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第1話【先輩、好きです!】

「私、先輩のことが大好きなんです。付き合ってください!」

一世一代の大告白!

お願い、私の思い受け取ってっ!

「……ごめん」

「えっ」

「俺、お前の弟が好きなんだ」

「……」

「……」

「えーーーーーー!」


私の好きな人の好きな人は弟でしたーー。


「蛍ー!」

私は、ドアを開けっ放しにして、玄関を突っ走り、ソファにどっしり座っている蛍の胸ぐらを掴む。

「なんだよ、うるさい、ドア閉めろ、靴脱げ」

「うっさい! そんなことより、あんた一ノ瀬凛先輩のこと知ってる⁉︎」

「はぁ⁉︎ しらねぇよ」

「じゃあ、なんであんたを理由に振られなきゃなんないのよー!」

「はっ、なに? 姉ちゃん振られたの? バーカ」

「うっさい!」

私たちが言い合いしていると、階段を降りる音がする。

「柚、靴を脱ぎなさい、それに、蛍に詰め寄らないの」

声がした方を見ると、藍お姉がいた。

「お姉、けど……」

「柚、行儀が悪いわ」

私は、渋々蛍を離し、靴を脱ぎに、玄関へ戻った。


今度は、蛍の前で仁王立ちする。

「で、なんで先輩は蛍のことが好きなの⁉︎」

「はぁ? てか、俺はイットQを見たいんだけど」

私は、テレビを見れなくして詰め寄る。すると蛍は、リモコンから手を離し、椅子の深く座り込んだ。

「あのなぁ、俺が知るかよ。そもそも、男同士なんて気持ち悪いことあるわけないだろ」

蛍は、怒り気味に答える。

「知らないわよ! 先輩がそう言ったんだからしょうがないでしょ!」

「はぁ、あのなぁ、普通に考えて、嘘だろ」

蛍のため息混じりの言葉に、私の思考が止まる。

「えっ、嘘?」

「そうだろ、よく考えろ」

蛍はそういうと、立ち上がって部屋に行ってしまった。

嘘……?

嘘、嘘、嘘……。

「そっかぁ!」

それもそうだ、凛先輩が蛍のこと好きなわけない!

私は、ただ単に、振られただけ!

……それもそれでショック。

けど、それなら諦めなくていい! 女の子が恋愛対象なら、まだ、好きになってもらえるチャンスはある。

頑張るぞ、私!

「えいえい、おー!」


「へー、それで振られたんだ」

「うん、けど、このままでは終わらないよ。この弁当を持ってて、もう一回アタックするんだ!」

私は、昨日、凛先輩のために弁当を作った。

普段しないことをしたから、黒炭みたいって藍お姉には言われたけど、大丈夫だよね?

「行ってきまーす」

「……ねぇ、柚」

私が、先輩のところに行こうとすると、樹がそれを止めた。

「どうしたの?」

「本当に、その先輩が言ったのって嘘?」

「え、何? まさか樹、先輩の可愛い嘘を信じてるの? もー、樹ってば可愛いなぁ〜!」

「その話を信じて、蛍くんの胸ぐらを掴んだのは誰よ」

樹は、呆れたような顔で言っている。私は、そんなことは気にせず、体を廊下の方に向けた。

「いいの、それはそれっ! じゃあ、行ってきまーす」

「はいはい」


私は、3年教室に向かって走っていた。

あっあの後ろ姿は!

「せーんぱい」

そういうと、先輩はこちらを振り向いた。そして、遠慮気味に言う。

「あっ、えっと、蛍くんのお姉さんの……」

なんで、そこで蛍の名前が。いや、蛍を好きな設定を貫き通すためか。全く、先輩はわかってないなぁっ! こんなことでくじけたりしないんだから!

私は、余計な考えを打ち消すように首を横に振って、元気に声をかける。

「柚です! 先輩、あの、私、頑張って一人でお弁当作ったんです。その、どうぞ!」

「えっ」

受け取って、私のお弁当、そして、中に書かれたLOVEの文字!

「いや、実はもう食べてあってさ、ごめん」

先輩は、手を縦にして顔の前に置いた。

「そっそうですか……」

先輩は、そのまま教室に入って行ってしまった。

私は、渋々自分の教室に戻った。


「残念、タイミング悪かったみたい」

私は教室に戻り、机の上でつっぷす。

「普通に振られただけじゃない」

「また、次頑張らないとね!」

「……ほんと、人の話聞かないよね」

樹は、ため息をついて、読書を始めた。

「えー、樹、何か考えてくれないの?」

「何かって何?」

「次の先輩へのアタックの仕方!」

私の元気の良さとは対照的に、樹はどんどん元気をなくして静かになっていく。

「はぁ……」

樹は、本を置いた。

「柚、先輩が蛍くんのことが好きなら、蛍くんで釣れば」

「……釣る?」

「例えば、そのお弁当を蛍くんと作ったって言うとか」

それはつまり、蛍のことを先輩が好きだと認めるってことかぁ。

……うーん。

けど、まぁ、そんな嘘でも信じたふりをしてあげるかぁ。

それに、蛍はいつも私たちのご飯作ってるから上手いし。

よし、それなら簡単に作れる!

蛍が理由で受け取って貰うのってなんか嫌だけど……。

「ありがとう! 樹!」

「はいはい」


「というわけで、蛍! 明日の凛先輩へのお弁当作り手伝って」

私は、蛍の部屋のベットの横に仁王立ちする。

「お前、昨日はあんなに手伝うなって言ったくせに」

蛍はベットの上で漫画読みながら呆れた表情を浮かべる。

「いいでしょ!」

「よかねぇよ。そいつ、男が好きな変態野郎だろ」

「そんなの、先輩の可愛い嘘に決まってるでしょ。何信じ込んでんの。バカじゃないの」

「それで信じ込んで昨日俺の胸ぐら掴んだ馬鹿はどこのどいつだよ」

「ちっちゃいこと言うな」

そんなんだから女にモテないんだよ。

と、言いたかったけれど協力してもらえなくなったら嫌なので言わない。

「て言うか、やだよ。普通に」

蛍はそう言うと、寝転んでそっぽを向いてしまった。

それでも、私はめげない。

全ては先輩に振り向いて貰うため!

私は大音量にして声を出す。

「手伝って、手伝って、手伝ってぇー!」

「あー、もう、駄々こねるんじゃねぇ!」

蛍が私の顔に持っていた漫画を投げつける。

が、私はそれを華麗に避ける。私、体育5なんだよね!

蛍は反撃するのをやめたのか、起き上がってあぐらをくんだ。そして、ため息をつく。

「たく、昨日は手伝うなって言って今日は手伝えって言ってなんでそんなにコロコロ変わるんだよ」

「私だって、蛍なんか頼りたくないよ」

「じゃあ、いいじゃん」

蛍は、また呆れて寝転んでしまった。

だって、だって……。

「樹がそうすればいいって……」

「……」

「蛍が作った弁当なら喜ぶって言うんだもん」

「……」

「樹は信じちゃってさー、先輩の話……」

何故か蛍が喋らない。

なにさ、いきなり黙り込んじゃって。

「あ、あのさぁ」

そう思ったら、しおらしい声で蛍が喋り始めた。

「なに?」

「俺が弁当作ったら、その……喜ぶの?」

「えっうん、喜ぶと思うよ」

まぁ、好きとか言うのが嘘でも、蛍の弁当は美味しいし。

「まぁ、しょうがないな、作るよ」

「えっ⁉︎」

なに、いきなり素直にしたがってんの?

「さっさとやるぞー」

蛍は、謎に気合を入れ、背伸びをしてキッチンへ向かった。

「なにあいつ……」

「柚」

「うわっ」

気がつくと、いつのまにかに後ろに藍お姉がいた。

「樹って誰なのかしら?」

「えっ、樹? 私の友達だけど」

「そう……、ねぇ、その女は蛍ちゃんの知り合いなの?」

「そ、その女って。樹は時々遊びに来るけど」

「そう」

そういうと、藍お姉はどこかへ行ってしまった。

なんで、そんなことを気にするんだろう。

それに……。

なんで当然のように私達の会話、盗聴してるんだろう。藍お姉の部屋は、二つ隣で、声が聞こえるはずないんだけど。



「と、言うわけで作ってみましたー!」

私は、自慢気にお弁当を樹の前に出した。

「蛍くんがね」

「私も作ったもん! 蛍に確かに少しはしてもらったけど」

「はいはい」

樹は素っ気ない返事を続ける。

たしかに、大体は蛍だけど、私も野菜洗ったり野菜切ったりしたし。

まぁ、ともかく、今度こそ先輩に受け取ってもらえるでしょ!


「凛先輩!」

私は、先輩のクラスの前で待ち伏……、待ち合わせをした。

これなら、先輩はまだ食べてないはずだから食べてくれる!

「お弁当作ってきました!」

「えっ、あ……」

あ、そうだ。

蛍のことも言わないと。

「その、今日は蛍にも手伝ってもらっちゃったんですけど」

「えっ! そうなの?」

「はい……」

やっぱり、男の手料理なんて嫌ーー。

「お昼まだだったんだ。ありがとう!」

そう言って、先輩は無邪気に教室に入って行った。

「あ、あれ?」

こんなに、輝いた目をした先輩、初めて見ました……。


「もしかしたら、凛先輩、本気で蛍のこと好きなのかなぁ」

「そう言われたでしょ」

樹は、読書をしたまま話を続ける。

「もー、まだ信じてるの? あれは凛先輩のか・わ・い・い嘘だよ!」

「証拠は」

「えっ?」

「それ、柚が勝手に言ってるだけでしょ、本当のことを言ったのに、柚が都合よくしてるだけじゃないの」

「そんなわけないじゃん!」

もー、怒った!

樹はいっつも冗談も真に受けるんだから。

それを聞いて、樹はため息をついて、本を閉じた。

「じゃあ、試してみたら」

「試す?」

「そう、先輩を家に呼んで、蛍くんに合わせてみれば」

「そ、それでどうなるの?」

「それで蛍くんに好意を示すなら、本当ってことでしょ」

なるほど、わからないなら試してみればいいんだ!

先輩、その可愛い嘘が通じるのも、これまでですよ!

「ありがとう、樹!」

よし、先輩を家に呼ぶぞー!


「今日は誘ってくれてありがとう」

「いえ、先輩の恋を叶えたくて!」

試すためとはいえ、弟と先輩の恋を応援するなんて嘘をつくなんて……。

けどすごい、樹の言う通りにしたら、本当に先輩が来てくれた。今までどんなに誘っても来てくれなかったのに、こんなの初めて!

「ありがとう、そんなこと言ってくれる子、初めてだよ」

先輩は、優しく、嬉しそうに微笑んだ。

うう、そんな顔されると……。

「あ、ここじゃない?」

先輩は立ち止まり、指している。

「はい、ここが私の家です。いま扉開けますね!」

私は、慌ただしく鍵を取り出す。

あれ、先輩。なんで家の場所知ってたんだろう……。ま、いっか。

「ただ今ー」

家の中を見渡すと、誰もいない。私は、玄関の靴置きを見た。

蛍の靴がない、エコバッグもないってことは、蛍もしかして、買い物行ってる?

お父さんとお母さんは仕事に行ってるし、藍お姉もまだ大学にいるだろうし。

もしかして、先輩と二人になるチャンス!?

「せ、先輩。あ、あの〜」

「どうしたの?」

「じ、じつは……」


「す、すみません。蛍、まだ買い物から帰ってきてなくて、私の部屋で」

凛先輩が、私の部屋にいる〜!

嬉しい、蛍、一生帰ってくんなー!

「いや、構わないよ、蛍君は、いつも買い物行ってるの?」

「あ、はい。家事は蛍がいつもーー」

て、これじゃあ、私が家事全然してないって言ってるもんじゃん!

「あ、あのその、ちがっ、ちがくて」

「……そうなんだ」

先輩は、また優しく微笑んだ。

あれ、あれれ?もしかして……先輩、本気で。いや、そんなわけない!

私は、首を横に振った。

もっと明るい話題しよう。

「あの、先輩っていつもーー」

その時、ガチャっと玄関のドアの開く音がする。

「ただいまー」

この声、絶対蛍だ。

私は、先輩を横目で見る。先輩も、その声が蛍だとわかったみたいで、下を向いて頰を赤くしていた。

なんで、先輩はそんなに顔を赤くさせているのでしょうか。けど、そんなことで、私は信じない。

「じゃ、じゃあ。蛍君が来たみたいだし……」

「あっ、そうですね」

ほ、た、る〜!あいつ、先輩とのラブラブ時間を邪魔しやがって!

怒った顔は表面に出さず、私は笑顔を保つ。

「じゃあ、私、呼んできます」

私は素早く階段を降りて、ソファでくつろごうとしている蛍の胸ぐらを掴む。

「なにすんだよ、姉ちゃん!」

「今から、私の部屋に来なさい!」

「はぁ⁉︎」

「いい? 絶対、好きになっちゃダメだからね!」

「だから、なんの話だよ!」

「私の部屋に今、来てるの!」

そう、叫ぶと、蛍はいきなり黙って目を丸くした。

「今、来てんの……?」

「そうだよ」

私は、ふくれっ面で言う。

「なら、早く言えよ、ほら、行くぞ」

「……はぁ?」

また、いきなり態度を変える蛍。

もしかして、先輩の嘘を破き、姉の恋の応援をしてくれているのか? なんか、ここまで素直に動いてくれると変な感じだけど、いっか。


「じゃ、じゃあ。失礼の無いようにね」

私は、自分の部屋の扉の前で、小声で蛍に話しかける。

「わかってるよ、たくっ、いつもそんなこと言わないだろ」

いつも? 先輩が来るのは今回初めてなんだけど……。ま、いいか。

私は、心を入れ替え、扉を開けた。

「先輩! 蛍、連れて来まーー」

「蛍君!」

私がいい終わる前に、先輩は立ち上がった。先輩は、今まで見たことのないほど眩しい笑顔をしている。

横目で見ると、蛍は顔を真っ青にしている。

まさか、この二人知り合い?

そう思った否や、先輩は蛍の手を握った。

「蛍君、俺とーー」

先輩、待って、もしかして!

「付き合ってください!」


私の目の前に広がっているのは、顔を赤くして、弟……蛍の手を繋いで告白する先輩と、顔を真っ青にして手を振りほどこうとする蛍。

私は、その場で魂が抜け落ちるように倒れた。


ーー私の好きな人の好きな人は、私の弟でした。


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