「わたしまけましたわ」
眠い
《シャーリー&ラモーネside》
『さて、これからどうお前を痛めつけてやろうかな? そうだ、指を一本一本へし折ってやろう。苦痛に喘ぐ表情を、真っ赤な血を、オレとフライに魅せてくれよ!』
イラフは、シャーロットの首根っこを掴んだ状態で、嫌らしい笑みを浮かべた顔を近づける。そんなイラフに対し、シャーロットは僅かに顔をしかめてこう返した。
「顔が近い。暑苦しいから離れてくれないか?」
イラフのこめかみに青筋が浮かぶ。次の瞬間、イラフは躊躇なくシャーロットの右手の中指をへし折っていた。シャーロットは一瞬眉間に皺を寄せるも、声を上げることはない。
「いい加減に、私の娘を放せぇぇぇ!!」
しかし、娘が傷つけられるのを見たラモーネは、叫び声を上げながら二人の元へと走り出す。そんなラモーネに対し、イラフは顔をそちらに向けることすらせず、人差し指をくいっと曲げる。それだけで、反転した重力がラモーネを天井へと叩きつけ、頭を強打したラモーネは一時的に意識を飛ばす。
『さて、邪魔者もいなくなったところで、楽しいショーの再開といこうぜ。さあ、お前はいつまでそのすまし顔でいられるかな?』
そして、イラフは再びシャーロットの指を一本ずつ、わざと時間をかけて反応を見つつ折っていく。しかし、シャーロットは全く声を上げなかった。それどころか、最早眉間に皺が寄ることもない。あまりにも無反応なシャーロットに、しびれを切らしたイラフは唾を飛ばしながらシャーロットに怒鳴りかかる。
『おいコラ!! 何で泣き叫ばねえんだ!! 右手の指は全部折った。左手の指も小指以外は全部だ!! それで痛くねえわけがねえだろ!!』
「ああ、勿論死ぬほど痛いさ。しかし、何故このシャーロット・ノックスがわざわざ貴様の喜ぶことをする必要がある?」
興奮するイラフに、シャーロットは冷静に答える。予想外の返答だったのか、目を丸くして固まるイラフに、シャーロットはさらにこう続けた。
「それにだ。これから貴様を倒し、神を殺そうとしているのだ。これしきの痛みで泣き叫ぶようでは、話にならないだろう?」
イラフは、信じられないモノを見る目でシャーロットの顔を眺める。そして、シャーロットが強がっているわけではなく、本心からそう言っているのだということを表情から悟ったイラフの顔にはまず怒りが浮かび、しかしすぐに呆れへと変わり、最後には嘲笑だけが残った。
『ハッハッハ!! こいつは傑作だね!! アンタ、今の状況本当に分かってるぅ? 今アンタはさっ! オレとフライに、手も足も出せずにっ!! こうして無力にぶら下がってるのっ!! 今オレが少しでも力を加えたら、アンタの首なんてポキッと折れちゃうんだぜ? でもそれをしないのは、一瞬で苦しみが終わったらつまらないから!! 今からお前の腕を両方とも切り落としてその腕を口の中に突っ込んで独創的な活け花を完成させてもいいんだぜ? それともお前の腹から腸を引きずり出してその腸で蝶々結びしてやろうか。お前が「わたしまけましたわ」って泣いて命乞いするまで死なない程度に何度だって痛めつけてやるよぉ!!』
かっと限界まで見開いた目を血走らせ、口から涎を垂らしながら、狂気に満ちた表情でシャーロットに迫るイラフ。そんな彼女に冷ややかな目を向け、シャーロットは「三つだ」と告げた。
「貴様は、三つ大きな思い違いをしている。まず、シャーロット・ノックスは自らのことを『わたし』と形容することは滅多にない。したがって、『わたしまけましたわ』などという安っぽい回文を使うことはない。次に、仮にさっき貴様が言ったことをされたとしても、我らは決して屈さない。勿論このシャーロット・ノックスもしかりだ。最後に⋯⋯」
シャーロットは、首を上に動かす。その動きにつられ、イラフが目にしたのは、怒りの形相で飛びかかってくるラモーネの姿だった。
「⋯⋯ノックス家は皆、諦めが悪いことで有名なのだよ。」
「娘から、離れろぉぉぉぉぉ!!!!!」
ラモーネの咆哮が部屋中に響く。そのあまりの迫力に、イラフはついギフトの発動が遅れてしまう。ラモーネは、シャーロットの身体を抱き寄せると同時に、イラフの身体を蹴り飛ばした。すかさず受け身をとったイラフだったが、そこへ無数の巨大なプリンが頭上から降り注ぐ。
「一個で駄目なら、何個でも!! 私の特製プリン、とくと味わいやがれ!!」
イラフの耳には、プリンに埋もれながらも、ラモーネがそう叫んでいる声が聞こえてきた。イラフも、まさか侵入者がここまでとは思ってなかった。そう、ここまで⋯⋯
(まさか、こいつらがここまで馬鹿だとはなぁぁぁ!!!!)
イラフは、おもむろに自らのギフトを発動する。『あらゆるモノをひっくり返す』能力でひっくり返したのは、自らとシャーロットたちの立つ座標軸だ。それにより、イラフは一瞬でプリンの山の中から脱出することに成功する。彼女の目の前には、先程まで自分が埋まっていたプリンの山。イラフは、部屋のほぼ半分を埋め尽くすプリンを目の前に、高らかに笑い声を上げた。
『ハッハッハ!! おい、どんな気分だ? 自慢のプリントやらに埋もれて死ぬってのは!! 聞かせてくれよ、なあ!! あとで本にして売ってやるからさあっ!!! ハハハハハ!! ⋯⋯って、ん?』
その時、イラフは奇妙なモノを目撃した。それは、天井近くに突如現れた、光を放つ渦のようなモノ。そこから、うんしょ、うんしょ!! っという呑気なかけ声と共に何者かが出てこようとしている。
そして、数秒ほどかけ、ようやくその人物はイラフの前に全身をさらけ出した。ギンガムチェックのスカートに、胸元に大きなリボンの付いたトップス。小さなハットをちょこんと頭に乗せたその少女は、目の横でピースサインを作り、反対の手でマイクを天高く掲げる決めポーズと共に、こう名乗りを上げたのだった。
「さあ、皆お待たせ!! スーパーアイドル、メロディ・メアリの復活コンサートの始まりだよ☆ じゃあ早速だけどとりあえず⋯⋯私の歌を、聞けーー☆」
その宣言通り、メアリと名乗った少女は、突然目の前で歌いながらダンスを踊り始めた。しかし、イラフは突然の乱入者に対応することが出来ない。彼女の頭の中では、今メアリの歌声と共に、思い出したくもない鼻歌が蘇ってきていたのだった。
次回、タイトルは未定⋯⋯ってか、フライ(イラフ)戦書くの大変⋯⋯。
でも頑張ります、私。次回はノックス家大集合が見れるはず。お楽しみに。




