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錯落の青、幻想の青 2

 大地は自分の動作を説明しながらPAを航行させた。クリスは自身の知らない部分について適宜質問をしてくるので話が早い。


《どうだい、順調そうだが》

 トニアの声がする。球体は録画と同時にリアルタイムでパトロール艇へ映像と音声を送っているのだ。


「ああ、大丈夫だ。これからクリスと操縦を代わる」

 大地はそう言うと、操作手順を説明しながらクリス側へコントロールを移した。さすがに未知なる星の機械を任されただけはある。何の苦もなくクリスはPAを操った。あとは、スビニフェニスの船にはない機能を説明するだけで済む。


 しばらくすると、PAの通信装置から何かが聞こえた。かすかな雑音のようなそれを機材が捉えたのを大地は聞き逃さなかった。


「マーク、今のを解析してくれないか?」

《了解》

 録画装置を通した音源で分からなければ、PAの通信装置の履歴を取り出せる。大地にはチャンネルの合っていないラジオのようなその音が妙に心に引っ掛かった。しかし、それきり正体不明の音は再び聞こえてはこなかった。


 液体燃料を使い切らずに、クリスは試運転を終えた。PA-002を収容したパトロール艇は静止から一転、外へ向けて進み始めた。


「星を見ていてください」

 グランに言われて大地は外へと視線を移した。少しずつ小さくなっていくスビニフェニス星。青く、美しい星は次第にその輪郭をぼやけさせていく。


「うん?」

 徐々に、二重三重に揺らめき、遠近をにじませ、星の色が混ざり、形を失っていく。ああ、これがグランの言っていた「外からは見えない」ということなのか。スビニフェニス星は、次第にその姿を漆黒の闇へと没入させてしまった。


 パトロール艇はそこで反転し、スビニフェニス星があった方向へ船首を向けた。


「どういうことなんだ?」

 大地はグランに尋ねた。タレスターフの人々はこの現象の詳細を解明しているのだろうか。それともまだ分かっていないのか。


「あの運命の日、スビニフェニス星は次元の狭間へ押しやられてしまったと考えられています」

「次元の狭間?」

 ──どういうことだ。

「正の存在と負の存在が同時に在る状態で、それが幾方向、幾重にも重なっている状態とでも言いましょうか。スビニフェニス星はあらゆる空間に存在していて、どの空間にも存在していない……」

「重なり合う空間……?」

 すぐにはイメージできそうにないが、簡単に言うならどっちつかずの存在ということなのかもしれない。つまり、タレスターフで物体が見える時、見えない時というのはそのどこにでも在ってどこにもない状態を利用しているということなのか。そして重なり合う次元は揺らぎを持っていて、いつも同じではない。壁や扉のあの揺らめく感じもそのせいなのだろうか。


「そうです。だから、ミューズムにあるカイを大地はどこにいても取り出せるのです」

 ──なんとなく、分かる気がする。

 感覚でしかない。まだ数式で証明できるとかそういった段階ではないのだろう。ただそういった現象を彼らは利用できている、というだけにすぎないのかもしれない。そして、孤立せざるを得ないという理由の一つでもあるのだ。


 宇宙の創世主は一体どんな気まぐれを起こしたというのだろう。スビニフェニス星を唯一の存在とする不思議な空間を何のために生み出したのか。運命の日ののちに宇宙に出るまでは自分たちの星がそんな事態に陥っていたことなどまったく想像もしなかっただろう。現在に至るまでの長い道のりの間には、どれだけの試行錯誤を繰り返したのか。想像できるとすら安易には言えない気がした。


「スビニフェニス星の宙域から外へ出ることはたやすいのですが、外宇宙から()()()()()()()()()()()()()へ降りるには地上の誘導装置シメリティプチからの信号とその受信装置が必要です」

 艇内の大型のモタルドクに、グランはタレスターフにある誘導装置を表示させた。


 広範囲に開けた樹々の植生を見ない土地に、まるでピラミッドのような巨大な建造物がある。地球のそれと違うのは、表面が周囲の色に溶け込んでいることだ。地球におけるかつてのピラミッドが、あたかも強く自己主張をしているさまであることを考えれば、それは逆の発想に他ならない。



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