飽和
俺は"ありきたり"で、"普通"なモノが嫌いだ。
時たま子供に見られる、"違う"モノに魅力を感じる、或いはオンリーワンな自分に陶酔する、あの気持ちのまま、成長してきてしまった ───それが俺だ。
どこか奇を衒おうという心持ちが ───当時はそんな言葉は知らなかったが ───働いていたのかもしれない。
大人になってからも、希少なモノや、少し"ズレ"ているモノに心惹かれるものだった。
そんな俺は、作曲家になった。
斬新な、実験的な、或いはどこか不自然な……そんな曲ばかり書いた。
勿論初めは、鳴かず飛ばずだった。
多少名が知れてきても、なかなか受け入れられなかった。
それでも俺は"普通"に与する事はなかった。
諦めず、現代音楽の最先端を、斜め上に駆け抜けるような気概でいた。
人生も折り返しかという所で、漸く評価されはじめた。人生が好転した。
「遂に俺を"普通"な奴どもに認めさせてやった」と、えもいわれぬ達成感を感じていた。 ───少なくともその時は。
あれから随分年月が経った。
寿命が近づいてきた。
いい年齢まで生きた、と自分では思っている。
しかし今、俺の心は絶望で埋め尽くされている。
"自分らしさ"が認められなくとも、努力して、努力して、遂に認められる ───なんてものは、"ありきたり"な努力譚であり、幾つもある美談だった。
老い先短い俺には、最早何も出来ない。
結局、俺の人生は、"普通"だった。