貴女にまたあえて良かった
タイトル予告詐欺してしまってすいません⋯⋯。思ったより長くなっちゃったんです。
ちなみに、クララの紹介書いときますね。
クララ 4th stage 登場
ギフト⋯⋯『演技がうまい』
フローラが目を覚ますと、そこはあちこちから光の柱が立ち上る何とも神秘的な空間だった。しかし、フローラはこの空間にエンキの手がかかった気配を感じ、吐き気を覚える。そんなフローラの目に、先程エンキの声でエイミーに自害を命令した少女の姿が映り、反射的に腰に提げていた剣へと手が伸びる。
「ひぃっ!? そ、そんな怖いものこっちに向けないでほしいべ! オラはアンタの敵なんかじゃないべ!!」
少女は、フローラが自分に敵意を向けていることを察したのか、顔の前でブンブンと激しく手を振りつつそんなことを言った。そのあたふたとした様子からは、先程エイミーの部屋で彼女が見せた冷酷な表情を見せるようにはとても思えない。そのギャップに混乱するフローラであったが、彼女の背中にナナが抱きついているのを見て、少なくとも危険な人物ではないと判断し、伸ばしていた手を引っ込めた。
「ああ、そういえばフローラにはまだ紹介していませんでしたわね。彼女の名前はクララ。『演技がうまい』というギフトの持ち主だそうですわ。先程、演じてみせたのは⋯⋯おそらくエンキでしょうか?」
「そ、そうだべ。オラ、死ぬ前にいっぺんエンキを演じたことがあったから、今回も出来るかなって思ってやってみたべ。あの状況ではアレが一番いい手段かなって思ったから⋯⋯。わ、我ながら良い演技が出来たと自画自賛してみたりするべ。」
いつの間にか傍にやって来ていたペトラが、その少女⋯⋯クララのことをフローラに告げる。それにより、先程感じたギャップの謎は分かったが、クララのある言葉に、今まであまり考えないようにしていた疑問と向き合うこととなった。
「そうだ、そもそも、どうしてペトラ達は今ここに居るのですか? ペトラ、貴女は確かに⋯⋯その、えっと⋯⋯。」
「構いませんわ、フローラ。貴女はわたくしが死んだはずだと言いたいのでしょう? ええ、その認識に間違いはありません。今ここに居るわたくしは、ある方に仮初めの命を与えられているだけに過ぎませんの。それは、ここにいるクララも同じ⋯⋯。」
「え⋯⋯? そ、それはどういう⋯⋯。」
ペトラの言っている言葉の意味がすぐには理解出来ずに、再びそう問いかけるフローラ。しかし、ペトラはその問いに答えることはせず、フローラの後方へと視線を向けた。
「⋯⋯それに関しては恐らく、わたくしが説明するよりも、彼女に任せた方が早いかもしれませんわね。」
フローラは、ペトラの視線につられ、後ろを振り向く。すると、そこには車椅子を押しながらこちらに向かってくるクリスタとクロの主従コンビと、その後ろをテケテケと付いてくるムイムイが居た。
「クリスタ!! 良かった、無事だったのですね。」
「フローラも、無事で何よりです。⋯⋯大変だったみたいですね、色々と。」
クリスタの膝の上には、既に開かれた本が置かれてあった。あれを読んで、フローラ達の身に何が起こったのかを読み取ったのだろう。そして、今新たにクリスタは二冊の本を生成した。表紙に書かれたタイトルから察するに、あれはペトラとクララの本だろう。クリスタは、高速で二冊の本を同時に読み進めていき、そのページがかなり後半にさしかかったところで、突然その手を止めた。直後、クリスタは驚愕の表情で二人を見上げ、思わずといった様子で声を漏らした。
「まさか⋯⋯! 本当にそんな『ギフト』があるなんて⋯⋯。」
あまりにも本に書かれた内容が衝撃的だったのか、ペトラ達を見たままじっと動かないクリスタにしびれを切らし、フローラは彼女を問い詰めた。
「クリスタ、貴女は一体その本から何を読み取ったのですか? 私に教えてください!」
フローラにそう言われたクリスタは、一瞬迷うようにその視線を再びペトラ達に向けたが、二人が無言で頷いたのを見て、ゆっくりとフローラにその本の中身を告げた。
そこに書かれていたのは、ホウライという少女が、そのギフト⋯⋯『死者に一日だけ命を与える』能力を使い、過去エンキの行ったゲームの死者を何人か蘇らせたという事実。そして、その中にペトラとクララの二人も居るということ。さらに、二人をフローラ達の元へと送ったのが、ジミナという少女であるという。
フローラは、ジミナの名前を聞いた時一瞬誰かを思い出せなかったが、すぐ自分たちの仲間の一人であることを思い出した。しかし、クリスタの話し方から察するに、彼女はどうやらジミナのことを忘れてしまっているのかもしれない。
「そうですか、じゃあ、やっぱりペトラ、貴女は死んでいるんですね⋯⋯。」
クリスタに存在を忘れられてしまっているジミナのことは正直可愛そうだと思ったが、申し訳ないがやはりそれよりもショックだったのはペトラが既に死んでいて、一日経てばまた二度と会えなくなってしまうという事実だった。
「⋯⋯ええ、ですが、わたくしは、もう一度貴女に会えた、それだけで十分幸せですわ。何も思い起こすことはありません。だから⋯⋯そんな顔して、泣かないでくださいませ。わたくしまで⋯⋯泣きたくなるじゃありませんの!」
フローラの目からこぼれる涙を見て、ペトラの目からも自然と涙があふれてきていた。どちらかともなく、無言で抱き合う二人。そんな二人をどこか羨ましそうに見つめ、クララはナナにそっと耳打ちした。
「お、オラ達もハグとかしたほうがいいだべか?」
「ううん、大丈夫⋯⋯。ボクは、こうしてクララの声を聴いているだけで、すごい落ち着くんだ。さっきまで目が見えなくなって不安だったのがウソだったみたいに⋯⋯。」
改めて死別した友と再び出会えた奇跡に感謝し、その喜びをかみしめあう四人。そんな四人を、クリスタとクロの二人は暖かい目で見つめていた。
「ねえクロお姉ちゃん! ナナちゃんに私の目玉くりぬいてあげてもいいかな? そうすればまた目が見えるよ!!」
「⋯⋯ムイムイ、それはちょっとやめておこうか。」
次回こそ、『神へと至る扉』の予定です。




