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弧灯の情、深奥の情 4

 星間の交流がない地球では知り得ない多くの情報を得たことや、普段体験できないような事柄、マーシとの演奏に至っては実際の技術をはるかに超える力の存在を知ることができたことなど、本当に貴重な経験なのだ。大地に関わってくれた人々全てがとても大切な存在と言える。


 それに、共に過ごした時間の長さではなく、どう過ごしたのかということの方が重要だとも思う。


「大地は気持ちの内側に、もっと深い別の感情を持っているよね。僕はそれを知りたいんだ」

「別の感情?」

「そう。秘めたもの、押し殺したもの、気付かないふりを決め込んだもの、思い出さないようにしているもの、かな」

 やっぱりマーシにはかなわない。具体的に何とは分からなくても、そこに巣食うものの存在が彼には分かるのだろう。しかし、他人の秘密を暴こうとか、興味本位で内緒話を聞き出そうとするような悪意はまったくそこにはなく、むしろその逆の意識を感じる。


「うーん。あるとしたら無意識的に封印してしまったのかもな」

「僕は、僕にできるかもしれないことを大地のためにしたいと思ってる」

 随分と曖昧な表現をマーシはした。ルキロドゥエスの作用が、ゆっくりと身体を包み込む。血行の良くなったことで、古傷が赤みを帯びてその形をはっきりと浮かび上がらせていることだろう。


「俺のために?」

「そう。それが僕のするべきことだから。手を貸して」

 そう言いながらマーシは手を伸ばし、大地の左手を取った。両手で包み込むように握ると、大地の目をのぞき込んで言った。


「大地の大切な人を思い出して。何も言わなくていいから」

 大切な人。想いを寄せていた人。打ち明ける機会すら得られずに逝ってしまった人。長いこと抑えていた感情が再び湧き上がる。


 喜びと哀しみと、切なさと。心が苦しさに悲鳴を上げていた日々。誰にも話したことはなかったのに、大地の感情を読み取った者がいた。大地を貶めるためだけに、大地の感情が利用され、大切な人は非道な者によって無残な犠牲者となってしまった。


 自分のせいだと大地は自らを責めていた。ずっと長いこと。大切な人を悼む感情が先に立って、復讐という概念は表出しなかった。そして、感情は抑制すべきものだという習性が大地を支配するようになったのだった。


 大地を敵にしたい者は常に存在した。いっそ比較対象とするにはあまりにも突出した才能だったなら、誰も大地を敵というターゲットに据えなかっただろうが、妬み嫉みの対象にしやすい条件が多かったのかもしれなかった。


 大地にとっては自分の立場は自分自身で築き上げたものでしかないのに、生まれも育ちも、容姿も与えられた環境も含めて、大地を敵にしたい者には不当な反感を増幅させる材料となっていたのかもしれなかった。


 一般的な会話すらごくわずかしかなかったのに、大切な人は大地が想いを寄せたというただそれだけで生命を奪われた。身を切り裂く想いが再び大地を覆い尽くす。あふれ出て、それからマーシの手を伝い、言葉には尽くしがたい感情の波が静かに、しかし激しく流れていったような気がした。


 驚いたことに、マーシの頬を涙が濡らしていた。そして瞳には感情が揺れていた。

 ──心を読んだ?

 一瞬そう思った。


 現実に引き戻された大地の心は、不思議にあの頃のような激情に飲み込まれることはなかった。フラッシュバックした凄惨な光景や、言葉たちはあの時のままに思い出したのに、叫びたいほどの感情が、まるでマーシの方に吸い取られてしまったような感じがした。


 ルキロドゥエスはすでに心理的作用によってその効果が消えていて、過去を浮き彫りにした状態の心が大地を支配していた。


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