シャーロット・ノックスは面倒くさい
ホントただタイトル通りの話です。この子面倒くせえ⋯⋯。
《シャーロット・ノックス》
シャーロットが目を開くと、そこには眩しそうに目を細めるフローラの姿があった。「フローラ、無事だったのか!」と口を開きかけ、途中で彼女の隣に見覚えのない縦巻きロールの髪型をした女性がいることに気付き、口を閉じた。よく見ると、クリスタやクロ、ナナやムイムイなど他のメンバーも揃ってシャーロット含めた三人を見つめている。シャーロットが知っている人物でここに居ないのは、あとリリィとロロだったか? 誰かの存在を忘れている気がするが思い出せない。
いや、そんなことよりも問題なのはフローラの隣の居る縦巻きロール⋯⋯いや、ドリル女のことだ。彼女は一体誰なのだ? フローラと共にエンキを倒そうと誓ったあの日以来、フローラの隣は自分の定位置だったと自負している。
「シャーロット!? どうしたんですかその怪我は!! 足が一本なくなっているし、指も折れてるじゃないですか!!」
「この程度の怪我は必要経費なのだよ。そんな些細なことよりも、シャーロット・ノックスにそこの見知らぬ令嬢について紹介してはくれないかね?」
仲間が傷つくことを嫌うフローラが自分の怪我に反応することは既に想定済みだった。それでも心配して声をかけてくれたという事実に頬が緩みそうになるのを自慢の鋼の精神力でこらえ、最も気になっている疑問をフローラへとぶつける。
「はあ⋯⋯シャーロットはそうやって話を逸らすのがホント得意ですよね。まあでも紹介はするつもりだったのでいいですけど。えー、彼女はペトラ。私がゲームに参加したとき、私のことを守ってくれた親友です。」
「はじめまして。わたくし、ペトラ・ルドリアーナと申しますわ。この度黄泉から友を救いに馳せ参じた次第でございますの。よろしくお願いいたしますわ。」
⋯⋯薄々そのような予感はしていた。何故フローラがもう死んだと言っていた彼女がここにいるのかは謎だが、おおかたこのような人智を越えた事象は、何らかの『ギフト』により引き起こされたモノであろうと想像できる。
ペトラは、笑顔でこちらに手を差し出してきている。嗚呼、自分がこれからとるべき行動は、恐らく彼女の手をとり、同じような笑みを浮かべながら「こちらこそよろしく」と言うことなのだろう。
しかし、シャーロットはその手をとることが出来なかった。なぜなら、その手をとってしまえば、彼女がフローラの親友であると認めてしまうと思ったから。親友という存在は、一人しか成り得ないモノだとシャーロットは思っている。だからこそ、そこだけは譲れない。
フローラの一番の盟友であり、戦友であり、親友であるのはこのシャーロット・ノックスだ。フローラを喜ばせることも、怒らせることも、悲しませることも、楽しませることも、一番はシャーロット・ノックスでありたいのだ。
だから、シャーロット・ノックスはあえて憎たらしげな笑みを浮かべ、こう言うのだ。
「シャーロット・ノックスだ。君がどこの誰かは知らないが、ぽっと出が仲間面して話しかけないでくれないかね? 吐き気がするのだよ。」
ああ、なんて面倒くさい⋯⋯。自分でもそう思う。しかし、自分はこんな自分を変えるつもりは全くない。最期の瞬間まで、私は私らしく生き続けるだけだ。
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フローラは困惑していた。シャーロットとペトラ、自分の至らない点を指摘し、支えてくれる頼もしいこの二人なら、絶対に気が合うと思っていた。
しかし、現実には今、シャーロットがペトラの握手を拒否し、そればかりか彼女に暴言を吐く始末。ペトラは手を差し出したまま硬直し、フローラも予想外の事態に言葉を発することさえ出来ない。
「おい、シャーロット!! なに馬鹿なことを言ってんだ!! アンタもフローラから話聞いてペトラのことは知ってるだろ!! 確かに死んだって話だったけれどそれでもフローラの恩人に対してその口の利き方⋯⋯ってええ!? なんでアンタ死んだはずなのにここにいるの!?」
「え、お母ちゃん今更気付いたの!? ちなみに私も死んでるよ☆ でもホウライちゃんに生き返らせてもらったの!! いえーい!!」
「なにそれ詳しく。」
メアリとラモーネの親子は勝手に盛り上がって勝手に話を始めてしまったが、シャーロットとペトラの間の空気は相変わらず最悪なままだ。
「⋯⋯あら? フローラの話によれば、貴女はチームの参謀的な役目を果たしているらしいですけれど、初対面の相手にきちんと礼を尽くせないような方が本当に参謀としてやっていけているのかしら?」
「貴様こそ、その巫山戯た髪型はなんだ? ここはパーティ会場ではないのだぞ?」
元々強気なところのあるペトラがシャーロットの挑発に乗り、さらにシャーロットがそれに返す。
シャーロットが言い返したところまではまだ困惑してどうすればいいか悩んでいたフローラだったが、シャーロットのある一言がフローラの琴線に触れた。
パシィ!! という乾いた音と共に静寂が走る。気付いた時には、フローラは平手でシャーロットの頬をぶっていた。
「⋯⋯訂正してください。ペトラの髪は、世界一素晴らしい髪です。そんな彼女にあこがれ、私も同じ髪型にしたのです。もし、訂正してくれないなら⋯⋯シャーロット、私は、貴女を嫌わなければならない。」
フローラは、ペトラの髪型を馬鹿にされた怒りに震えながらも、シャーロットを嫌いたくはなかったので、必死に怒りを抑え、辛うじてそう口にした。
しかし、シャーロットは、一瞬少し寂しそうな顔を見せたかと思ったが、すぐ元の嫌みな表情に戻り、ただ一言こう言った。
「⋯⋯そうか。君は彼女を選ぶのだな。ならば、君は私を嫌い給え。」
そして、そのままシャーロットはフローラに背中を向け、離れていく。フローラは、その背中に声をかけることが出来ず、その後、しばらくの間二人が視線を交わすことはなかった。
次回、シャーリーとサラside。
ピティーとの決戦です。




