閃光の白、揺らぎの白 1
──天井……? 室内か。
暗闇の中から唐突に意識が戻る。
大地の脳裏に、眩しさをはるかに通り越した激烈な閃光がよみがえった。それから、彼の操縦していた近距離移動用の小型艇PA-002が受けた衝撃波の伝搬と、頭の中で凝縮するような甲高い金属質の音もまた、鮮やかに思い出された。その後大地が飲み込まれた暗闇。
──ここはどこなんだ……。何が起こったんだ……。
「エラ ティクス ソヴェヴ?」
ベッドに横たわっていた大地には、かつて聞いたことのない言語が意味を携えないままの音声として耳に入ってきた。戸惑いを隠しもせずに声のする方に視線を移すと、そこには見知らぬ一人の男が立っていた。
言葉の意味は分からずとも、大地が目覚めた事に反応した言葉であることがなんとなく理解できた。
「グラン」
男は左手を胸に当ててそれだけ言った。その外見は大地の知る限りどの民族とも明らかに違っている。均整のとれた身体に、黄金律でできているような整いすぎた顔。とても美しい。髪の色と同じ濃紺のアイラインを引いたようなくっきりとした輪郭の切れ長の目が特徴的だ。身丈の長い白い衣服の素材は絹のような光沢を放っている。
──名前か。
起き上がろうとして、大地は身体のどことは断言できない部分で、重く鈍い痛みを感じた。それは暖房器具の送風口の真ん前に素足で立ち、皮膚が熱風にさらされているほどの熱さを伴っていた。大地は起き上がるのをやめ、再び横たわる。
径に対して最大許容量の血液が一気に僧帽弁を通り抜けたような拍動の後、痛みは急激に弱まった。ほんの少しだけ余韻が残る。
ふうっと一つ息を吐いてから自分を指し示すと、大地はグランに名乗った。
「Daichi」
自分のいる場所がどこなのか皆目見当が付かないし、果たして通じるのかどうかも分からなかったが、宇宙ステーションで公用語としていた英語で大地は言った。
「エレディ ヴェタン ガム ムレ……」
そう言うとグランは微笑して、軽く一礼した。肩まで伸びた真っすぐな髪が揺れ、これを天使の輪と呼ぶのだなという艶やかな輝きが上下に揺れた。
──敵意は……、ないようだな。
自分の着ていたはずの気密スーツとは違う、しなやかな生地の着衣がその素材感故に警戒心を起こさせない。大地も微笑で応えた。
するとグランがどこからともなく、直径五、六センチメートルほどの幅広の腕時計ともバングルともつかない金属のようなものを取り出した。
「オグヌイ ア トゥセ チア」
銅の色をしたその環を大地に示しながら、グランが言った。大地の左手を取り、手首にゆっくりとその環を通していく。突然の事なのに、抵抗や拒否といった反応は起こらなかった。それともグランのしぐさや表情が警戒心を起こさせないからか。素材が何かは分からない。金属のようでありながら、柔軟性も併せ持っている不思議な感触が広がる。
「オグヌイは通信可能なマルチデバイスだと思ってください」
──言葉の意味が分かる!
突如グランの言葉は、大地の耳になじみのない音声で聞こえると同時に、脳内ではその内容がどういう意味なのかが理解できるようになっていた。
「Ognui? Multidevice?(これが、オグヌイ? マルチデバイス?)」
ついもう一度起き上がろうとした大地をやんわりとグランが制した。
「ええ、ここでは必要なアイテムなのです。これを見てください」
グランが、横たわった大地から自然な角度で見える辺りの空間を指さすと、その動きに連動するように、大地の視線の先に透明な領域が現れた。目には見えていないのに、そこに何かが存在しているというのが明らかに分かる揺らぎを持った領域だ。




