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弧灯の情、深奥の情 3

「どうぞ。質問に答えられるかは分からないが」

 マーシが聞きたい事とは一体何だろう。音楽についてだろうか。地球の楽器についてだろうか。いや、マーシの音楽的才能を考えると、音楽論とか演奏技術、形などではなく心理的な側面だろうか。


 グランは、大地が断らないことを想定していたかのように微笑むと、少しだけ目を閉じた。


 それから手を上げて給仕を呼び、グラスの追加と軽めのつまみを注文した。


 大地にはまだムイジセブがどこに、どういうつながりで備わっているのかは把握できていなかったが、マーシがどこから来たのだとしても待たされることはないのだと思った。


「大地!」

 特徴のある声が大地を呼んだ。満面の笑みで駆け寄って来たマーシは、大地にあいさつ代わりのハグと握手で再会の喜びを表現した。勧められるままに、大地の左手、グランの向かい側に席を取りグラスを合わせる。


「会えて嬉しいよ」

 そう言ったマーシの年齢を大地は知らないが、あえて言うなら明らかに青年というより少年に近い。ここタレスターフの人々は、皆年齢の見当をつけにくいと感じる。成人の定義が地球とは違うのかもしれないが、大抵は皆地球標準で考えると若く見える。


 もしかしたら若い、という表現自体がそぐわないのかもしれない。若々しい、あるいは瑞々しいという言葉の方が合っているような気がする。細胞自体の新鮮さというか、老化を未だ知らないというか、そんなふうな意味合いでだ。


「俺も、そう言ってもらえると嬉しい」

「グランから聞いたと思うけど、大地に聞きたい事があるんだ」

 マーシは真剣な表情になってストレートに用向きを言った。


「なんだろう。答えられる事かな」

 もちろん、内容によっては答が見つからない、あるいは知らない事かもしれない。マーシは一体何を知りたいというのだろう。


「どうかな。ま、でもいきなり、というのもなんだから、少し飲もうか」

 マーシはそう言うと、グラスを掲げ、先日のあの時間を思い出し余韻を揺り起こし、かみしめるように話しだした。大地も答えながらあのひと時を思い出す。


 音楽を通して共有した一体感は、はっきりと思い出せる。電気信号が肌を駆け巡っていくあのぞくぞくする感覚は、きっと言葉ではうまく表せない、感じ取るものとしか言いようのない心地良さだ。


 しばらくそういった会話で場がほぐれた頃合いで、マーシが切りだした。


「大地には誰か大切な人がいるの?」

 そう尋ねられて大地はハッとした。


 そうきたか。マーシくらいの感受性なら、共に演奏した者の内面を察知する能力は持っているのだろうと思った。深い愛情に包まれて過ごした心や、無機質なくらいに疎通しない関係や、哀悼や哀愁、タレスターフには存在しないのだろうが憎しみや嫌悪といった感情など、人が内に秘めたものが、マーシには見えるのかもしれない、と大地は思った。


 ──さて、どう答えようか。

 嘘を言う気もないが、ありのままを告げたとしてそれはどういう意味を持つだろう。いっそマーシが何のためにそれを知りたいと思っているのかを、逆に大地が聞きたいくらいだった。


「君も、グランも俺にとっては大切な人だ」

 紛れもない事実だ。


 だが、マーシが意図したものとはかけ離れた答であることも知っている。この星に残ることも、この星を去ることもまだ決めていない大地の心の深層部分を知ることで、マーシは何かをしようとしているのではないか。それなら、それを明確にしよう。


「嬉しいな。そう言ってもらえると」

 素直にそう言うと、マーシは屈託のない笑顔で大地を見た。グランも静かに見守っている表情の中に、かすかにのぞく喜びを隠しきれずにいる。


「お互いに知り合って間もないけれど、心からそう思ってる」


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