二人で一人
眠いです⋯⋯。あと、長ぇ!!
あ、メロディ・メアリのキャラ紹介はさんでおきますね。
メロディ・メアリ 2nd stage登場
ギフト⋯⋯『歌って踊って皆を楽しませる』
《シャーロット&ラモーネside》
「え、どうしてあの子急にうずくまっちゃったの!? わわわ、私の歌、もしかして嫌いだった?」
突然目の前でうずくまってしまったフライに動揺し、わちゃわちゃと腕を振り回すメアリ。そんなメアリの目の前で、突然巨大なプリンの山が崩壊する。
「きゃっ!? こ、今度は何? まさか⋯⋯おばけ!? わわ、私おばけなんか怖くないからね!! おばけなんてなーいさ♪ おばけなんてうーそさ♪ フンフフフーン♪」
一度は驚いた様子をみせたメアリだったが、落ち着くために歌を歌い出したらすっかりそちらに夢中になってしまったメアリ。そして、メアリが歌に夢中になっている間にプリンの山の中からその姿を現したのは、シャーロットを背負ったラモーネだった。
「はーっ!! し、死ぬかと思った⋯⋯。」
「自分が出したプリンで死ぬという間抜けな最期を迎えないで良かったな母さん。⋯⋯おや、そこに居るのは⋯⋯?」
最初にメアリに気が付いたのはシャーロットだった。その声につられ、シャーロットもメアリを見る。片方だけ残された瞳が大きく見開かれ、ラモーネはぽつりとその名前を口に出した。
「メアリ⋯⋯? 貴女、もしかして、メアリなの? そうでしょ!?」
そして、そのラモーネの呼びかけに、歌に夢中になっていたメアリもようやく二人の出現に気付き、ぱあっと瞳を輝かせた。
「え、私の名前を知ってるってことは⋯⋯もしかして、貴女達が私のお母さんとお姉ちゃん!? うわー、二人とも凄い可愛い!! さすが、このメアリちゃんの家族だね☆ ⋯⋯で、どっちがお母さんでどっちがお姉ちゃん?」
「⋯⋯君は、どちらが母親だと思うかね?」
初めて会う自分の妹のテンションの高さに若干戸惑いつつも、シャーロットは愉快なことになりそうな予感を感じてメアリにそう尋ねた。ラモーネが必死にメアリに目で訴える中、メアリは三度ほどシャーロットとラモーネを見比べ、うーんと頭を捻った後、ようやく結論を出した。
「多分、背負われてるあなた!! だっておっぱい大きいし!!」
その瞬間、ラモーネの瞳からはハイライトが消え、シャーロットは得意げにニヤリと口角を上げた。そして、満足そうな表情のまま、改めてメアリに自己紹介をする。
「残念だが、胸の大きい方が君の姉、シャーロット・ノックスだ。そしてこちらの色々と小さくなってしまった方が君の母、ラモーネ・ノックス。メアリ・ノックス、我が親愛なる妹よ。君とは仲良くできそうだ。」
「ホント!? わーい、やったー☆ お姉ちゃんいい人だね~!!」
ノックス家の感動(?)の対面がひとしきり終わったところで、シャーロットはうずくまっているフライの方を見る。フライがどこに居るかは、プリンから出る前に自らのギフトで確認済みだったが、このような状態になっているとは想像していなかった。シャーロットは、未だどんよりと落ち込んでいる様子のラモーネは無視して、メアリに話を聞くことにする。
「ところで妹よ。あそこにうずくまっているアイツはいつからあの状況なのかね?」
「え、あの子のこと? そうそう!! それがね、私が歌い出したら急にああなっちゃったの!! あの子歌嫌いだったのかな⋯⋯。」
メアリはそう言うとしゅんと分かりやすく肩を落とす。シャーロットは感情豊かな妹のことを面白い子だなと思いつつ、フライに何が起こってこうなったのかを冷静に推理する。
(さて⋯⋯フライは何故このような状態になっているのだ? 単純に考えれば、メアリの歌が原因だろうが⋯⋯。このシャーロット・ノックスの妹の歌が下手なはずもなく、仮に歌が気に入らなくて気分を害しているのだとしたら非常に腹立たしい。やはり、ここはメアリではなく、歌自体に何らかのトラウマを抱いている、その可能性が高いのではないか?)
前半の推理は最早推理とすら呼べない、完全に私情を挟んだモノであったが、シャーロットがその結論に至ったのには、歌がトラウマになるような出来事を、シャーロット自身が経験した過去があったからだった。シャーロットは、その推理をさらに確信へと変えるために、メアリにこう頼み込んだ。
「妹よ、一つ、子守歌を歌ってくれないかね?」
「え!? お姉ちゃん、もうおねむの時間なの!?」
「そういうわけではなくてだね、少し試したいことがあるのだよ。さあ、歌ってくれ。」
突然の子守歌のリクエストに、首をかしげていたメアリではあったが、姉からの頼み事が嬉しかったのか、ノリノリで子守歌を歌い始めるメアリ。これには、ようやく立ち直ったラモーネも思わず微妙な顔をしたが、そんなラモーネ以上の反応を示した者が居た。
「ああ、あああああ!? やめて、その歌を⋯⋯!! それ以上聞かせないでぇぇぇ!!」
そう叫び声を上げるのは、いつの間にかイラフから元に戻ってしまっているフライであった。突然の絶叫に驚くメアリとラモーネ。だが、シャーロットだけは、その額に少しだけ冷や汗を流しながらも、どこか納得した表情を浮かべていた。
「やはりか⋯⋯。フライ、貴様も、同じだったのだな。」
「ちょっとシャーロット、アンタこれどういうことなの? 母さんにも分かるように説明プリーズ!!」
ラモーネが説明を求めてきたが、シャーロットは答えることはなかった。何も語ることなく、じっとフライを見つめている。シャーロットは、自らと同じ体験をしたであろうフライが、あの悪夢をどうやって乗り越えたのか、そのことだけに思いをはせていた。
〇〇〇〇〇
フライは、この塔の守護者となる以前は、シャーロットたちと同じく、エンキのゲームの参加者であった。彼女が参加したゲームは、『鬼ごっこ』。これは、奇しくもシャーロットが参加したゲームの内容と全くと言っていいほど同じであった。
その内容は、単純明快。『鬼』役に命じられた、塔の守護者の一人のシック、彼女から最後まで逃げ切ることだった。制限時間は太陽が昇ってから沈むまでの間。逃げ切ることが出来た者は、全員生きて帰ることが出来る。これだけ聞けば、生存者はかなりいるのではないかと思うかもしれない。
しかし、このゲームは過去二回行われたが、生存者はそれぞれ一人ずつしかいなかった。その内の一人がシャーロットであり、そしてもう一人が⋯⋯フライであった。
フライは、迫り来る魔の手から必死で逃げていた。エンキから時折入る通信により、参加者がもう後二人しかいないことは分かっている。元々身体能力があまり高くないフライがここまで逃げ切ることが出来たのは、彼女の持つ『あらゆるモノをひっくり返す』ギフトの特異さと、そしてもう一つ、彼女をここまで助けてくれた参加者の存在が大きかった。
「おい、大丈夫かフライ。太陽が沈むまでもうちょいだ! そこまで気合いで粘れ!!」
「はあ、はあ⋯⋯わ、分かったよ、イラフ⋯⋯。」
フライをここまで助けてくれたイラフ。男勝りでお節介な性格の彼女は、見るからに頼りなさそうなフライを心配してここまで守ってくれたのだ。イラフが居なければ、絶対にここまでフライが生き残ることはなかった。フライは、イラフに心から感謝していた。
だが、そんな二人にもついに魔の手が迫り来ようとしていた。唐突に、二人の耳に、どこかで聞いたことがあるようなメロディーの鼻歌が聞こえてくる。フライが、そのメロディーが子守歌だと気付いた時には、そいつがもう目の前に現れていた。
その少女は、黒いナース服を着て、口には大きな黒いマスクをつけていた。そのため、少女がどんな表情を浮かべているかは分からない。だが、くまが目立つ目の上の眉毛は、申し訳なさそうに下げられていた。
「ごめんね⋯⋯ごめんね⋯⋯。本当は、こんなことしたくないんだけれど、これも仕事だから⋯⋯。」
そう一言だけ告げ、シックはぺこりと頭を下げる。その瞬間、イラフが、「何か来るぞ!!」とフライに忠告した。イラフのギフトは、『目が凄くいい』という能力で、この時イラフは、シックの息から放出されたウイルスを目視していたのだ。
「え!? じゃ、じゃあ、とりあえず⋯⋯空気の流れを、ひっくり返すよ⋯⋯。」
フライは、条件反射で最適解を導き出し、空気ごとウイルスをシックに送り返した。シックは、自らが出したウイルスが自分に向ってきたことに驚き、目を丸くする。
「けほっ、けほっ⋯⋯。あ、貴女、すごいね、そのギフト⋯⋯。便利そう⋯⋯。あ、そうだ。私一人じゃあ正直貴女たちを捕まえられそうにないし、だから⋯⋯。」
シックは、そう言っておもむろにマスクを外す。その下から、小さな桃色の唇が顔を出した。シックは、ゆっくりとその唇に自分の指を近づけ、ちゅっと音を立ててフライへと投げキッスを送る。
「『恋の病』⋯⋯。感染源は、私のキッス⋯⋯。さあ、私のことを、好きになって⋯⋯?」
⋯⋯そこから先のことは、ほとんど覚えていない。ただ、ふわふわした感覚と共に、どこかでイラフの悲鳴が聞こえたような気がした。
そして、フライが正気に戻ったその時、彼女の目の前には、血を流して倒れるイラフの姿、そして、返り血を浴びて真っ赤に染まった自分の服。その二つが意味することを悟ったフライは、狂ったように叫び声をあげた。
『お前、やっぱり使えないなぁ~。折角役立ちそうな道具を捕まえたのに、これじゃあ使い物にならないじゃないか。』
「ご、ごめんなさい⋯⋯。でも、もう私、自分で誰かを殺すのが嫌で⋯⋯。」
『は? 何馬鹿な事言ってるの? お前なんか誰かを殺すためだけに生まれてきた災害じゃないか。はあ、もういいよ。折角手に入れた使えそうな道具、ここで捨てるのはもったいないから⋯⋯こいつが壊れてしまわないよう、支える魂を与えよう。さっき死んだこいつの魂を入れておけば、こいつも満足だろ。』
⋯⋯こうして、フライは、イラフという二つ目の人格をその身体に宿すこととなったのであった。今の彼女は二人で一人。その魂は、どちらが欠けてもいけない。イラフは、フライを守り、その魂を支えるために存在し、フライは、彼女に支えらえて生きている。
その不安定な魂のバランスが、今、まさに崩壊の時を迎えようとしていた。
次回、いよいよフライ戦決着!!
てか、本当は今回終わるはずだったのに予想外に長く⋯⋯どうしてこうなった。




