過ぎ越し方、先往く方 2
──そうだ、菜月はどうなったんだろう、それから、皆は……。
部屋の中の一人掛けの流線形の椅子に腰掛けて、ようやく人心地ついた大地の脳裏に、あの閃光が襲ってきた時の、自分より前に発進した菜月の操縦していたPA-001の後ろ姿がよみがえった。
「入ってもいいですか?」
その時、部屋の外──おそらく──からグランの声がした。
「Sure.(もちろん)」
待っていた。大地には、グランに山ほど聞きたい事があったのだ。
グランが室内に入ってきた。出入口がどういった構造なのか、知りたい欲求が湧き上がる。壁には自由自在に形を変える機功があって、人の意思、あるいは要求によって開くという印象だ。
──いや、それについては後でいい、まずはPA-001だ。
「Did you rescue someone else? (俺の他に助けられた者はいなかったか?)」
無理やり衝動を抑え付けて、大地は自分が発見された時のことを尋ねた。言ってから唐突だったろうか、とも思う。
「ダイチだけです。単独行動ではなかったのですね? 他にも誰かいたのですか?」
グランもまた事象を検証したいのは同じだろう。《登録データなし》という言葉がふと思い出された。
「Is that so. Just me. Another boat was working together. The same appearance, with different identification mark. (そうか、俺だけだったのか。外観は同じで識別標が違うだけの小型艇がもう一艇一緒だった)」
グランが何かを引き寄せるような動きをした時、流線形の椅子がもう一つ現れた。
椅子は、何もない空間から突然現れたように大地には見えた。揺らぎのある色をしている部屋のこと、見え方によるのか、気のせいか。いや、自分がここにいることを考えれば何も不思議はないのだろう。あえて説明することもなくグランがそこに座った。大地の左側、ほぼ直角を成すほどの位置だ。
「スビニフェニスの星域に、特異座標、あるいは領域、のある事が分かっています。ダイチがそうだったように、ここではない別の座標から突然こちら側に現れるのです」
グランは自らのモタルドクを開いた。
「Is it a spatial transition or a time reap? (空間転移、あるいはタイムリープのような事象なのだろうか?)」
グランの示したモタルドクの中で、宇宙空間に浮かぶスビニフェニス星の全体像が現れた。
「まだ統計を取れるほどの件数はなく、稀ではあるのです。軸空間を同じくする、遠く、あるいは近くの星域からであったり、次元層の違う宇宙からの場合もあります」
幾つか点滅している座標は、過去この領域が侵犯──と解釈するのなら──された件数を示しているのだろうか。
「Does that mean it's different from the warp root or an in stance of wormhole? (ワープ航路やワームホールの類いでもないと言うのか?)」
──この星の科学力で未知であるということは、俺の採り得る選択肢はごく限られているってことか。
「電波ジェットの超強力な噴出と、空間のねじれや、超異的な物理現象などが幾つか同時に起こった時のような極めて特異な状況下で発生するらしい、という事までしか推測されていません」
モタルドクはシミュレーション映像を見せている。星の大きさに対して、爆発的なその軌跡はもの凄く巨大だ。そう、推測なのだ。
「I see. (なるほど)」
「物理的なそのエネルギーに直接巻き込まれるというのではなく、それによって生じたひずみが、本来離れているか別にある時空間や次元層を瞬間的につなぐ経路になるのではないかと考えられています」
──要するに、天の川銀河の軸空間で直接爆発などが起こったというわけではなく、どこか別の空間で起きた事象にたまたま俺が巻き込まれたということか。




