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錯落の青、幻想の青 1

 朝の気配に眠りから覚めて、再びいつもの自分が心の多くを占めていることに気付く。


 ──ああ、俺はこれまでとこれからの間で揺れているんだろうな。

 躊躇なく穏やかな環境に身を任せたい思いと、芯に染みてしまった心の在り方が入れ代わり立ち代わり大地を覆っている不安定な時期なのかもしれない。これが過渡期だというなら、いずれ自分はそっちの世界に行けるということか。


 マーシの演奏を再生する。当分の間、これは大地の精神安定剤だ。


 アルスパクで身を清めた後、ふとお湯を張った風呂が恋しいと思う。たまには機能よりも優先させたい気分というものがある。新旧が同時に存在するここでは、これまで目にしていないだけできっとあるはずだ。


 そんなことを考えながら、幾つかの持ち物を点検し、グランを呼んだ。


 集まったメンバーは、昨夜とはまったく違う雰囲気だ。そう、強いて言えばクリスがクールな刺客としての風貌を見せたのが、最初に会ったその時の印象のままに精悍であったことを除いては。


 意識を完全に切り離しているのかもしれない。楽しむときも業務に就くときも、その時どきに常に真剣に向き合っているのだろう。あいさつを交わした後、いよいよ宇宙へ出る時がきた。


 やっと外からスビニフェニス星を見ることができる。いったいどんな顔を見せてくれるのだろう。重力に逆らうパトロール艇のコントロール・ルームで、大地は外を見ていた。


 高く、高く、上昇していく。次第にスビニフェニス星の姿があらわになっていく。それは、美しい青い星だった。地球よりも陸地の割合が少ないように見える。さすがに雲が多いせいか、陸地の詳細な形状は捉えることができなかったが、陸地の内部にある水の領域で緑色に見える部分もいくらか見受けられる。史実として残された紛れもない刻印なのかもしれなかった。


 地上からの高度が千キロメートルに満たない所でスビニフェニス星を一周回した後、PA-002の操作説明のためにパトロール艇は静止状態に入った。


 大地はタレスターフの気密スーツを着用した。デザインで言うならドライスーツにオプションを加えるためのベルトやフックや何やらがたくさん付いているといった印象だ。素材は分からないがとても軽く薄い。かといって、引っ掛けたらすぐに破れてしまうのではないかという不安は微塵も感じさせない。


 並列二座席のPA-002に、大地とクリスが乗り込んだ。まだ何日も経っていないはずなのに久しぶりの操縦席という気がした。すでにスビニフェニスの宇宙船の操縦シミュレーターを経験している大地は、割とあっさりとしたそれに比べ、PAのコンソールがなかなかに機械的な構えをしているのを改めて感じた。マークが興味を持ったというのも、きっとこういう感覚なのだろう。


 PAの操縦手順を記録するための装置が用意された。着座した時の目の高さから、それは記録をする。レコーダーではあるのだが、自律によるのかその球体は大地とクリスの間の宙に浮かんでいる。いわゆるレンズと称される丸い形をした、可動性能を有しているといっても一方向を向いたものではなく、球体の全方向がレンズとして機能するのだという。


「じゃあ、行こうか」

 大地はクリスに声を掛けた。記録装置がほんのりと球面の色を変え、録画状態に移行したことを知らせる。大地はエンジンを始動させた。


 タレスターフのメカニック、おそらくフィンが手を掛けたPA-002は、宇宙ステーションから出たあの時とは別物に変化したような気がした。操作感が軽い。機械というものがどこかに不具合を抱えているときの、妙に心にざわつきを感じさせる違和感がまったくなく、各部が全てにおいて効率よく稼働しているという感じがする。


「整備はフィンが?」

「ん、分かるか? あいつは俺の命綱さ」

 大地の問いにクリスが答える。


 大地は操縦していくらも経たないうちに、この小型艇が持つ癖のようなものが消えている事に気付いた。加速時にどこか、その時どきでそれは変わり、いつも操縦しているものにしか分からないそのタイミングでスロットルをほんの少し、一瞬だけ戻さないと後の燃焼が少々不安定になるのだ。


 それが消えているということは、フィンが細部にまでわたって丁寧に見たということだろう。クリスが絶大な信頼をフィンに寄せているのが分かる。業務の上でもプライベートでも、お互いがお互いを必要とし、護り合う固い絆がそこにはあるのだろう。


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