過ぎ越し方、先往く方 13
「では、これから大地の靴を作りに行きましょう」
ワンダのスタジオから屋外に出ると、グランが言った。
「靴?」
自分の履いているものに問題でもあっただろうか。
ゆっくりと散策を楽しむような速度で歩き出す。移動装置に乗り込もうという気配がないということは、目的の場所まで徒歩で行こうとしているのだろうか。先ほどまでスタジオで一緒だった人が二人を見かけて手を振ってくる。それに応えるグラン、そして本当に自然に大地も手を振り返していた。
「大地の体幹に、よく観察すると分かるというくらいのずれがあるので矯正しましょう」
「お、それはありがたい」
──そうだ、気付いてはいたのに放置していた。
腰骨の高さが違うのは、数度にわたる靭帯損傷で痛めた右足をかばう癖が歪みを引き起こしているからかもしれない。しかし、普段の生活の中でこれといった自覚できるほどの弊害というものはなく、強いていうなら足の組みやすさが左右で違うということか。
グランに案内されて、工場と店舗が併設されているような靴屋に到着した。店員が一人いて、二人を見るとにこやかな笑顔を向けたが、グランが共にいるからか、それともタレスターフの日常なのか、地球でいうところの一般的な店員としてのアクションを何も起こさない。
「スキャンします。そこの円のところに立ってください」
店舗の奥、工場との境辺りでグランが指し示した床に記された円の真ん中に大地が立つと、静かなブーンという機械音がして、頭上から足元へかけてスキャニングが開始された。身体の周りで目に見えない何かがうごめいているのが分かるが、しかし不快ではなく、衣服越しにではあるが肌がさわさわする感覚を覚える。
「終わりました。こちらへ」
おそらく一分とかかっていないくらいの所要時間が経過した後、グランはスキャナー脇にあるモタルドクに、取り込んだばかりの大地のデータを表示させた。
「この型は、俺の?」
画面のそれは、たった今スキャンした大地の全身を立体画像として現したものだった。
グランはそのうちの足元に焦点を当て、ズームした。このデータを基に足型をとり、体幹のずれを補正するための靴を作るのだという。店先にいた専属の作業者がその型を使って手動で機械を操作していく。といっても素材の裁断から作り上げるという工程ではないらしい。
スキャンデータはオグヌイにも落とし込まれ、この先必要があればいつでも利用できるのだという。靴が出来上がるまでそう長い時間待たなくてもいいらしい。出された温かいお茶を飲んで話しているうちに、作業は完了したようだ。
「履いてみてください。今履いているものはエレティムで客室に転送しておきましょう」
そう言ってグランは新しくできたての靴を大地に渡した。
履いてみる。
──うん、この違和感。
長年かばってきた右足がそれこそ地に足が着いていなかったのか、身体の中心線が傾いたような感覚を覚えた。
右足が普段より低い位置を踏んでいる気がする。腰に手を当てると、いつもとは高さが変わっているのが分かる。それに伴い、背骨も連動しているのか、背中の筋の一部分が引っ張られているのが分かる。
──慣れるとこれは逆に爽快感に変わるというやつだ。
大地は一度整体を体験していて、正しい姿勢でいることの方が本当は楽であるという経験済みなのだ。しかし、常に意識していないと歪んだ方向に戻ってしまう悪癖の方が強く身体を支配するのは、いったいどういう性質なのか。
「大地の体幹の状態を検知して、ソール部分が変化しますから、常に良い状態を保てます」
エレティムというらしい転送装置はまるであの移動装置の縮小版のようだ。グランは不思議な空間に大地の履いていた靴を入れた。




