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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
95/110

あきらめて、すべてを。

シック編、はじまるよー!!

 ピティーがレイニーの雷によってその身体を貫かれる少し前まで時は遡り、場所は塔の守護者の一人、シックの守護する部屋。シャーリーとサラがピティーとの因縁の決着をつけようとしていたまさにその時に、この部屋でも壮絶な戦いに決着がつけられようとしていた⋯⋯!


「よっしゃぁぁぁぁ!!! ようやくゴール出来たぁぁぁ!!!」


「ま、負けた⋯⋯。がっくし。」


 自分の駒を持ち上げ、力強くガッツポーズするリリィと、対象的にしょんぼりと肩を落とすシック。他のメンバーが壮絶な戦闘を繰り広げている間、リリィとシックは一滴の血も流すことなくすごろく勝負に熱中していたのだった。その事実だけを述べると彼女達だけふざけていたように感じるかもしれないが、勝負をしていた当の二人は至って真剣そのものであった。⋯⋯どちらもこの勝負を楽しんでいたことは確かだが。


「⋯⋯じゃあ、私が負けたってことで、約束通り、エンキ様の結界を破る方法を教えてあげるね。」


 さらに、リリィはシックがこう言い出すまで、何のためにすごろくをはじめたのかを完全に忘れていた。それほどまでにすごろく勝負を楽しんでいたリリィであったが、流石に正直に「忘れてた」と口にするのは恥ずかしいので、いかにも分かっていたような顔をしてシックの言葉に無言で頷いた。その耳が羞恥で若干赤くなっているのには触れない方がいいだろう。


「⋯⋯エンキ様は今、ロキ様との戦いの影響で100%の力を出すことはできない。それでも、エンキ様には自らの力の一部を分けた依り代があるから、結界を維持することができるの。⋯⋯逆に言うと、その依り代さえ全部破壊出来れば、エンキ様はさらに弱体化する。⋯⋯そうなると、多分もう結界を維持する力は残されない。」


「⋯⋯その、依り代って奴は、全部で何個あるわけ?」


「私が知る限り、エンキ様の依り代は、全部で四つ⋯⋯。一つ目の依り代は、ピティー様。あと三つは、全部エンキ様の姿を模した像。えっと⋯⋯場所は確か、一つが神聖国の中央の広場の真ん中、もう一つが地下塔の階段の途中の踊り場、最後の一つが⋯⋯エンキ様の住まう、『神の間』、そのどこか。」


 シックから教えられたエンキの依り代の場所。そのどれも、到底今からリリィが気楽に行けるような場所だとは思えない。その事実に気づいたリリィの表情は、絶望感でいっぱいになっていた。


「そんな⋯⋯それじゃあ、どうやったって今からじゃ間に合わないじゃない!!」


 思わずそう叫んだリリィに対し、シックは優しく微笑みかける。なぜこのタイミングで笑みを浮かべられるのかと困惑するリリィに、シックは先程と変わらぬ口調でこう告げた。


「⋯⋯私は、エンキ様の結界を破る方法を教えるとは言ったけれど、貴女がその方法を実行できるとは最初から一言も言ってないよ? 結界を破壊できない限り、貴女たちはエンキ様に触れることさえできない。⋯⋯だから、ね? あきらめてここで私とずーっと遊んでいようよ。そうすれば、たぶん、貴女だけは死ななくてすむと思うよ⋯⋯。」


 笑顔でそんなことを提案してくるシックに、リリィは彼女が塔の守護者であるという事実を改めて突き付けられた思いだった。


「あんた、最初っから私にはエンキを倒せないと分かっていたうえで、あんな提案をしてきたってわけ!?」


「⋯⋯そうだよ。それが私の仕事だから。与えられた仕事すらこなせない道具なんて存在価値はない⋯⋯そうでしょ?」


 シックは、リリィにそう問いかけた後、それまで浮かべていた笑みを消し、気まずそうに眼をそらしてから「ただ⋯⋯」と続けた。


「ただ、貴女にここにいてほしいって私の気持ちは、嘘じゃ、ない。私と一緒にゲームができる子なんて今までいなかったから、貴女とゲームできてすごい楽しかった。⋯⋯だからお願い。あきらめて。」


「⋯⋯その『あきらめて』は、一体何に対しての言葉なの? エンキを倒すこと?」


 単純に疑問を感じたリリィは、シックに対し静かにそう問いかけた。それに対し、シックはにっこりと微笑み、こう答える。


「『すべてを』。エンキ様を倒すことも、ここから出ることも、そして、あなたの仲間のことも⋯⋯ぜーんぶあきらめて、ここでずーっと私とあそぼうよ。大丈夫。『あきらめる』ことは、『逃げる』ことじゃないから。人間の力じゃどうにもならないことだって、この世にはたくさんある。例えば⋯⋯決して治らない病にその身を蝕まれた時とか。そんな時、その困難に真っ向から立ち向かうことは、苦しいでしょ? つらいでしょ? そんなつらい思いをしてまで、もがき、生き続ける意味がどこにあるの? それならいっそ、あきらめて楽になった方が幸せ⋯⋯。そうは思わない?」


 確かに、シックの言うことにも一理ある。実際、リリィも自分から進んで辛い生き方をしたいとは思わないし、楽な方を選べるなら、そちらを進んでとるだろう。

 しかし、リリィはシックの提案を受け入れることが出来なかった。その口元に自嘲気味な笑みを浮かべ、リリィは首を横に振る。


「⋯⋯ごめんね、シック。私もあんたのことは好きだけどさ⋯⋯すべてをあきらめて楽になるには、失ったモノが多すぎるんだ。」


 リリィの答えを聞いたシックは少し寂し気に「⋯⋯やっぱり、そう言うと思った。」と呟き、一瞬顔を伏せた。

 しかし、次に顔を上げた時、シックの顔には先程見せた寂しさの影はなく、いっそ冷徹さすら感じる無表情でリリィを見据え、こう告げたのであった。


「⋯⋯ならば、私は、この身に与えられた仕事を、道具として全うするのみ。侵入者⋯⋯あなたには、ここで死んでもらいます。」


 

とりあえず更新完了。次回、シックちゃんのターン始まります。

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