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鵬程の前夜、定離への向背 4

 大地のオグヌイに、グランはこの船の管理者の権限を委譲した。それから乗船のためのイメージを、こんなふうにして、と伝えられた通りに大地は思い描き、船の昇降用の動力装置を作動させた。扉が頭上でスライドし、淡い光──昇降装置──が地面に向かって降りてくる。システムの動作は意識と連動する。始動も停止も、一時停止も任意に行える。何も難しいことはなかった。速度さえもイメージした通りに変化する。船に乗り込むと、二人の足元で扉がスーッと閉じた。


 ──これを、俺に?

 隔壁が開き、通路に出る。グランの後に続いて通路を先へと進み、先ほどの昇降装置のような空間を経て、どこをどう進んでいるのか分からないまま、とある一室に着いた。操縦室のようだ。誰かいる。


「ランス」

 グランの声に呼ばれた人物は振り向き、二人に向かって笑顔を見せた。均整の取れた身体つきで、紫紺の長い髪を無造作にバンドで止めている。整っているが野生的な顔つきをしている。


「お待ちしていました」

 そう言って大地に握手を求めてきたランスのその手を握り返し、大地はランスの手の感触がとても滑らかなのに気付いた。


「彼を大地の補佐として同行させます」

 思いがけないグランの提案に、一瞬どう反応していいのか分からず、大地はグランを見つめた。もちろん、安堵に近い嬉しさが湧き上がっている。


「本当に? それは心強い。でも、彼は……?」

 この星の人間が、どこにあるとも知れない、行き着けるかどうかも分からない、帰ってこられる保証のない奇航に同行するというのか。彼に戸惑いや不安はないのだろうか。この提案が大地にとってはかくもありがたいものであるのに対し、彼にとってはいったいどんな利益があるというのだろう。


「ご心配なく」

 グランがランスに向かって何か指示をしたように見えた。その直後、ランスの姿がゆらゆらと輪郭を崩しはじめ、液体金属のように形を保っているのといないのとの中間のような動きをして、次第にその外観を変えていった。


 大地が、ランスが人間でないことを理解するのに秒もかからなかった。ついさっきまでランスだった彼は、()()になり、それからさらに大型犬のようなふさふさとした長毛の()()にと変化した。


「そういうことか」

「ムタンドロイドです。大地は彼とどう付き合いたいですか?」

「どう、とは?」

「部下でも、下僕でも、お好きなように」

「……。相棒がいいな」

「分かりました。ランス、今から大地の相棒として任務を遂行してください」

「承知しました。今から大地の相棒として任務を遂行します。よろしくな、相棒」

 大きな動物はすぐにランスに戻り、グランの言葉を復唱した後、大地に向かってもう一度手を差し出した。


「こちらこそ、頼むよ」

 大地はランスの手を取り、それから握った手の四本の指を上側に向けて握り変え、その手に力を込めた。グランが予想していた展開だったのかどうかは聞かなかったが、大地はグランがいつもと変わらぬ静かな微笑みを浮かべていることで、ランスという存在が問題なく受け入れられたことに安心しているのだと感じた。


「それからもう一人」

《もう()()はエスネムです》

 船内に嬉しそうに響く声がした。声の主を探して辺りを見回したが他に人影はなく、大地が言葉の違和感から導き出した想像をグランが裏付けた。


「彼は、この船の人工知能です」

 大地はどこを向いて話せばいいのか一瞬迷ったが、船全体に声を掛けるイメージであいさつした。


「なるほど。よろしく、エスネム」

《大地がわたしを必要とする時、いつでも呼んでください》

 合成音声であるはずなのに、エスネムの言葉に微笑んでいるようなイメージを感じたのは気のせいだったのだろうか、と大地は思った。


「ここは操縦室で……」

グランの言葉に反応したように、室内中央付近に領域を持つモタルドクに宇宙船の立体全体図が表示された。スケールを小さくした模型が浮かんでいるようでもあり、しかし意識に連動しているのか、内部を見ようとするとその部分が半透明に変わり、細部にわたってその構造が確認できる。


「この場所に位置しています」


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