過ぎ越し方、先往く方 19
その時一羽の鳥が頭上高くをかなりの速さで飛んで行った。鷹ほどの大きさで、鳥にしては速すぎないかと思える速度だ。
「あれは、巡視ロボットです。急ぎの何かがあるのでしょう。普段は優雅に飛んでいますよ」
大地の視線の動きにグランが答える。
「鳥にしか見えないが……」
「かつてはいかにも人工物という筐体を飛ばしていたのですが、見た目も考慮して、勿論空を飛ぶという機能面で考えると、こちら寄りになってしまうのかと。巡視ロボットは自然の中の不自然を探すのが役目です」
災害対策としての意味合いがあったとしても、無粋な外装をした機械が幾つも空を飛んでいる様子を想像すると、さすがに情緒にあふれた方向性を選んでしまう気持ちは自然の流れだろう。
「鳥の生態系には影響は出ないのか?」
「ええ、鳥には巡視ロボットが鳥に見えていませんから。異常があれば鳴き声を模した音で知らせるのですが、それも同様に鳥のさえずりとは一線を画しています。大地にはこちらも見てもらっておきましょう」
そう言って立ち止まり、グランはモタルドクを開いた。
「災害発生時、人々はこれによって罹災状況を確認します」
グランが見せてくれたのは実際にあった災害の過去ログなのだろうか。どこかの3Dマップとでもいった感じだ。時系列データで、マップ上の色帯が変化しているのが見てとれる。記号のようなものも書き込まれていて、刻々と変化していく。
安全確認の取れた場所、取れていない場所が明確に分けられていて、色調でその度合いが示されるという。また、被害の程度や種類なども一目瞭然で、しかも刻々と変化する状況が即座に最新の状態に上書きされ、情報はすぐさまマップに反映されていく。俯瞰も詳細も自由に切り替えられる。
もちろんそれらはマルベレクによる一元管理によって、誤報も情報の遅延もない。
タレスターフの民はそれを見て、自分がどう行動するべきかを決定するのだという。避難するのなら、どこへ、どのように、救援をするならいつ、何を、どのくらい、など、必要最大限の情報が表示されている。雨量や風速なども数値だけではなく、雨除けがいる、雨除けでは間に合わない、など、風雨の威力を明確に示す図柄でどの程度のものなのかが一目瞭然である記号を使用している。記号は統一され、狭小な単位でしか通用しないものが独自に作成されるということもない。
──自分との位置関係が明確なのは、その時その事象に関わるべきか、見守っているべきかを決定する上で有効かもしれない。
そう、大地は思った。
何が起こるか分からない、何をされるか分からない、いつまで続くか分からない、人間は分からないことに恐れを抱くという。それでも、始まりがあれば終わりがあり、終わりを予測することによって、いくばくかの恐怖は取り除くことができ、何をなすべきかを知ることはできるのではないかと思う。
「行きましょう」
グランの言葉でまた歩き出す。
改めて街を見回すと、電柱、電線の類いはどこにも見えない。動力源が何であるかも分からないが、景観を重視して埋設されているのだろうか。完全に無線化、あるいは非可視化されているのだろうか。それとも、地球とはまったく異質のエネルギーなのだろうか。
物体は室内においても、視界の内外どちらにもあるとも言える。スビニフェニスの物体を目に見えなくする、あるいは物体の方が転移する仕組みが、大地には今一つ理論として自分の中に取り込めないでいる。
机上の論理を証明することができなければ、想像の域にとどまるしかない。つまり、と大地は思う。
──既成概念は、捨ててしまおう。
自分自身の感性で、自分自身の体感で、タレスターフの人々を、スビニフェニスの理を感じることにしよう、そう大地は思った。




