青き星、悠遠の星 2
「マーク。進み具合はどうです?」
マークと呼ばれた青年は、大地と会釈を交わした後、取り出したものを大地に手渡した。それは、PA-002に残されたままの大地の私物だった。といっても身分証や通信デバイス、車や自宅のキーデバイスくらいだ。
「もう少しかかりそうかな。それにしても地球の艇って機械的機能美にあふれているね」
大地は通信デバイスの電源を入れてみた。当然通信はできないだろうが、機能の幾つかは使えるだろう。幸いなことにフル充電した直後に電源を落としておいたため、問題なく起動した。
「それは?」
グランが尋ねる。マークは興味深そうに目を輝かせている。
「主に情報を得るための通信機器で、音声または映像による交信も可能になっている。オグヌイよりはずっと低スペックだよ」
大地は画像や映像ファイルのフォルダを開き、その中の一枚を表示した。宇宙ステーションの外観が映っている写真だ。中心に機関部があり、外円部とそこにつながる六本の腕、その全てが太陽光を吸収している。
「地球のだけど、見るか?」
そう言って、グランにデバイスを手渡した。マークも興味津々という表情を隠そうともせず、グランにぴったりと身体を寄せ、肩越しにのぞき込む。
グランが画像をスライドしながら進めていくと、何枚目かで月から見た地球の姿を捉えたものがマークの興味を引いたようだった。
「へえ、これが地球か。美しい星だね」
「その美しい星の人間は、他の星へ移住しようとしているがな」
もちろん、それは人類の全てではなく、地球と共にあろうとする者も多数いる。地球が今迎えている危機をまだ遠い先の未来と信じて疑わない人々だ。
惑星との衝突、自然による環境変化の訪れ、人的環境破壊、地球に限らず星々の生命の存続が危惧される要因はいくらでもある。仮に地球が小惑星との衝突などによって最悪消失したり、太陽から遠く軌道を逸らされる事が確実だとしたとき、果たして人々はどう考え、行動するのだろうか。
新天地を求めるのか、衝突を回避しようとするのか、それとも地球と似たような環境を火星や月に作り上げようとするのだろうか。月へ移住したとして、酸素濃度二十パーセント台を確保する構造をどう創造するだろうか。そしてその構造には絶対的信頼が得られなくてはならない。また、仮に地球がなくなれば月は何を頼りに公転できるのだろう。あるいは地球と運命を共にせざるを得ないのか。
移住プロジェクトチームが、先手必勝とばかりに計画を推し進めたのも、宇宙空間の中で流れの速い宙域を発見したからだった。探査機から送られてくる情報、特筆すべき時系列データが、流れの速い河のようなその宙域の存在を示したことによって、移住先の候補である惑星セディテへの航行を可能だと結論付けた。
急いているのは科学者と一部の為政者で、危機的概念は極力封じ込まれていたため、民間人にとっては実際のところ、移住プロジェクトは新しもの好きの興味の対象になるか、商業的手段として賛同する者の方が多かった。
「大地?」
グランの声ではっと我に返る。思いに沈んでしまっていたらしい。
「うん、ああ、悪い、何?」
「これらの画像もカイに追加しておきたいのですが、構いませんか?」
何を考え込んでいたのかと尋ねることもなく、グランが通信デバイスを指して言った。どうせ自分が何に気を取られていたのかなど、グランにはお見通しに違いない、と大地にとっては少々面映ゆい展開になった。
「もちろん、構わない」
「ありがとうございます。マーク、頼んでもいいですか?」
「任せて!」
壊れ物でも扱うように両手で通信デバイスを受け取ると、マークは大地に向かって笑い掛けた。
そうして当面、通信デバイスはマークの管理物となった。どうせ大地がスビニフェニスにいる間は使い道がない代物だ。然したる重要なデータも入っていないことだし、マークがスビニフェニスのデータとの互換性を構築する間独占していてもまったく問題はない。
「では、PAを見に行きましょうか」
残りの私物も一緒に再びマークに預けて、大地はグランと共にあの格納庫のような場所へ移動した。




