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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
94/110

神に創られし二人の人形

ピティー戦、決着です。

あ、レイニーたちのことを覚えていないって人のために、紹介しておきますね。


レイニー・ブルー 5th stage登場

ギフト⋯⋯『感情によって天気が変わる』


ウク・レレ 5th stage 登場

ギフト⋯⋯『音で感情を伝える』


“わたし”ちゃん 5th stage 登場

ギフト⋯⋯『人間になれる』

 ピティーは、シャーリーたちの姿が完全に消えてもその足を緩めることなく、塔へ向かって走り続けていた。しかし、その足が唐突にピタリと止まる。足を止めたピティーの視線の先には、塔へ続く道の途中に位置する広場の中心に神々しく立つエンキの像があった。


「待っていてください⋯⋯。このピティー、必ず貴方様のお役に立ってみせます!」


 ピティーは、エンキの像にそう宣言し、再び走り出そうとする。その時突如、まだ日が暮れても居ないのに、辺りが暗闇に包まれはじめた。突然の不可思議な現象に、ピティーは思わず走り出そうとした足を止め、右手を目の上にかざして空を見上げる。

 ピティーが見たのは、黒煙のごとく空に広がる巨大な雲。その雲の内部で閃光が走ったと思った次の瞬間、爆音と共に天から光の槍が落ち、ピティーの目の前でエンキの像を頭部から貫き、破壊した。


「なっ!?」


 突然の出来事に目を見開くピティー。しかし、彼女には驚く暇も、ましてはエンキの像を破壊されたことに怒りを感じる時間すら与えられなかった。先程エンキの像を貫いた光の槍が、今度は雨のように無数に降り注いでくる。いや、これは光の槍ではない。天から降り注ぐこれは、雷だ。そして、ピティーには、このような現象を起こすことが出来る人物の心当たりが、一人しかいなかった。


「レイニー・ブルー!!! 貴様の仕業かぁぁぁぁぁ!!!!」


 ピティーは、爆音が鳴り響く中、雄叫びを上げる。持ち前の動体視力をもって、一回、二回、何とか雷の直撃は避けた。しかし、地面から伝わった電流が、ピティーの身体の自由を奪い、三度目にして避けることが出来ずに直撃を喰らってしまう。それでもなお倒れないピティーに、さらに一発、二発と雷がその身体を貫いていく。


 太陽を覆っていた黒い雲が晴れ、鳴り響いていた爆音がすっかり聞こえなくなった頃、そこには真っ白な身体を黒く焦がされたピティーの姿があった。しかし、そんな状態になってもなお、ピティーは倒れることはない。その瞳にエンキに対する信仰心を燃やし、半ば炭と化した身体を引きずりながら塔へと向かって行く。


 そんなピティーの前に、立ち塞がる影が三つ。一つは、髪の毛を逆立たせ、全身に雷を迸らせた、まさに雷神と呼ぶに相応しい立ち姿のレイニー。そして、後の二人は⋯⋯ピティーが最も嫌う、シャーリーとサラであった。


「二人はどうする? 私的には殺した方がいいと思う。」


「⋯⋯怒りで暴走しているのかと思ったら、案外喋れるんだな。」


「そうだね、レレさんがちょうど良いところで私の感情をコントロールしてくれてるから。でも、この状態だと思考が物騒になるみたいで、先程からこいつを殺したくて堪らない。」


「いや、こいつを殺すことに関してはオレも賛成なんだがよ。その前に、サラの意見も聞きてえんだ。⋯⋯サラ、お前はこいつをどうしたい?」


 思考が若干危ない方にイってらっしゃるレイニーのことは一旦放置し、シャーリーはサラに話を振った。そのサラはといえば、先程から無言でピティーの顔をじっと見つめていた。既に満身創痍の身体で、戦うという選択肢を取ることが出来ないピティーは、ただその視線を逸らさずに受け止めることしか出来なかった。


『⋯⋯殺すことには反対しない。でも、殺す前に、少し、ピティーと話がしたい。』


「⋯⋯そうか。まあ、何となくそんな気はしてたぜ。あの時、いくらオレを守りながらとはいえ、散々特訓してきたお前がピティーに遅れをとるとは思いにくかったからな。お前の思い、全部こいつにぶちまけてやれ。」


 シャーリーはそう言うと、目をギラギラさせて今にもピティーを襲わんとしていたレイニーを押さえつけ、少し離れた場所へと下がった。それを見て、サラは『ありがと』とシャーリーに伝え、再びピティーに正面から向き合う。そして、サラは自分の額をピティーの額へとくっつけた。


『あー、あー、マイクテス、マイクテス。⋯⋯ピティー、聞こえてる?』


 唐突にサラの思念が伝わってきたピティーは、思わず目を見開く。そのピティーの反応を見て、サラは若干表情を緩めた。


『良かった⋯⋯。その感じだと、成功したみたいだね。貴女が私は、元々は同じエンキに創られた人形。限りなく似た波長の持ち主同士なら、思念を伝えることも出来るんじゃないかって思ったの。⋯⋯ねえ、私、貴女にずっと言いたかったことがあるの。』


 ピティーとしては、サラが自分に何を思っていようが、別にどうでも良かった。しかし、抵抗するまでの理由はなく、身体も言うことを聞かないので、成り行きに任せ、黙ってサラの思念を受け取ることにした。


『貴女は私のことを、「失敗作」だと、何度もそう言ってきた。実際、私は、言葉を喋ることは出来ないし、貴女にくらべたら身体だってちんちくりん。自分でもそう思う。でも⋯⋯私には、私のことを必要としてくれる、大事な相棒だと言ってくれる、シャーリーが居る。シャーリーが私を必要としてくれるってことだけで、私は自分のことを「失敗作」だと思うことはなくなったの。⋯⋯ねえ、ピティー。貴女には、貴女を必要としてくれている人は本当にいるの?』


 ピティーは、一瞬サラが自分に何を問いかけたのか理解出来なかった。しかし、ようやくその問いの意味を理解し、何を馬鹿なことを⋯⋯! と言い返そうとしたピティーであったが、途中で声が詰まってしまった。

 その時、ピティーは思ってしまったのだ。エンキは、自分のことを必要としてくれているのかと。実際、今までエンキがピティーにそのようなことを言ったことはなかった。エンキが自分のことを褒めてくれる時は、いつも『必要』ではなく、『便利』だという言葉を使っていた。


 ピティーの中にあった、エンキに対する狂信的とも呼べる信仰心に、僅かなほころびが走った。それと同時に、それまでその信仰心によって辛うじて保たれていた意識が、闇の中へと落ちていく。


 地面に倒れる寸前、ピティーは、シャーリーがサラの傍に駆け寄る様子を見た。その光景は、何故かとても眩しく、そしてうらやましく思えたのだった。

 


次回、いよいよ最後の守護者!!

シックちゃん編が始まります!!

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