鵬程の前夜、定離への向背 5
グランはエスネムが表示させた見取り図を示して言った。立体図面の中で船の中央から前方寄り、階層では上から三番目の位置にあり、外形のなだらかな曲線をその部屋の構造に含む場所が現在位置として色付けされている。
「大地のオグヌイにもデータを入れたので、必要に応じて参照してください」
「少なくとも船内では迷子にならなくて済むってことか」
《ガイドならわたしに任せてください》
エスネムが自分を頼ってくれてもいいのに、というニュアンスで言ったように思えた。
「頼もしいね」
大地は嬉しそうに笑った。
グランはランスを残し大地と二人で船内を見て回ることにした。操縦室を船の中心方向へ進み、グランが足を止め二人がそこに立つと、乗降装置が作動した。ぼんやりとした半透明の光の壁が周囲を取り巻くように現れ、それから足元が垂直に上昇する。
「行先が上でも下でもイメージした通りに動作します」
船内の階層間の移動は通常、何カ所か備えられているこの乗降装置を使うらしい。
二人は船の一番上の階へと向かった。
惑星への着陸に関しては、宇宙連合の規定によって母船で降りられる星もあれば、規格に準拠した小型艇か連絡船によるかしなければならない星もあり、そのための小型艇が二艇搭載されているという。最上階は、緊急脱出用として独立分離する数人が搭乗可能な、コールドスリープシステムも備えてある宙間航行可能の小型艇となっている。
「使用する時はないことを祈っていますが」
緊急脱出についてグランの言い方は不安を感じさせるものではなく、どちらかといえば考えうるトラブルは想定してあるが、という注意喚起のように聞こえた。階層を一つ降りると、そこは大地のための居住区画だと説明された。
「この区画をどう使うかは大地の自由にして構いません」
そこにはリビングとしてゆっくりと過ごせる落ち着いた空間と、トレーニングルーム、書斎というか執務室とかいった雰囲気の資料室、防音装置の組み込まれたシアタールーム、そしてアルスパクとバスタブの併設された浴室があった。
「すごいな」
これまでグランが大地についていろいろなことを検証した全てが、そこに反映されているような気がした。
「旅路は長いですから、後でゆっくりと機能を確認していくといいですよ」
ランスがこの船については熟知しているし、エスネムをガイドにすることもできるから心配はないとグランは言い、詳細に説明することはなく、最初にいた階層に降りた。
かなりはしょりながら見ていったが、ある種の食料は船内でも自給自足可能だし、備蓄のための設備もスペースも充分に取ってある。完全にこれは一人、二人用の船ではないと大地は感じた。
キッチンだとか、会議室だとか、菜園だとか、武器庫だとか、そう、武器を搭載していた。考えてみれば当然のことだろう。スビニフェニスが特別なのであって、大概は争いというものはどんな世界にでも存在する。この星を出るのであれば、身を守るためという意味でもそれらは不可欠だろう。
「使わないに越したことはありませんが」
グランが言うには、船自体も対外的戦闘能力を持っているのだという。可能な限りステルス性能、シールド機能を強化して、戦闘などの局面は避ける方向性を重視しているとは言っていたが、広い宇宙で何がどうなるかなど、誰にも予測できようはずもない。
「それから、エスネムは大地の異常を検知した時、自動的にスビニフェニスに帰還するようにプログラムされています」
つまり、自分の身に何か起こった時というわけか。ランスで処理しきれない何か、例えばタレスターフでさえ未知のウィルス感染や、最悪自分の生体反応が検知できなくなった場合、なのだろう。
──ありがたいことだ。
グランならきっと自分のこの先を心配してくれているのだろうから。もし自分が死んでも、少なくともそれを伝えることはできるだろうということだ。もしも、この次元を超えたどこかに行き着いたとしても、この船はきっとスビニフェニスに戻ってこようとするのだろう。シメリティプチの一条の道標を探して。
仮に大地が物理的に戻れなくても、ランスがそれをグランに伝える役目を担っているのだろうし、よもやランスがどうにかなるなどそれこそ想定外と思いたい。




