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過ぎ越し方、先往く方 3

 昨日見た立体宇宙図が、ランダムに歪みをシミュレーションしている。となれば、大地が元の場所へ帰ることのできる可能性は、限りなくゼロに近いと言えるのではないか。


「二艇のPAが艇間距離を開けていた分、お探しの方は別の宇宙へ移動した可能性が高い、あるいは転移していないのかと思われます」

 淡々と話すグランに、彼の心情を測るに足るほどの情報がなかった。


 ──稀ではあっても、珍しいことではない、か。さて、どうしよう。

「転移の時の状況を話してくれますか?」

 グランが次に知りたい事が分かった。


「O.K. We were planning to leave The Earth for the purpose of migration. (地球、俺のいた惑星では移住を目的として母星を後にする計画を立てていた……)」



 地球では宇宙ステーションの規模を拡大し、近くの宇宙空間には船を建造するドックが造られた。移民団の居住区を有する母船や、農耕専用、さまざまな資材の作製を行う工業用、人類の生存に関わる機能に特化した研究機関を兼ねた特殊用途用、タンカーや起重機船などが計画の通りにその全体像を構築しつつあった。


 移住に適した惑星の候補先を絞り込むために、得られる限りの惑星探査情報を蓄積すべく、観測衛星や探査機が続々と打ち上げられ、送り出され、次々に新しい情報が届いた。


 宇宙ステーションでは移住プロジェクトチームが、いまだ遭遇したことのない相手を想定した対外的な防御あるいは攻撃機能を、どのレベルまで引き上げるべきか、論議がなされている最中であった。


 そんな中、プロジェクトチームからの呼び出しを受けた大地と菜月が、建造中の母船に向けて宇宙ステーションからそれぞれのPAを発進させたのだった。


 大地たちの操縦していたPAは、主として船団間の移動用に使われるものであり、よって、戦闘機能を持たない近距離移動用の小型艇だった。


そして、あの光。



 ──どっちにしても、あの小さなふねでは地球に帰るどころか、外宇宙の長期間航行も不可能だろう。

 大地は話し終えると、もう一度立体宇宙図を眺めた。この複雑に描かれた点と線のどこかに、大地の見知った形は見つけられないだろうか、と。


「あの小型艇をわれわれが調べても構いませんか? 収容した時すでに、機体内部の酸素濃度や気圧、ダイチの着用していたスーツなど最低限必要な項目についてはデータを取っているのですが、もっと詳しく……」

 事後報告ではあるが、当然の処置である。人類が生存を可能とする惑星の全てが同じ構成の大気や重力を持つわけではないだろう。もちろん、ウィルスや微生物の存在も含めてだ。大地をこの星に受け入れる前に必要な検査は行われたはずだ。


「Of course. About all details, I want you to confirm. (もちろん。異存はないさ。むしろ君たちの技術で新たに分かることもあるだろう)」

 茶目っ気を見せて大地が笑った。自虐的と取れなくもないが、こんな表情ができることを覚えている仲間はほとんどいないし、大地自身も忘れていた。


「今後については状況を見ながらダイチが望む方向に進めましょう。ところで食事をしに行きませんか?」

 微笑むグランの表情がやけに心を落ち着かせる。まだ実質一時間に満たないくらいしか共に過ごしていないというのに、何か気の置けない古くからの知り合いと一緒にいるとでもいうようなこの安堵感はどうだろう。


「Thanks a lot. (いろいろとありがとう)」

 立ち上がり、室内に入ってきた時と同じ壁へ向かって歩きだしたグランに、大地は言葉を掛けた。


「お礼を言わなくてはならないのはこちらです」

 意外にもグランの答は大地の予想とは違っていた。


 二人は壁が口を開いたその向こうへ歩を進めた。すぐさま扉の閉じたその場所は、二メートル弱四方ほどの立方体とも球体ともつかない曖昧な閉鎖された空間だった。一瞬重力から解き放たれたような気がした。


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