錯落の青、幻想の青 3
「なるほど」
大宇宙の中で隔絶された星、スビニフェニスの見えざる姿がそこにある。
「では戻りましょうか」
グランがそう言うと、トニアは装置を作動させた。
不思議に重なり合う暗闇の中にある、目には見えない星からの信号は、パトロール艇の現在地からさほど離れていない場所に届いた。信号と完全に同調する座標まで移動し、そこからパトロール艇は闇へ向かって前進した。
「外から星に向かう時に、この航路を通らない限りわれわれのスビニフェニス星には到達できないのです。重なっている数多の空間のどこに入り込むか分からないからです」
かつて宇宙に出てそのまま帰ってこなかった船がどれだけあったのだろう。確実に自分たちの住む星へ帰還するための航路をタレスターフの人々は多くの犠牲を払いながら開いていったのだろう。
空間を共用している他の次元には、別のスビニフェニス星が存在するのだろうか。それともただグランたちのスビニフェニス星だけが、時空間のねじ曲がった混沌とした渦の中に閉じ込められたのだろうか。この状態が永遠に続かない可能性があることも彼らは知っている。だからこそ、外の世界のことも積極的に知ろうとするし、平和の上に胡坐をかいているわけでもないのだ。
ただ一本の道標に導かれて暗闇に向かって進むと徐々にスビニフェニス星の青い姿がはっきりと現れてきた。
「大地、来て」
釈然としない気持ちを言葉に含んでマークが呼んだ。
「分かったのか?」
クリスが操縦していた時にPAの通信機が捉えた電波は、録画装置からの通信では他の音が多数含まれていたため、結局小型艇に残されたものから拾い上げた。マークが雑音を除去した音源を再生すると、断片的な声が聞こえてきた。
《……re…a……u……an…y……ear……m…》
「なんて言ってるか分かるかい? 地球の言葉のようじゃない?」
「ああ、多分そうだ。でもはっきりと聞き取れない」
──この感じはおそらく、英語だ。
どういうことだろう。その一瞬だけ時空がつながったというのか。それとも通信の伝わり方にタイムラグが生じたか? 取り残されていた電波が、時空の揺らぎの中で押し出されてきたのか。
「大地が地球に帰れる確率が上がったということですね」
グランが静かに言った。ほんのわずかのきっかけで切れてしまいそうな糸ほどのつながりではあるが、そこに地球とスビニフェニス星との深い関りを見たような気がしたのだった。音源では何が話されているのかを、そのイントネーションによる疑問の形から想像するしかないが、いずれにしても大地にとっては地球へ還るという選択肢を捨てる確率を大きく減らすきっかけとなった。
沈黙がその場を支配した一瞬を破るように大地は答えた。
「そう、だな」
グランは、カイを開くように大地に言い、音声ファイルをカイに複写した。大地はPA-002について書き加え、カイをミューズムに戻した。
地上に戻りパトロール艇を降りると、フィンとクリスは連れ立ってPAをパトロール艇から降ろす作業に、マークとトニアはそれぞれの持ち場へと別れていった。
「何かやっておきたいことはありますか?」
グランはいつものように大地の意思を尊重して、自分が提案したいことを大地の言葉の後に言うのだろう。何か予定していることがあるのかもしれない、と大地は思った。
「トレーニングだけだな、別に時間はいつでも構わないんだ」
「では、マーシが大地に会いたがっているので、一緒に過ごしませんか?」
大地が断らないこと、むしろ望んでいることをグランは知っている。知っていて静かに微笑んでいる。
「大歓迎だ」
また、本来大地が持っている素のままの笑顔が出る。こうして心が少しずつ少しずつ開かれていくのかもしれない。マーシの奏でる音を思い出すと、途端に大地の胸をギュッと何かが締め付ける。




