はじける臓腑はイチゴムースのように
フライ戦、いよいよ決着。
後半少しグロテスクな描写注意です。
《シャーロット&ラモーネside》
シャーロットを含めたノックス家三人の目の前では、フライが相変わらずうめき声を上げながらうずくまっている。そんなフライの状態にまだついていけていないラモーネとメアリに対し、シャーロットは既に自分の中で答えを出していたため、至極冷静にこんな発言をした。
「⋯⋯よし。フライが身動きの取れない今が絶好のチャンスだ。母さん、奴の口にプリンを突っ込んで窒息死させたまえ。」
「分かった!! ⋯⋯って、ちょっと待って!! まだアンタからこの状況の説明受けてないんだけれど!?」
シャーロットは、説明を求めてくるラモーネに対しはあ⋯⋯と大きなため息をつき、呆れたような視線を向けた。
「探偵がいつも自分の推理を得意げに話して聞かせるモノだとは思わない方がいいぞ? 時には迅速な犯人の身柄確保が必要な時もある。犯人が推理の途中に逆上して襲いかかってくる可能性も無きにしも非ずなのだからな。何故推理小説に出てくる探偵は、最初から決定的な証拠を叩きつけず回りくどい言い方でしか持論を明かさないのか? 全くもって非合理的かつ現実性に欠けると、シャーロット・ノックスはあの手の小説を読む度いつも思うのだよ。いや、物語の展開上仕方ないと言われればそれまでの話、なのだがね? つまり、シャーロット・ノックスが何を言いたいのかというと⋯⋯説明するのが面倒なのだよ。」
「あんなに長々と話しといて結局理由それなのかよ!? アンタが一番回りくどいわ!!」
ラモーネは声を荒げ、シャーロットにそうツッコミを入れるが、その頃にはシャーロットは既にこの話は終わりと言わんばかりに、無表情でメアリの頬をもにゅもにゅと掌で挟んでその感触を楽しんでいた。頬を触られている方のメアリは、気持ちよさそうに目を閉じてふにゃ~っとだらしなく口角を下げている。
自分の娘二人の微笑ましい光景に、思わず目を細めるラモーネ。この時点で、ラモーネはシャーロットから詳しい説明を聞くことは諦めた。全部終わったらしっかり放して貰おうと心に決め、フライとの決着をつける決意を固める。
しかし、そう思いフライがうずくまっていた場所を見ると、そこには頭を押さえながらも何とか立ち上がり、こちらを睨み付けているフライの姿があった。
「ああ、母さんがこのシャーロット・ノックスに説明など求めるから、奴が立ち直ってしまったではないか!! 妹よ、この愚かな母を共に罵倒しようではないか!! ばーかばーか。」
「ばーかばーか!」
「ねえ、母さん泣いていい!?」
娘二人から理不尽な罵倒を受け、先程細めた目から今度は涙を流すラモーネ。ノックス家がそんな三文芝居を繰り広げている間も、フライはずっと三人を睨み続けていた。
「お、オレが⋯⋯フライを、守る!! フライを泣かせる奴らは、絶対、許さない⋯⋯。」
「⋯⋯ほう? やはり、貴様はイラフの方だったか。何故貴様は、そこまでフライを守ろうとするのだ?」
流石の切り替えの早さで、一瞬で真剣な表情に戻ったシャーロットが、フライ⋯⋯いや、イラフへとそう問いかける。その問いかけに、イラフは途切れ途切れの言葉でこう答えた。
「わか、らない⋯⋯。理由は、ない。オレは、自分が何で産まれたのかも、自分が何者なのかも、覚えて、いない⋯⋯。それでも、フライが、オレを必要としていることは分かるから⋯⋯。オレが、フライのことを大好きだってことは分かるから⋯⋯。だから、アイツを喜ばせるために、オレは、お前ラを、殺スんだ。アイツは、紅い血を、見ると、落ち着くカラ⋯⋯。そうすることで、イキテイル、ことヲ、実感デキルから⋯⋯。」
だんだんと歪になっていくイラフの声に、シャーロットは、フライとイラフ、二人の自我が崩壊しかけているのを悟った。その理由は、同じくシックに追いかけられ、その鼻歌に恐怖を感じた経験から、何となく分かる。しかし、彼女がここまで心を乱されているのは、メアリのギフト⋯⋯『歌って踊って皆を楽しませる』能力が、普通の歌よりもより強烈な精神作用を与えたのではないかと思っている。実際、シャーロットもかなり心を乱されたが、自分の妹の歌だという安心感が、その作用を和らげてくれた。
イラフが、ふらつく足でこちらへ向かってくる。シャーロットは、そんな彼女の姿を真正面から見つめ、一言こう告げた。
「⋯⋯イラフ。君の、大事な者を守りたいというその気持ち、このシャーロット・ノックスは尊重する。しかし⋯⋯私にも、守りたい大事な者たちが居るのだ。」
直後、イラフの頭上から、巨大なプリンが落下してきて彼女を押しつぶす。そして、イラフを包み込んだプリンは、素早くその形を液体状に変化させ、イラフの鼻と口から体内に入り込み、体内で再び元の巨大なプリンへと姿を変える。
シャーロットの指示に従い、その通りにしたラモーネは、目の前の光景に思わず口を押さえ、シャーロットはそっとメアリの目を手で隠す。唯一人、目を逸らさずイラフの身体がはじけ飛び、黄色いプリンが真っ赤に染まるのを見ていたシャーロットは、その身体が光に包まれ消える寸前、ぽつりとこう呟いた。
「⋯⋯来世でもし君と会えたら、その時は、こんな勝ち方をしたことを謝ろう。君は、間違いなく、強者だった。そのことは、この私が保証する。だから、今は安らかに⋯⋯」
フライ戦は色々迷ったんですがこんな感じの終わり方になりました。
少し後味が悪いと感じる方もいるかもしれませんが、いつでもどんでん返しで状況を一変出来るフライに関しては、抵抗できない手段で即死させるのが最適解なのです。
次回は、フローラ達とノックス家三人が再会。今回後味悪かった分若干ほのぼの出来るかと思います。
それと、もしかしたらシャーリー&サラsideの話も挟むかもです。




