過ぎ越し方、先往く方 14
靴屋を出て再び歩き出す。一区画ほど進んだ時に、履き心地はどうです? というような目でグランが大地を見た。
「違和感がまったくない。この靴そのものが自分の身体の一部みたいな気がするよ。矯正されて背中が痛いという感じだが、この痛みは嫌いな感覚じゃない。助かるよ」
大地が笑顔で答える。
──少し、姿勢を気にしてみるか。
大地は両方の足でしっかりと《《大地》》を踏みしめた。
「次は地球の衣服のことを教えてもらいましょうか」
到着した先は、靴屋と似たような造りの、衣料品店と作業場が一緒になった建物だった。ここでは靴屋とは違い、誰でも操作が簡単にできるということで、店先に店員は配属されていなかった。必要があればロボットが応対するらしい。グランは店舗の奥にある装置のモタルドクを操作し始めた。
「どうぞ、こちらへ」
グランが大地をモタルドクの前に呼んだ。その画面には、靴屋で取り込んだ大地のスキャンデータが表示されてあり、しかも靴による矯正後の姿勢に補正された線も見える。どうやら、これは立体的なデザインを描くアプリのようだ。
「これで大地が普段地球で着用している服のデザインを描き込んでください。画線はフリーハンドで大丈夫です。自動補正機能の程度を調整できますから」
指先で直接描くようにとグランが身ぶりで示した。
「絵心はなくても?」
これは苦手かもしれない、と思いながら大地が尋ねると、グランは微笑みで返した。
「では自動補正を最大値から始めましょうか」
そう言ってグランはデザインアプリの操作手順を大地に教えるように、ゆっくりとモタルドクに表示されているコマンドの一つを選択し直した。
普段着と言われて最初に思い浮かんだのがTシャツとジーンズだった。ごくシンプルなTシャツのシルエットを、まず丸首の線から描き込んでいく。描いたブレのある手書きの線は、首回りのラインをすっきり見せる円弧に変換された。
「袖は、長さと幅を三点で指定します」
肘の少し上一カ所と、上腕の内と外の二カ所をタップすると、まとった時の素材のひだを含んだ線画が形成された。同様に身丈を少し長めに指定する。全体像が決定した時点で、袖の長さや身幅のゆとりなどが、一度自動で、人体テンプレートの体格に合わせてバランスが調整された。正面、横、後ろと回転させて着用イメージを確認できる。
大地はハンガーに掛かった衣服そのものの印象と、いざ着用した時のイメージの乖離のすごさを幾度となく経験している。このデザインアプリは、着用時の見た目のバランスが配慮されるらしい。
「推奨された自動補正のままで決定しても、自由に変更しても構いません」
試しに幅などを変えてみる。どのコマンドを使うのかなど迷うこともなく、袖をゆったりとる、狭めるなど、見たまま思ったままの指先の操作で簡単に変更できた。最初に提示されたデザインに戻し、次はジーンズを描く。すぐに操作の感覚をつかめたせいか、さほど時間をとらずに描くことができた。下着のデザインは、普段着用時に自分が違和感を持っている部分を変化させてみた。
それから、素材感と、生地の厚さを肌が透けて見えないぎりぎりまで薄く調整し、着用した状態での色のバランスを決定して全ての作業は終了した。
「では、出力しましょう」
そう言うと、グランは横にある少し大きなボックス状の装置にデータを転送した。透明な窓から中の状態が分かるようになっている。どういった仕組みなのか、実物大の大地の3Dテンプレートに、衣服のパターンが重なっているのが分かる。その型が実体を持つ物なのかそうでないのかはっきりとは見てとれなかった。機械が作動し、ノズルが出てきてテンプレートのボディ上に液体が噴射され始めた。
「液状繊維です。この後、仕上げ処理をして完成です」
──3Dプリンタのような仕組みなのだろうか。
グランは綺麗にたたまれて出てきたTシャツを大地に手渡した。装置ではジーンズの作製に入っている。素材が何かは知る由もないが、木綿よりはしなやかな、天然ものといった印象だった。




