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青き星、悠遠の星 7

 大地はゆっくりとモタルドクを回して、まずは特別に光を放つ一等星を目安に見ていく。正確な距離感は覚えていないが、一等星二つ、二等星二つ、中間に三つ星とその下方にある星団が描く、カクテルのメジャーカップのようなおおよその形が見えたら、と思う。


 ──この尺度だと、途方もない作業になるな。

 少しずつ焦点を当てた枠を、一体どれだけの量動かさないといけないのだろうか。ほんの少し、いっそのこと諦めてしまおうかとも思った。ちょうどそこへ現れたのが、大地の通信デバイスを手にしたマークだった。


「大地」

 声を掛け、マークは大地が座るソファの隣に腰を下ろした。


「マーク、何か聞きたい事でも?」

「いや、ふふ、実はグランから、大地は僕に用があるんじゃないかって言われてね」

 ──ああ、そうだった。

 大地は気が付いて、通信デバイスを持ってきたマークから受け取った。


「地球は、海と陸が七対三。画像はこれ一枚しかないけど、これを参考に検索してもらってもいいかな」

 大地はマークが美しいと言った地球の写真を選び出して言った。


 次に画像フォルダのサムネイルを小さく表示して、ざっくりと宇宙空間を描くファイルを探していく。夜空や宇宙空間、宇宙ステーションやドックの界隈、建造中の船、探査機からの画像など、ある程度保存してある。


 しかし、目的の地上から星空を写した画像は残念ながら大地のデバイスのフォルダにはなかった。


 そこで、空間からカイを取り出し、新たなページに地球から見た、オリオン座のアステリズムの一部を書き入れた。念のため星の固有名と等星も記入しておく。ベテルギウスとリゲルには周りを短い放射で強調して、明るい星であることを示し、M42はぼんやりとした点描にしておく。外形や星同士の距離であるとか、この際正確性には目をつぶるしかない。


「あとは日本から見える特徴的な冬の星座がこれ。これが、ベテルギウスで、こっちはベラトリックス。三つ星は、右上からミンタカ、アルニラム、アルニタク。そしてM42、これがリゲルとサイフ」

 地球から見えるこれらの星々が、スビニフェニス星と同じ宇宙にあるのかどうかも分からないが、宇宙連合の登録とやらに近似的な値がないとは言い切れない。音声でも伝えておく。


 星の名前は地球人が付けたものだし、仮にオリオン座を構成する星々がスビニフェニスから観測されたとしても、その形が地球から見た「オリオン座」である可能性はないと考えてもいいだろう。


 また見る角度、距離によっては、一等星と三つ星の描く菱形だけが強調されるアステリズムかもしれない。


 そして、そもそもアステリズムを採用していると断言することもできない。


 いや、もしも宇宙の始まりがただ一つであり、知能を有する生物もまた一つのそれから派生したとすれば、あるいは、神話などをあながち創作だと言い切れないのかもしれない。一つの種は宇宙の広くあちらこちらに広がり、時に歪曲し、時に誇張され、元にたどり着けばルーツが明らかになることも想像の域にはとどまる。


 ──神の存在を信じるとしても、偶像にすぎないと思うにしても、今の俺にはそれを頼る余裕はない。

「分かった。これでマルベレクに検索をかけてみよう。ところで、聞いてもいいかな?」

「うん?」

 マークが大地の何に興味を持つのだろう。


「大地は寂しさというか、失意というか、孤独を感じたりはしないのかな?」

「というと? 今の俺の状況についてということか?」

 過ぎし日にスビニフェニスに送り込まれた人々は、いったいどういう反応を見せたというのだろう。


 マークがわざわざ尋ねるということは、大地の言動が当事者の平均値からかけ離れているということなのだろうか。


「そう。不安とか、焦りとか、そういったまあ、ネガティブな部分」

 なるほど、異世界転移という自分の運命を呪い、嘆き、うろたえるような反応が一般的だったのだろう。


「不思議なことに、ないね。それよりも未知を既知に書き換えていこうとする方が性に合ってる。夢でも見ているのでない限り、この瞬間は現実だし、それをどこへ向かおうとするかは自分次第だ」

 わめき、抗おうともそれが良い方向へ向かうことなどこの状況では、ない、と言っていい。状況を悪化させるのがおちだ。


「そうか。そういうところ、何だかいいね。僕は自分がこの星にいられなくなったら、しばらくの間、頭が真っ白になっちゃって、即行動に移せない気がする」

 マークははにかんだ笑いと共に言った。


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