青き星、悠遠の星 3
タレスターフで初めて意識を取り戻した時にモタルドクで見た感じでは、PA-002は右サイドによく分からない損傷があったはずだが、今は綺麗に補修されている。ボディがワックスでもかけたように艶やかだった。
「整備とマークの仕事が終わったら、一度宇宙へ出ましょう」
ぐるりとPAを一周した後、グランが言った。
「これで?」
「ええ、その時操作方法も同時に教えていただきたいのです」
PA-002は二人乗りだ。
グランも搭乗するということだろうか。それとも他の誰か、専門職が担当するのだろうか。どちらにしろ、船間連絡専用に作られたこの小型艇は、スビニフェニスに転移させられた時同様に突然地球の宙域に戻されでもしない限り、自力で地球まで航行することもできない。それなら、スビニフェニスの管理下で使用してもらうか、タレスターフの博物館の所蔵となるかのどちらかだろう。
「分かった」
マークがもう少し、と言っていたのがどのくらいの時間かは分からないが、そんなに先のことでもないのだろう。
「今はまだ判断できないとは思うのですが、大地はこの先どうしたいかを考えているのですか?」
進退をはっきりとさせなくてはいけないのは重々分かっている。
現実問題として、確率すら導き出せない現象をただひたすらに待つということもできない。それはグランも充分分かっているはずだ。その上で問うということは、グランは何かを提案しようとしているのではないか、と思えた。
「……。それより、俺にはどんな選択肢が与えられるのかな?」
少し考えた後、大地は逆にグランに尋ねた。
自分がどうこう言える立場ではないことも分かっているし、稀ではあるが過去そういうケースがあったのなら、その時にスビニフェニスではどう対応したのだろう。
「もちろん、スビニフェニスにずっといて貰って構わないですし、大地が望むなら外宇宙へ出られる宇宙船を用意しましょう」
──宇宙船だって?
一瞬大地は自分の耳を疑った。宇宙船まるごと大地のために用意しようというのか。
「それを、俺の意思に任せると?」
なんという人々だ。
統率者の存在しないというこの世界で、こんな状況で、グランのひと言と、自分のひと言で簡単に決めてしまえるというのか。
「ええ。どちらでも大地の望む通りに。それに、例えば毎日PAで、特異座標辺りで転送されるかもしれないのをじっと待つのも非生産的でしょう」
それはまったくその通りだ。しかも必ず地球へ戻れる保証もない。特異座標は、本来の意味の他にもスビニフェニス星との相対的位置関係という意味でも絶対座標ではないという。
「少し考えさせてくれ」
大地は、宇宙船を提供してくれるという提案を即座に受け入れなかった自分が、しかし意外ではなかった。
スビニフェニス、いや、タレスターフの人々を知る前の自分なら即答で受諾しただろうが、今は違う。タレスターフというまったくもって地球とは異なる世界を知ったことで、大地の心の中の何かが確実に変化したのだ。
「ゆっくりと。大地が納得できた時でいいのです」
グランは静かに微笑んでいて、答を出すことも出さないこともほんの少しも強いてはいなかった。
「聞いてもいいかな」
大地は、過去において、大地のように自らの意思に反してスビニフェニスに送り込まれた人のことを知りたいと思った。
「なんなりと」
グランは大地がその事を尋ねるのは既に予想していたとでもいうように答えた。
「これまでは『稀』な人々は、どういう結論を出したのかな?」
グランは腰を据えて話すつもりなのか、ムイジセブへと大地を誘導した。
「それぞれ状況に応じて違いますが、ここに残った人もいます。出身がわれわれと同じ軸空間の宇宙に属する星の者であれば、自分たちの宇宙船で帰れます。帰った人もいます」
着いた所はプラネタリウムのような造作で、ゆったりと座れる柔らかなソファが間隔を広く取って置かれていた。大地には、何故かは分からないが、そこがミューズムの中のどこかである、という気がした。




