青き星、悠遠の星 14
「大地は地球ではどんな生活をしていたのです?」
グランが知りたい地球での生活を説明するには、自分事としてはずいぶんと味気ないものだ、と大地は思った。
「決まった時間に仕事に出掛け、決まった時間に帰って、汗を流して、一人で食事をして、眠るまで何かで時間を費やす、そんな毎日だったよ」
大地は地上にいる時は移住プロジェクトのリーダーである義父の下で、本来の研究をする暇もなく事務仕事に忙殺されていた。人間関係がややこしく、複雑な糸の絡みから逃れるように、大地は極力人との関りを避けていた。
そのこともあって、スポーツジムへは通わず、自宅の室内に設置したトレーニングマシンで毎日運動をしていた。体力維持が目的だったから、音楽を流したり、ニュースを見ながらということもあった。
一人暮らしの食事は、その時どきの状況で変わった。惣菜や弁当を買ってきたり、外食をすることも、自炊をすることもあった。
たまにギターを弾くことも、本を読むことも、映像を観ることも、時々は何かを作ったりすることもあったが、どれもこれも生涯かけて取り組むというほどにはならなかった。そこそこ熱中しはするものの、これだというものに出会えていないという気がしていた。
マーシのような存在がいたら状況が変わっていたのかもしれない、と思う。
「大地の作る料理はどんなものなのです?」
グランの興味はそこなのか、と思った。
「簡単なものさ。煮込んだり、焼いたり、混ぜるだけ、とか」
「なるほど。では、今日の夕食は大地に作ってもらいたいのですが、いかがです?」
「俺に?」
思わず苦笑した。誰かのために食事を作ったことなどなかった。それもこういう状況で体験することになるとは想像すらできるわけがない。
「ええ、嫌でなければ」
そう言ってグランは微笑んだが、大地の答がノーである予想はしていないようだった。
「いいけど。味は保証できない」
「では、これから材料を調達に行きましょう」
大地はメニューについて、自分であるとか地球のであるとか、何が「らしさ」であるかにはこだわるのをやめて、食材を見て思い付いたものを作ることにした。
野菜の多くはどんな味なのか想像できるような外観だった。中には食べ物だとさえ思えないような物もあったが、それらは見ないことにした。グランと一緒に食材を扱う店を見て回りながら、こんな風に料理について考えるのは初めてかもしれないと思った。大概は、自分で調理できるレシピの中で、それを食べたいと思ったときに自炊するというパターンだったので、その逆のシチュエーションだとどうしても戸惑いを感じる。
「大地、これなんかどうです?」
グランが試食用に提供されていた食材の一つを小さな串に取り、大地のすぐ鼻先に差し出した。
白く弾力性のあるような、一口大にカットされた食材だ。条件反射のように差し出されたそれをパクっと口にする。軟体動物の食感がした。ひらめきが走る。
「うん、いいかもしれない」
材料が揃い、グランは大地をとある一室へ案内した。リビングルームのようでもあり、設備の整った厨房のようでもあった。個人の部屋というより、もしかしたら公共的なスペースなのかもしれないと、ふと思った。
何か手伝うことがあれば、とグランは言ったが、大地は座っていてくれと頼んだ。
大地が調味料の味見をしている時、グランはそのリアクションをにこやかに見ていた。ガスコンロなどのようなシステムは備わっていなかった。さまざまな形、大きさをした調理器具には電源コードもない。食材を入れるだけで鍋やパンそのものが熱を発生させる。焦げ付くこともなく、場所を選ばない。火加減を気にしなくていい仕組みが気になった。
メインにはソテーした肉。気分的にさっぱりした風味が欲しかったので、スープはミネストローネ風に決めた。それからサラダ、カレーのようなペーストに鳥の卵を混ぜてふっくらと焼き上げたものを付け合わせる。
大地は作業している間、見られていることを意識しないで済むようなさりげなさでグランがずっと自分を見ていたのに気付いていた。まるで何かを確認しているかのようだった。
トーストしたパンを運び、テーブルに全てを並べ終えた時、グランは本当に嬉しそうに笑った。
「大地の手料理を食べることができるとは」
「期待外れじゃなきゃいいが」
普段は調味料を目分量で投入したきりなのだが、初めての食材、調味料ということもあるし、好みの問題はあるとは思うが、その実、大地は入念に味を確かめたのだった。そういう自分を興味深くも思った。
一人前としては少な目の分量をサーブしたのは、少しばかりの思い付きのせいだった。メインを食べ終えたあとに軽く一皿を添える。
「これは?」
「たこ焼き風って言うんだ」
専用の器具がないため、本来の形を再現できてはいないがそれはカイに記録しておこうと思う。




