、いろんなことを繰り返しているんだなって。科学が発達すればするほど短いスパンで、何千年、何百年、何十年かしたらヒトは今とはまったく違う生き物になってるかもしれないって思うと、すごく心が騒ぐんだ。だから、あなたにお礼を言いたかったんだ」

「君のためになれたなら嬉しいよ」

 ティニは歴史の中の出来事としてはすでに学習してはいるものの、実際の人間、それも異星人というスパイスが加味された生身の身体が構造を変えていくのを、まさに現在進行形で観察したことに対して興奮を覚えたのだろう。


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