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諸賢との遭逢、諸賢からの涵養7

「グランならトニア達と一緒に来ると思う。そろそろなんじゃないかな」

 大地の様子を察してか、マークが言った。


 いつの間にかグランがいつもそばにいることが当たり前に感じている自分に大地は気付いた。四六時中一緒にいたことで、ほんの少しの不在にさえ喪失感を抱くようになるとは思ってもみないことだった。


 見知らぬ星の見知らぬ人々の中にいては、なおさらその作用が大きかったのかと思う。


「そうか。しかし、この衣装は?」

 パトロールなら入れ代わり立ち代わり日常的に行われている業務だろうし、こんなふうに格式ばった前夜祭を行うものとは考えにくい。


「ああ、はは。ちょっとした余興だよ、今日は特別さ」

「余興?」

「フィンは趣味がデザインだからさ、大地の故郷の衣装に興味を持たないわけがない……」

 終わりまで言い終わらないうちに扉が開き、入ってきた四人を見て大地はあからさまな驚きを見せた。


「ふ、ははは、そういうことか」

「だろ?」

 どうやらこの企画の首謀者らしいフィンは、十二単をモチーフにしたドレスをまとっていた。全面にイメージを残したまま斬新なアレンジがしてあるドレスだ。例のふんわりしたフォルムの帽子の中には栗色の長い髪が納まっていたのだろう。今は幾重にもくぐらせ、重ね合わせ、ねじりと巻き込みを加えたボリュームのある髪型をしている。それでいておすべらかしの形を表現している。大地が描いたものの中から自分が気に入ったものを選びデザインしたのだろう、よく似合っている。


 クリスといえば忍者そのものだ。頭巾は身に着けているものの、頭と口元は露出している。精悍な顔立ちがドラマの中で暗躍する凄腕の刺客のようで、大地の反応が楽しみで仕方がなかったと言わんばかりの表情をしていた。


 トニアのまとったドレスは黒いビロードのような素材で、金糸の刺繍とスパンコールを、洗練された繊細な細工であしらい、まるで中世の貴婦人に変身させていた。一目瞭然で男性の女装であるというのが分かるのに、それでいてどこか謎めいた印象を受け、魔法でも使われてしまうような妖しさを醸し出している。


 そしてグランは大地がイメージした通りのあの衣装で、まるで男性でも女性でもない、それとも男性であり女性でもあると言った方がいいのかもしれない、息を飲む美しさ、見つめ続けていられないほどの美しさだった。


 全員がテーブルについたところでグランが言った。


「フィンが地球の衣装にいたく興味を持ったみたいで、皆も賛同してくれましたから」

 大地は言葉もなく頷くだけだった。予想していなかったとは断言できないが、もしかしたらあり得るかもしれないとは思っていたが、さすがに驚かされた。しかも不自然さがまったくなく、どこかの行楽施設へ行くとか、何かのイベントに参加するとか、いかにもよくある過ごし方といった態なのだ。


 グランが手を上げて合図すると、料理が運ばれてきた。つきだし、前菜、ビスク、ムニエル、シャーベット、ステーキ……。おそらく、地球でのフルコースと大した違いはない順番で一品ずつ運ばれてくる料理と、その都度用意されるカトラリーが大地を救った。


 食事をしながら会話を楽しむ。仕事から離れているというのに、異星人である大地が質問攻めにされることもなく、きっと内容的には普段と変わらない話題なのだろう。そこへ、時々衣装の話が混じる。話しているうちに、どうやらクリスとフィンが交際しているらしいことが分かった。


 タレスターフでは、男性や女性、両性などといった区別をしないのだとグランは言った。人が人を好きになるのに、好きの在り方や、性別などが障壁になることは一切なく、性差は単に種の存続のための構造の名残であり、人の心の思慕という感情、つまり恋愛や情愛というものは、個々の精神に起因するものであると。


 家族というくくりのない世界。婚姻という制度もない。自由なこの社会に人の感情を原因とする修羅場は存在しないのだろうかと思った。抑圧されているわけでなくてもそういう感情をこの星の人々が持たないのだとしたら、それはタレスターフに定着してしまった倫理なのかもしれなかった。



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