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青き星、悠遠の星 13

 それから大地はグランと共に施設内の幾つかを見て回った。大概は研究者や技術者は一人か二人で作業していた。ムイジセブの利便性によるのか、大勢がまとまって一カ所にいる必要がないのかもしれなかった。オグヌイを通して、マルベレクに管理された情報の共有ができ、そこには常にオリジナルのものが示される。


 情報は変更、訂正があるたびに瞬時に最新のものに書き換えられ、その都度、それ以降に閲覧する際には変更を知らせるマークが添付される。それも個人のモタルドク単位でだ。誰は既読で誰が未読なのかも、マルベレク側からは把握できているのだという。


 誰もが熱心に、充実した時間を過ごしているように見えた。仮に思い通りの研究成果が得られないでいるとしても、焦りや苛立ちを見せる者がいないのは、やはり「(かね)」が絡まない社会性によるのだろうか。


 研究が打ち切られるとか、いつまでに結果を出せとか、抑圧されるような上下関係などの精神的負担がないこと、そこに尽きるということか。ストレスフリーであることが、研究の自由度を増しているのかもしれなかった。


 タレスターフでは宇宙からという意味も含めて、外来種が発見されることは少ないという。この星が特殊な環境下にあるからだけではなく、いたちごっこの末に人類の手に負えなくなる前の段階で、数手、数十手先の対策を講じることにより、悪性のウィルスなどが天敵のない存在になるのを阻止することを可能にした。


 医療の現場では生命体自体の細胞と遺伝情報を扱うことがほとんどで、薬の副作用などの弊害はなくなったし、病気そのものも発生確率が大幅に減ったという。


 不老長寿という言葉がふと浮かんだ。大地は、自身はそのことに執着するほどの魅力は感じていなかった。これまでの生き方がそう思わせるのか、それとも周囲の人的環境によるのか、どちらにしても、例えば百年を超えるような長い期間をどう生きれば充実するのか、魅惑的であるのかは想像できなかった。


 ここでならそれが可能なのだろうか、と思う。自分はここで生きるためにスビニフェニスへいざなわれたのだろうか、と。


 そして、そこからさらに想いは広がる。今こうしていること自体が夢、幻なのではないかと。長い長い夢から目が覚めると、大地は実際は宇宙ステーションの中にいて、移住プロジェクトチームからの呼び出しを受ける朝を迎えることになるのではないか、と。


 ──夢なら覚めないでもいいかな。

 無意識に苦笑していた。それを見たグランは大地の心中を知ってか知らずにか、静かな笑みを投げ掛けた。


「大地がここにいると決断するなら、それが今すぐでもいいくらいに歓迎しますよ」

 グランはそうは言っても、そこに意志の誘導は少しも含んでいなかった。


 大地が旅立つことを選択するなら笑顔で見送ってくれるのだろう。と同時に、多少なりとも寂寞の時間をグランやこれまで関わったタレスターフの何人かに与えることにはなるとも分かる。


 幾度となく交錯する想い。大地がかつて味わったことのない逡巡だった。


「嬉しいよ。そう言ってもらえると」

 ──ここにいると、本当に穏やかでいられる。

 地球においてはきっとここのような場所を見つけることはできないだろうと思えた。仮に、セディテに新天地を構えたとしても、そこにもタレスターフほどの居心地の良さを求めることは不可能だと思えた。


 人々の意識が根本的に違うのだ、と大地は思った。善悪の基準そのものさえも違うのだと思った。立場の違いや上下などの区別もなく、業績の優劣も良し悪しも関係なく、成し遂げた事実に対する正当な評価と、それをその通りに受け入れられる意識なのだと。


 できるかできないかという線引きは、人の置かれる環境によって基準が変化する。それを議論するには最下層にいる者の心理を知らなくてはならない。


 失敗を責め立て、人格さえも排除しようとする社会ではなく、失敗を糧とする社会。だからこそ落ちこぼれていく者がいないのだろう。タレスターフの人々が前向きで探究心にあふれているのは、皆が手を差し伸べてくれるからかもしれなかった。


 大地は、自分がどうしたいのか、どうしようと思っているのかを言葉にすることができなかった。残る事、旅立つ事のどちらを選ばないとしても、それは自分にとっては心苦しい決断になるだろうと思った。


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