『神へと至る扉』
前半はフローラたち、後半はシックとリリィの楽しいすごろくタイムです。
前半と後半の振れ幅が多すぎてめまいするわ。
フローラ達が落ち着いたところで、クリスタは声をかけ、先程ここにやって来た四人をとある場所に案内することにした。クロが押す車椅子の後ろをついていく、フローラ含めた四人。少し歩いたところで、その物体は突然目に飛び込んできた。
「何ですか、あれは。巨大な⋯⋯扉?」
「はい、扉です。しかし、唯の扉じゃありません。そのことは、近くで見たらすぐに分かりますよ。」
クリスタのその言葉の通り、近くで見たその扉を一言で表すとしたら『異様』であった。まず、その大きさ。巨人のために作られた扉であるかのような巨大さだ。ざっと見ただけでフローラの身長五人ぶんくらいの高さがある。
さらに異様な点は、その扉が何もない空間にポツンと置かれており、扉の周りを歩いて一周することが出来てしまうということだ。
「こ、この扉、一体何のためにあるんだべ?」
クララがそう尋ねるのも無理はないだろう。実際、フローラやペトラも内心そう思っていた。皆の頭にクエスチョンマークが浮かぶ中で、一足先にこの場所に飛ばされ、この扉も事前に見ていたクリスタが、自分なりの推論を話し始めた。
「私が思うに、この扉は、エンキが居る場所へ行くための扉だと思うのです。その証拠に⋯⋯ほら、扉の上の方を見てください。」
クリスタに指示されるがままに、視力を奪われているナナ以外の全員が視線を上に向ける。すると、そこには五つの宝玉が、五芒星の形になるように置かれていた。そして、そのうちの三つは、淡い光を放っている。皆の視線がその五つの宝玉に向けられていることを感じたクリスタは、再び話し出す。
「今、三つの宝玉が光っているのが見えていますよね? この宝石、私たちがここに来て扉を見た時は、二つしか光っていませんでした。時間的にも、フローラ達がここにやって来たのと同時に、三つ目の宝玉が光ったのだと思います。その点を考慮して、この宝玉が何を意味するか、私なりに考えた結果、この宝玉の数は、私たちが戦った、『塔の守護者の人数』を、そして、既に光っている宝玉は、『倒された守護者の人数』を表しているのではないかという結論に至りました。」
「ちょっと待ってくださいまし。仮にこの光っている宝玉が倒された守護者の人数を表しているとしたら、わたくし達と貴女たち以外に、もう一組ここに居ないとおかしいのではないかしら?」
クリスタの推論に、ペトラからの厳しい指摘が飛んでくる。何となく初めてペトラを見た時エンキに真っ先に突っかかっていたことを思い出し、ペトラらしいなぁ⋯⋯などと思っているフローラはさておき、クリスタは即座にその指摘に答えてみせた。
「確かに、その点に関しては怪しいところがあります。しかし、フローラを含めた貴女達が、守護者を倒しここに来た、それと同時にこの宝玉が光ったという事実がある以上、このタイミングの良さを偶然で片付けてしまうのは少々無理があると思うのです。少なくとも、『守護者を倒したこと』と『宝玉が光った』ことには何かしらの因果関係は存在する、これは疑いようのないことだと私は思います。」
今度は、ペトラもある程度は納得したのか、ツッコミを入れることはなかった。クリスタは、ふうっと一息つき、さらにこう持論を重ねた。
「私は、ゼロイチといい、フローラ達が倒したエイミーといい、何故彼女らが『守護者』と名乗るのか、ずっと疑問でした。しかし、今ようやく分かりました。彼女たちは、恐らく、この扉が開かれないように、塔に侵入してくる者たちからこの扉を守護していたのではないでしょうか? そして、彼女達が命がけで守る扉の先に何が居るかなど、その答えは一つしかありません。」
そこまでくると、もうクリスタの言いたいことは分かる。フローラは、その目に改めて決意の炎をたぎらせ、クリスタの言葉を継いだ。
「エンキ⋯⋯!! 待っていてください、すぐにあなたを殺してみせる!!」
―神へと至る扉、解除まで残り守護者二人⋯⋯。
▼▼▼▼▼
一方、こちらはその守護者の一人、シックが守護する殺風景な部屋。この部屋では、今まさに壮絶な戦闘が行われていた⋯⋯とかそんなことは全くなく、この部屋に飛ばされたリリィは今、シックとすごろく遊びの真っ最中だった。盤上では、シックの駒がリリィを大差で突き放し、既にゴール目前の位置まで近づいている。
このゲームに勝つことを既に放棄したリリィは、シックと世間話に興じることにした。賽を振り、出た目が小さいことに舌打ちしつつ、リリィは何気ない様子でシックに尋ねる。
「そういえばさぁ、シック以外にも守護者っているんだよね? 全部で何人居るの? ⋯⋯って、また一回休みぃ!? このすごろく、意地悪過ぎない!?」
「そうだね、私を含めて、全部で五人かな⋯⋯。あ、ちなみに私、最古参。あと、このすごろく、私の自作なの。気に入った?」
「マジ!? え、シック一番古株なわけ? 他の奴ら一体どんな奴なのさ。p.s.アンタのすごろく糞過ぎて逆に気に入った。」
「えへへ⋯⋯ありがとう。えとね、私の後に守護者になったのが、エイミーちゃんっていって、孤児の女の子。死にかけのところをエンキ様に救われたからめちゃくちゃ信仰心高いの。私は病気うつしちゃうから直接話したことないけど。次が⋯⋯えっと、確かフライちゃんかな? あの子は、私が処刑人をやらされたゲームの生き残り。⋯⋯私が処刑人をしたゲームは二回だけだけど、もう二度とやりたくないな。フライちゃんには、当然だけど怖がられているし⋯⋯。私の鼻歌聞くだけで、パニックになっちゃうみたいなの。悪いことしたな⋯⋯。」
「へ、へえ⋯⋯。ちなみに、どんな感じの鼻歌? 聞かせてよ。」
「いいよ⋯⋯? フンフンフフーン♪ フンフフーン♪⋯⋯みたいな感じ。私の故郷の子守歌なんだ。」
「子守歌ってどこも似たような感じじゃない? 私のところもそんな感じだったよ。」
「そうなんだ、知らなかった⋯⋯。あ、それで、話を戻すけど、次に来たのが、ゼロイチちゃんって子なの。あの子は、エンキ様のことめっちゃ怖がってる。あの子自分が一番強いって思ってたみたいだから、エンキ様に戦い挑んじゃってさ⋯⋯それで、案の定ぼろ負け。エンキ様の勝ちに賭けてた私はぼろ儲け。⋯⋯まあ、賭けの参加者、私一人だから自分でお金払ったけれどね。」
「おお⋯⋯。」
「で、最後に来たのが変態のスロウ。この子、ピティーさんに欲情して守護者に志願したヤベー奴なの⋯⋯。」
「⋯⋯守護者、ろくな奴がいないわね。アンタ含め⋯⋯。」
シックとリリィが、そんなたわいもない会話を繰り広げているうちに、シックの駒はゴール一つ前の『ふりだしに戻る』マスに止まり、シックは涙目で自分の駒をスタート地点へと戻すはめになったのだった。
「何この糞ゲー⋯⋯作ったの誰?」
「いや、アンタでしょ。」
次回、少しだけシャーリー&サラsideの話をしてから、シャーロット&ラモーネsideに移ります。
タイトルは未定。




