諸賢との遭逢、諸賢からの涵養5
大地が自宅にいたときと同程度の負荷で運動をしている間、グランはフロアが見渡せる観覧席に一人でいて、大地がグランの方へ目をやると、その都度ちゃんと頷いたりしてこちらを見ているのだが、熱心に何か作業をしているようにも見えた。
二セットを終えてからアルスパクで汗を流し、ウェアをアスタに放り込む。どこから送ったものでも、ちゃんと大地の使用している客室に戻っていくのだから、衣類そのものに大地の識別信号が組み込まれているのかもしれなかった。
「お疲れさま」
グランはそう言うと、ロボットに用意させたスポーツドリンクを大地に手渡した。
「ありがとう。おかげですっきりしたよ」
大地はそれが癖になっていて、こんなときは一杯目は一気にドリンクを喉に流し込む。しかし、今回は追加を必要とせず、ロボットにグラスを返却する。
身体測定をした時に比べたら運動量は少ない。毎日の積み重ねが大きな効果をもたらすことは分かっているし、実践してきた。数日のブランクを埋めるのは予想したよりは長くはかからないのかもしれない。
「これからどうします?」
グランが何か計画しているだろうことは想像できる。そうではないとしても常に大地に先に尋ねてくるのは、大地の意思を優先させたいと思っているからだろうか。
「なんだかすぐには思い付かないな」
運動を終え、どことなくくすぶっていた身体に生気が戻っている。大地はグランの意向に沿うために答えた。
「ではミューズムに行きましょう。画像や映像などを見るだけです」
この場合の見るは、鑑賞ではなく閲覧、あるいは試聴の類いだということだろう。大地は同意し、グランの後に続いた。
ミューズムの一室で、専用の測定機能を持った座席が準備されていた。一人掛けのシアターマシンとでもいったふうで、先ほどの会議用の座席とはまた違い、ゆったりとリラックスできるように作られていた。大地が着座すると、グランが軽くリクライニングさせ、何か操作をした。
すると大地の頭の後ろから耳と視界を取り巻くシールドが張られた。両手は快適な状態で肘掛けに置くことができ、手のひらは読み取り装置に自然な形で納まる。
「ただ見ているだけでいいです。疲れたら言ってください」
グランが言うと、それは始まった。前方にスクリーンが現れ、モタルドクとは違う二次元の表示が展開される。まずは記号のようなもの。目前のシールド上で何かが反応しているようだ。見え方がぼやけたりはっきりしたり、歪んだりと微妙に変わる。
──俺の視力に合わせているのか?
焦点が決まったのか記号は消え、次に単色が画面いっぱいに広がる。見ていると色は少しずつ変化していた。RGB値でいうところの一よりはるかに小さい差、アナログ的変化で動いている。大地の識別能力を測っているのかもしれなかった。
大地が見たものにどう反応したのかが読み取り装置と連動したオグヌイを通してマルベレクに蓄積されているのだろう。最近になってオグヌイが動作しているときの通信量とでもいうか、情報量の違いとでもいうか、動きの違いを感じられるようになってきた。物理的に振動などを感じるというわけではないが、単純に感覚でしかないのだが、オグヌイが仕事をしているというのが分かってきたのだ。
画像は人物や動物、風景や機械、絵画、飲食物、ありとあらゆるものが一見脈絡がなさそうな順番で次々現れた。ただ見ているだけ。それでもマルベレクは無作為の中から何かしらの秩序、指向を読み取ろうとしているのだと思えた。
とてつもなく似通った、まるで間違い探しででもあるかのような画像も表示される。多分、ではあるが、その違いに大地がどう反応したかで、そこに嗜好性が見えてくるのかもしれない。大地がほんの少し違う画像のどれを好きか嫌いかを、マルベレクは判断できているのだろう。
好みを知るには好みでないものを定義する方が手っ取り早い。ほんの少し違う画像の好き嫌いを分ける理由がはっきりとすれば、嫌いから好きに変化させることも可能になる。
山河や高原、宇宙の星々、老若男女、宇宙船や精密機械、陸海空の生物、植物、あらゆるものが何千枚と現れては消えていく。似たような画像が続くようになったかと思うと、まるで違うタイプのものが現れる。それでも嫌悪感を抱いたり、見ていて落ち着かなくなるような画像は表示されなくなった。




