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錯落の青、幻想の青 7

 室内のどこに光源があるのか分からないが、陽が落ちて、青い部屋は蛍火のようなぼんやりとした明るさで柔らかく包まれた。


「眠る前にワクチンを打ちます。ほとんど副反応は出ないのですが、大地は念のため明日一日ここで経過観察です」

「分かった」

 グランは、マークが絞り込んだ候補先の座標に向かう途中で大地に起こるかもしれないリスクを、過去の例からリストアップしていた。大地にとっては未知の、スビニフェニスには既知のウィルスへの抗体を投与しておかなくてはならない。


 いくらDNAの型が似ているといっても、その成立ちは別の世界、別の環境で構築されたものだ。グランの配慮はありがたかった。


 ロボットに夕食を運んでこさせ、二人は空が見渡せる室内でゆったりとした時を過ごした。


 食事を終え、大地はモスコミュールのような味のルキロドゥエスのグラスを持って、薄青いグラデーションの透明な窓というべきか壁というべきか迷う物の傍らに立って外を眺めた。


「不思議な景色だな」

「ええ」

 頭上に広がる青みの消えた黒い空には星々が静かに、瞬きながら点在している。


 視線を落とすと、そこは青、緑、赤紫、などといった色彩の変化する空間だ。光彩がうごめくような、オーロラが揺らめくような幻想的な光に目を奪われる。


 さらに下方はというと、もはやそこに何があるのかは分からなかった。ぼんやりとした影のようでもあり、深淵のようでもあった。街や野や山、海、そういった何もかもが今はそこには見えていない。そこが海抜でどのくらいの数字を示すのか、大地には見当もつかなかった。


 幻想的なそれがグランの演出によるのかもしれないとさえ思える自分が可笑しくなって、大地はくすっと笑った。


「どうしました?」

「いや、なんでもない。あまりにも今までの日常とかけ離れているんでね」

 大地はソファへ戻ると、空になったグラスをもう一度満たした。


「どちらも現実ですよ」

 グランは静かに言った。今大地はここにいる。地球ではないここにだ。そしてグランと共に過ごしている。確かな現実だ。


「ああ、確かに」

「私は、大地がここへ来たのは必然だと考えているのです。そして出て行く事も。さらに言えば……」

 グランの言いたい事は分かった。


『このままここにいて欲しい』その思いの裏に何故だか悲しみが漂っているのを大地は感じていた。悲しみ? それとも寂寞とでも言おうか。諦めと喪失と、複雑に相まってはっきりと言葉では表せない感情。


「再び戻って来るでしょう事も」

 グランは言い淀んだ後の言葉を、大地の心中を察してか言い換えたように思えた。グランには筋書きが見えているのだろうか。それならば、グランにとっては大地がいったんこの星を去る過程を省略することが合理的に思えるのかもしれない。いや、合理的というより理想的なのだろう。


 そこまで考えて、ふと大地はグランの過去はいったいどんなものだったのだろうと思った。タレスターフにおいても、自分自身においても達観していて、それでいて翳りを消せないグランの歩んできた人生とは。


 自分が二人目の他次元からの訪問者なら、では一人目は? という思いがよぎる。

仮にグランがその一人目だとしても、そうではなかったとしても、その人物はおそらく母星への帰還を試みたのだろう。そしてその人物がグランだったのだとしたら、それは成し遂げられなかったことを意味する。つまり宇宙へ、母星へ向けて出ていくことは無駄足になるのかもしれない。


 しかしその時とは違う結末を迎えるかもしれない可能性が、おそらく地球からの、あの電波を拾い上げた時に生まれたのだ。いずれにしても、大地はそのことをグランに尋ねるつもりはなかった。聞いたところで大地の気持ちはすでに固まっている。



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